ワンルーム、きみと小さな海をみる



「あ、待って」


あちー、と首元に伝う汗をぬぐいながら浴室を出ていこうとしたアオさんを呼び止める。




「わたしのために居場所を作ってくれてありがとう」

「……それはこの部屋を貸してくれた大家に言えよ。俺は誰かに礼を言われるような人間じゃない」



その言葉の意味が少し気になったけれど、聞き返す前にアオさんは浴室を出ていってしまった。


彼が消えたドアの先をしばらく見つめて、それから窓の外に視線を移す。

大きな窓枠によって、それよりもずっと大きい海がまるで絵のように切り取られていた。


海はわたしの帰る場所。

このずっと向こうにみんなもいる、はずなのに。




「~♪ ……へへ、えへへ」



不思議だ。

これからのことばかりに思いを馳せてしまう。

窓から差し込む光が、水面と、わたしの鱗をきらきらと照らしてくれている。



こうして人魚とヒトの奇妙な同居生活がはじまった。