いつもの待ち合わせ

「あーもう!姉貴のやつ絶対わざとだろ」

 時刻は八時四十分、俺は街灯に照らされながら爆速でチャリを漕いでいた。四月とは言え、夜は少しだけ肌寒い。

 姉貴が会社帰りに買えたはずの限定スイーツを、わざわざチャリで十分掛けて買いに行かされている。
その時は食べたくなかったもん、だの、夜に女の子が出掛けたら危ないでしょ、だの言って俺が行くことになるのは毎回のことだ。おまけに早くしろって弟を何だと思ってんだ。

 俺のお気に入りは徒歩五分のところにあるニコマなのに、セボンの限定スイーツを買って来いとの命令でわざわざ遠くまでこうして足を運ぶことになった。

「疲れた……」

 十分掛かるところを七分で到着することができたが、正直かなり疲れた。こんなところで新記録を出したところでなんの自慢にもならない。さっさと買って帰ろうとチャリを降りて、店内に入る。
 少し気怠げないらっしゃいませが聞こえたが、今はそんなことはどうでもよくて。奥にあるスイーツのコーナーへと一直線で向かう。

「これか。はぁ、あってよかった」

 ストロベリーDXと書かれた、生クリームたっぷりのいかにも超甘そうなプラカップのケーキを手に取る。無ければ何を言われるかわからない俺は、つい心の声が漏れてしまった。周りの視線が気になって、自分の夜食用にポテチを急いで手に取ってレジに向かう。

「いらっしゃいませ」

 そう言った店員の男は、さっきの気怠げな声の主だろう。ふと顔を上げると、やけに顔の整った黒髪の男。
 ……ん?待て。こいつ柊じゃん。
 柊蓮也(ひいらぎれんや)は、同じクラスの陽キャ集団の一人だ。いつも女子にキャーキャー言われてるイケすかねーやつら。
高一の時から既に人気で、噂によると先輩からも後輩からも告られているらしく、学校で知らない奴はほとんどいないと思う。
その中でも柊は、クールな感じというかあんまり派手な感じはしない。正直話したことは無いし、俺なんてこれからも話すことは無いだろうけど。
 それにしても、こんなところで会うなんて気まずいにも程があるだろ。バイトしてるってことはこの辺に住んでんのか。

「レジ袋入りますか?」
「え?……あー、オネガイシマス」

 やべぇ、ビビった。ついぼーっとしてカタコトになっちまったけど、大丈夫かこれ。ダサすぎる。今日はとことんついてねぇ。
 でも幸い俺には気づいてなさそうだ。まぁ当たり前か。俺なんて特に目立つこともねぇし、どこにでも居る平凡で超フツーの男子校高校生だから。

「508円です」

 サッと財布から小銭を出して支払いを済ませる。

「ありがとうございました」

 柊の営業スマイルを浴びて、世の中は不公平だなと思う。あーあ、俺なんてこうやって姉貴にパシらされるし、顔も頭も秀でてるわけでもない。
オマケに彼女もナシ。
得意なことと言えば、ゲームとチャリの爆漕ぎってか。

「こうなったら帰ってヤケポテチだな」

 姉貴の言うことに逆らえない俺は、憂鬱な気分を抱えながら帰りも爆速でチャリを漕いだ。


「凌太、遅い」

 パシらされて爆速で帰ってもこれだ。これでモテる姉貴は、どんだけ男を騙してんだ。騙されている男に心の中でご愁傷様ですと手を合わせる。正直なぜモテるのか弟の俺には一切分からない。鬼だぞ鬼。

「ハイハイすんませんね。ちゃんと買ってきたから」
「あんたアタシの金でポテチ買っただろ」

 俺から袋を受け取って、鋭い眼差しを向けてくる。バレる前に取っときゃよかった。

「駄賃でいいだろそんぐらい」
「まぁ今日のところは許してやるわ。ありがと」

 珍しくすぐ引き下がった姉貴を置いて、俺はポテチを受け取り速攻二階の自室に走る。
いつもはうるせぇけど、なんかいいことでもあったんか。とにかくすぐ解放されてラッキー。
 ベッドに寝転んで好きな漫画を読みながら、ポテチを食う時間が俺にとって最高の至福だ。寝る前に食うのはよくないって分かってても、ストレス発散には代えられない。

「はぁ、やっぱ最高」

 そういや、柊がバイトしてんのは意外だったな。放課後はとにかく遊んでんだろうなってイメージだったし。ちょっと印象変わったかもな。
 俺には気付いてなかったし、今日の醜態はなかったようなもんだ。