次の日からの体調は嘘みたいに絶好調で、なんとか乗り切ることができた。テストは決して絶好調ではなかったけど。
最終日のテストが終わったいうことは、蓮也に返事をもらうということだ。
「凌太、お疲れ。 今から空いてる?」
保健室に向かうところをクラスメイトに見られてから、蓮也が教室でも話しかけてくるようになった。
まぁテスト期間だったからそんなに多くは話してないけど。
「うん、空いてる」
「じゃあ昼飯食べてから公園行こ」
「わかった」
普段使わない頭を数日フルで使った疲労感がどっと襲ってきて、腹の虫が悲鳴をあげている。
下駄箱に一緒に向かうと「柊くんばいばい」と声をかけにくる女子たち。
「ばいばい」と返す蓮也にキャーと言って走って行った。漫画みたいなやつだなほんとに。
蓮也をじーっと見て「おモテになりますこと」と言うと「答えてあげられないけど」と言い放った。
心臓がキュッとなる。それは今から俺にも当てはまるじゃねぇかって。
靴を履き替えている蓮也に「チャリ取ってくるから校門で待ってて」と伝え、足早にチャリ置き場へと向かう。
チャリに鍵を刺していると「凌太先輩」と声を掛けられた。
振り向くと、中学のサッカー部の後輩だった。
「おお!林じゃん。お前もここ受けたんか」
「そうっす。凌太先輩が行くって聞いてたんで!!」
「俺もうサッカーしてないぞ」
中学の頃、球技の中で唯一できるサッカー部に入って、一応レギュラーにはいさせてもらっていた。
別に元から好きだったわけじゃないから、高校では帰宅部を選んでしまったけど。
「ええ!?なんでやってないんすか!俺も平井も堂山も先輩とサッカーできること楽しみにしてたんすよ」
「あいつらも同じなんか」
可愛がっていた後輩たちがみんな受かっていることを知って、嬉しくなる。
「そうっす。勉強頑張ったすよ」
「それはよかった」
「先輩もまたやりましょうよ!!」
俺は男にモテてどうすんだよ。しかも熱血!みたいな感じの。
後輩は大好きだし悪い気はしないけど、サッカーをする気はもうない。そんなモチベーションがないからだ。
くまライフを読んでポテチを食っているのが俺には一番合っている。
「ダメダメ。俺はもうやんないって決めてんの」
「なんでっすかー」
チャリを押して校門へと歩く俺に、林はずっとついてくる。
歩いて来た俺に蓮也が気づいて、林のことを凝視している。イケメンの凝視はちょっと怖いもんがあるな。
「この子は?」
「中学時代の部活の後輩」
「林です!さすが凌太先輩、友達もイケメンっすね」
林のでかい声と、変な方向のリスペクトに対象の俺がちょっと恥ずかしくなる。
蓮也は若干引いているのか、俺に視線を送ってくる。
これは俺がどうにかするしかないってか。
「あー、林?とにかく俺はもうサッカーやらないから。まぁたまに練習ぐらいなら付き合ってやる」
そう言うとみるみる林の目は輝いていく。
あ、これやっちまったか。
「よっしゃ、約束っすよ凌太先輩!」
「うわ、ちょ……危ないから抱きつくな」
「すんません」
いきなり林が抱きつくせいで、体勢を崩して転けそうになる。こっちはチャリあんだぞ……。
「では俺はこの辺で失礼しますね!お友達さんもすんませんっした!」
バタバタと走って去っていく林の背中を見送って、右側に目をやると見たことのない顔をした蓮也。
嵐のような林の勢いに圧倒されたのか、未確認生物でも見たかのような表情で俺を見てくる。
「蓮也、その顔ヤメテ」
「ごめん」
「えっと、そろそろ俺たちも行くか」
「うん」
前を歩く蓮也の後ろを、チャリを押してついていく。
いつもなら会話をするのに、蓮也はいつもに比べて口数が少ない気がする。
振る方もやっぱりしんどいよな。
そう思って、俺も黙ってついていくことにした。
現在ファストフード店にて絶賛ランチタイム中。
ガヤガヤとした店内の中で、俺たちの席だけが静まり返っている。……気まずい。
なんか微妙に怒っている気がするのは俺だけか?
林のことで待たせたせいか?……いや、蓮也はそんなことでは怒らないしだろ。全く心当たりがなくて、黙々とポテトを口に運ぶことしかできない。
「サッカー」
「え?」
「サッカーやってたんだ」
突然口を開いたと思ったら、サッカーのことを聞いてきた。確かに話したことなかったか。
今はもうやってないし話すタイミングもなかったからな。
「中学の間だけだからそんな上手くないし、サッカー以外の球技は点でダメなんだけどさ」
「そうなんだ」
「うん」
また無言に戻ってしまって、作業のようにポテトを口に運んでいく。
「後輩」
「ん?」
「凌太先輩って呼ばれてたの」
次はなんだと思ったら後輩の話か。
そんなに林のインパクトがデカかったんだな。まぁ気持ちもわからなくはないけど。
「一部の後輩だけだけどな。慕ってくれてた後輩はそう呼んでくれてたかな」
「ふーん」
聞いて来た割にはあまり興味がなさそうだ。
なんとか会話をしようと考えてくれてたのかもしれない。
また何か聞かれると思っていたけど、今度はもう何も聞かれなくて、黙々とハンバーガーを食べ続けた。
