罪な僕は君と幸せになっていいだろうか

今日から12月。
僕は白いマフラーを巻いて厚着で学校に登校している。
はあっと息を出せば白くなる。
僕は冬が好きでこの季節は上機嫌なんだけど、今年はそういうわけにはいかない。
だって——。

『莉央は俺の婚約者なんだ』

まさかあの有名なモデル黒羽莉央さんが、月海くんの婚約者だったなんて。
やっぱり落ち込んじゃうな。

それに、今日見た夢は最悪だった。
ふたりが仲良さそうに腕を組み、月海くんにフラれる夢。
まあ、現実でもそうなるのはわかっているけれど。

「…す、たーかーす!!」

「っ…!!え、あ…月海くん…」

呼ばれていたのに全然気がつかなかった。

「どうしたんだよ。最近元気ない?」

「…ううん。ちょっと考えごと。別に元気だよ」

僕は月海くんには悟られちゃいけないと思って、誤魔化した。
僕のこの感情はバレちゃいけないから。
黒羽さんが現れたことで、余計に言ってはいけないものになってしまった。

***

お昼休み、僕は生徒会の仕事で特進クラスの校舎に来ていた。
ここに来るとなにかと月海くんに会うから、気は進まなかったけれど仕事だから仕方がない。
そんな僕の予想は的中してしまって、前から月海くんが歩いてくるのが見えた。

「…でさ〜。マジで大変だったんだよ」

「それやば〜!て言うか笑える」

「だから笑うなって!」

どうやら友達と話しているみたいで、僕にはまだ気がついていない。
僕は下を向いて気がつかれないように横を通り過ぎようと思った。
とその時——。

「あれ、鷹栖じゃん。生徒会の仕事?」

僕に気がついてしまったようだ。
なにも悪いことはしていないのに、ドクドクと心臓が速くなる。
正直、失礼だけど今最も話したくない相手だ。

「あ…えっと…。ごめん、急いでるから」

普段ならそのまま話していられるのに、今日はそういうわけにはいかなかった。
月海くんと一緒にいると、どうしても苦しくなる。
僕がこんな感情を抱くせいだ。

「え、鷹栖!」

僕を呼ぶ声が何度か聞こえたけど、振り返らずに廊下を進んでいった。


苦しい。


今は、月海くんといると苦しいよ。


***

「はぁ…」

放課後になり、いつものように生徒会の仕事をこなしている時。
頭に浮かぶのはやっぱり黒羽さんのこと。
やだな、あんまり気にしたくないのに。

「蒼唯、なんかあった?」

ふと、琉偉がそんなことを聞いてきた。
僕は月海くんの時と同じように冷静に答えた。

「ううん、何にもないよ」

「嘘だろ。さっきからため息ばっかで仕事になってませんよ〜、会長」

冗談混じりの声に僕は肩をすくめる。
まあ、幼馴染の琉偉の目は誤魔化せないよね。
このまま隠すのは無理だと判断した僕は、この気持ちを話すことにした。

「昨日からずっと黒羽さんのこと考えちゃうんだ」

「ああ、あの月海くんの婚約者の」

その言葉にズキッとする。
そんな僕の気持ちに気がついたようで、琉偉は言葉を続ける。

「どうして?」

「……僕さ、月海くんのことが好きなんだ。こんな感情抱くのは迷惑だって思うけど、どうしても諦められない僕がいて。ほんと、よくないよね。諦めるって決めてたのに、やっぱり好きなんて」

長い沈黙。
それから、琉偉が僕に言った。

「別に迷惑じゃないんじゃない?月海くんは蒼唯といて、毎日楽しそうだし」

「うん。でも、それは友達としてだから。月海くんの黒羽さんへの視線を見ると、なんか僕に向けられるものと違うように見えてさ。それに、婚約者って言ってたし…。月海くんは黒羽さんが好きなのかもしれない。なら、僕の気持ちは迷惑だと思うんだ」

「……じゃあ、諦めるのか?」

その質問に、言葉が詰まる。
諦めることができるのなら、どれほどに楽なことだろうか。
でも、僕にはそんなことができない。


それが本心だ。


「答えない…か」

ボソリとつぶやいた琉偉を無視して、僕は作業を続ける。
これ以上話していたら、自分がどうしたいかわからなくなってしまいそうで怖いから。

その時不意に、黒い陰が僕の前に落ちる。
顔をあげれば、そこには真剣な顔をした琉偉がいた。

「ずるいってわかってるけど、ごめん。無理だ」

小さくつぶやいた言葉に疑問を持っていると、琉偉は僕の手をとって言った。
いつにもなく真剣な顔が、僕の鼓動を速くさせた。

「月海くんなんて好きになるなよ。俺を見て」

ちゅっと僕の左手薬指にキスを落とす。
それから、ふわりと微笑んで。

「ずっと前から好きだった。蒼唯、俺と付き合って」

突然のことで、僕は何も言えず固まった。
時計のカチカチという音だけが響く。
長い沈黙の後、我にかえった僕は視線をそらす。


その後琉偉とは一言もしゃべらず、生徒会の業務を終わらせて帰ったのだった。