この涙は声となり、君に「好き」を伝える。

『あのさっ…笠野さんにお願いがあって…あんなことしたけど、聞いてくれる…?』
『何?』
『私、涼介のことがずっと好きだったの…。だから協力して欲しいんだけど…』
『え……、いいけど…』
『やった!ありがとっ!』

犯人が発覚した日の放課後、私は高梨さん(あんなことをされたからさん付け)に呼び出された。そして、衝撃の事実を知らされた。だけど、咄嗟にいいよと答えてしまった。
そう答えたからには、もう後戻りはできない。
涼介からのメッセージは無視して、学校でもあまり話さないようにしよう。
心に決めた。また、自分が同じ状況になるのは怖いから。
「おはよー」
眠そうな彼が私の隣の席に着く。
「おはよう。」
短く返して、目も見ないように努力した。彼は不満そうで不思議そうな顔をしていたけれど、仕方ない。涼介くんは高梨さんのもとに行ってしまった。
高梨さんをちらっと見ると、にこにこの笑顔で涼介くんと話していた。
「はぁ…」
私自身、自分がどうしたかったのかわからなかった。だけど、間違いなく私は涼介くんのことが好きだ。なら、高梨さんの申し出を断ればよかった。今更ながら後悔が私を襲ってくる。
「あれ……」
頭がぐらぐらする感覚に襲われて、倒れてしまった。すると、真っ先に涼介くんが駆け寄ってきた気がする。

☁︎☔︎
「ん…」
目が覚めると、そこは保健室の布団の中だった。カーテンが引かれていて、外の景色は何も見えない。
すると、
「笠野さんはどうですか?」
聞き慣れた低い声が保健室に響く。
「まだ寝てると思うわよ。ちょっと様子見てみてくれないかな?今、職員室に行かないといけなくて。」
「わかりました」
保健室の先生は用事があるらしく、出ていってしまった。
「美優、開けていい?」
恐る恐る尋ねられてどきりとなる。でも、答えは決まっている。
「だめ」
「嫌だね」
カーテンをがっと開けられる。そこにはちょっぴり悲しそうな顔をした涼介くんが立っていた。私は目を合わせることができず、俯いてしまう。
「俺がどれだけ美優のことを心配したと思ってるんだよ…。」
はぁぁぁとため息を吐く彼はとても疲れているように見える。すると、高梨さんからメッセージが来る。
[涼介を教室に帰して!]
[了解]
言いなりになっているようなところが癪に触るが、自分で受け入れたのだから仕方ない。協力するしかない。
「ねぇ、涼介くん、教室戻ったら?もうすぐ授業始まっちゃうよ」
「なんか、最近美優おかしくない?」
本当のことを指摘されてどきりとなる。隠しているのがバレてしまったか、それとも別の理由か。
「そんなことないよ、いたって普通だよ」
「あきらかに俺を避けてるだろ。」
ぎくりとなる。避けている…のだろうか。
「避けてないし」
ちょっとむっとしたので、冷たく当たってしまう。
「でも、俺…」
「避けてないの!そんなつもりもない!」
彼が次の言葉を告げようとしたときに、聞きたくなくて大声で遮ってしまう。本当は、心のどこかで避けているのかもしれない。
「そう…か。避けてないのか…。ごめんな」
涼介くんは悲しそうな、寂しそうな顔をして保健室を出ていってしまった。
「どうしたら…」
一人保健室に取り残された私は、涼介くんの残像を見つめながら涙した。

☁︎☔︎
その後、私は3時間目の授業には復帰することができた。隣の席が彼なのでとても気まずい状況だが、涼介くんは何事もなかったかのように振る舞って、話してくれるが、目は一回もあっていない。
「涼介、こっちこっち!」
高梨さんがお昼の時間になってすぐ涼介くんを呼ぶ。私は二人の仲を邪魔しないように別の場所でお昼を食べようと教室を出る。すると、とたとたと足音が聞こえてきて、私は振り返る。
「俺も行く。綾乃は待ってて」
高梨さんは少しこちらを睨みつけている。一緒に廊下を歩く。
「なんで来たの?」
「だってなんか、気になるんだよね」
それから何も言わずに着いたのは図書室だった。
「ここで食べるの?」
「うん。誰も来ないし、静かだし」
図書室の隅に座って二人で話す。
「……なんであんな酷いこと言ったのに、関わってくるの?」
「うーん。わかんない」
ぱくぱくとお弁当に集中し始めた涼介くんの横顔をじっと見つめながら、自分もお弁当を食べ始める。
「あのさ、高梨さんのところ行きなよ…」
「ふぇ?なんで?」
だって…と言葉に詰まる。何を言おうか考えているとき、
「そんなに、俺にいなくなって欲しいの?」
「えっ…違っ…」
涙が出てきそうなのを必死にこらえる。ぽろっと一粒垂れたが、気にしない。だんだんと視界がぼやけてくる。
「ごめん、美優…。泣かせるつもりはなかったんだよね…」
「…悪い、のは、私なの。だから、謝らないで…」
ごめん…と涼介くんが抱きしめてくる。
それは、とても温かかった。
その後、お昼を素早く食べ終えて、教室に戻ると、ヒューという声があちこちから聞こえてきた。
「んだよ、涼介。笠野さんのこと好きなのかよ?」
「さぁな」
涼介くんに好きなのかよと聞く男子が多かった。全員で囲い込んで聞いている。でも、涼介くんの返答はのらりくらりとしている。
(私の気持ちは……)

☁︎☔︎
「ねぇ、結局、協力するっていう宣言はどこにいったわけ?」
今、この誰もいない教室の中で私は高梨さんに胸ぐらを掴まれている。
「もうあんないじめはしないけどさ、自分で宣言したことくらい守ってくれても良くない?!」
高梨さんが掴んでいたところをバッと離して私は床に倒れる。
けほけほと咳き込んでいる私を高梨さんは睨みつけてくる。
「違うの……私は、頑張ってるよ…!」
「頑張ってないから、何も変わんないんでしょ。」
私の言葉は高梨さんの言葉に一蹴される。
「ごめん。頑張るから……」
俯いて告げると、高梨さんはふんっと鼻を鳴らして教室を出ていった。
「どこにいっても何も変わらない……」
静かに教室の扉を閉めて、部屋を出る。後2週間なのに、これで大丈夫なのだろうか。不安が心の中に渦巻く。
「きっと、大丈夫。」
自分に言い聞かせるように告げるが、不安はより一層濃くなっていくだけだった。