村おこしのためにネットアイドルになったら、担当プロデューサーに推されすぎて逃げられません。

「え? 俺の家に来るんですか? 今から?」

 莉良のきょとんとした顔。お決まりになった関係性の、宗方に向けられる。

「ええ。スマホの共有のスケジュールに記載してあるはずですが」

 宗方はそう言うと、スマホの共有スケジュールを莉良に示してきた。

 あ、ほんとだ。『写真撮影後 櫻川様自宅にて動画撮影』と書いてある。

「あっと……ごめんなさい。あまりスマホを見る習慣がなくて……って……動画撮影ってなんですか?」

 こほん、と宗方がひとつ咳払いをする。そしてまるで執事みたいに背筋をしゃんと伸ばしてから宣言した。

「櫻川様が『りらくん』としての活動を本格的にスタートさせてから、SNSのフォロワーは右肩上がりに上昇しています。村おこしのために古民家カフェの運営資金を得るためにも、さらにワンランク上のネットアイドル活動が必要になってきます。そこで、ネット上の配信者としての顔も必要になってくるわけです」

 莉良にはいまいち宗方の説明してくれたことが、わかるようなわからないような不思議な心地になっていた。

 頭の中で簡単に整理すると、こうだ。

 莉良の村おこし案の古民家カフェの運営資金を得るためには、『りらくん』としてのネットアイドル活動がさらに必要とされること。

 今まではSNSで写真やメッセージを投稿してきたが、更なる知名度アップのためにもネット上で配信者として活躍することも必要になってくるとのことだ。

 それにしても、動画撮影なんてしたことないしな……。

 莉良は少しばかり気分が落ち込む。はたして自分は画面に向かって一人でちゃんと話したり、リアクションができるのだろうか。

 そんな不安げな瞳を浮かべる莉良を見かねて、宗方がプロデューサーらしくフォローに入る。

「安心してください。櫻川様のサポートはこのわたしが二人三脚でつとめてまいります。配信は慣れれば緊張もしにくくなります。わたしにお任せ下さい」

 満面の笑みを浮かべる宗方に莉良はほっとして安堵の息を洩らす。今までも宗方の言う通りにしてきたことでペラッターの運用もスムーズにいった。まったくの初心者の莉良にも優しく、時に凄まじい決断力でリードしてくれる。

 莉良はもう、プロデューサーの言うことをしっかりと聞いて実践することが今の自分に求められているものだと理解した。

「わかりました。緊張しますけど、頑張ってやってみます!」

 拳をぎゅっと握りしめて前のめりで宗方に顔を向けると、切れ長の瞳がまん丸と見開かれていた。そんな表情を見るのは初めてで、なんだか宗方が心を開いてくれたような気がして胸がこそばゆい。

「さ、さあ、早速部屋の配置を整えましょう。櫻川様は水分補給をしっかりして、シャワーを浴びて汗を流してください。髪の毛もしっかり洗って、後でわたしがヘアセットしますので」

 少し早口の様子で宗方は莉良に指示を飛ばしてきた。莉良はこくんと頷いてから宗方の言う通りに配信のための身支度を進めることにした。



 30分後、莉良はシャワーから出て宗方に髪の毛をドライヤーで乾かされていた。その間、少し目を瞑り頭を休める。

 今日は久しぶりに公園で遊んだりして、ちょっと童心に帰れた気がして良い気分転換になった。やっぱり、大人もたまには息抜きが必要だなあと考えていると、部屋の配置が変わっていることに気づいた。

 白いカウチソファの前には白くて丸いローテーブルが置かれている。そしてその前に三脚とリングライト、撮影用の機材も設置されている。それを見ると、不安よりも少しわくわくとした気持ちが込み上げてきた。

 光り輝くライトの下で、自分が配信している様子を想像するとなんだか芸能人になったような気持ちがしてちょっと恥ずかしいけど、嬉しいのは事実だ。



「はい。髪の毛乾いたので、先に少しメイクをしてからヘアセットしますね」

「は、はい」

 宗方が莉良の斜め前に現れる。先程まで後ろから聞こえていた声が不意に前にやってきたので、肩がぴくっと跳ねる。宗方は自身が持ってきたバニティポーチからメイク道具を取り出した。

 クッションファンデで刺激に慣れない肌へぽんぽんされるのはなんだか変な気持ちになった。メンズメイクなんてしたことない。日焼け止めを毎日塗るくらいしかしたことがない莉良にとって、メイクされるのは違和感が大きかった。

 それでも、信頼しているプロデューサーの宗方がしてくれるなら安心できた。