この辺りの記憶がひどく曖昧だった。
それは出血を止めることに集中していたからか、無意識の自己防衛が働いていたのかはわからない。
どうしても、思い出すことができなかった。
どうして、思い出すことができなかった?
俺を前にして怒っても、憎しみにも歪んでいなかったこと。
それどころか、あいつが笑っていたことを。
俺はどうして、今の今まで忘れていたのだろうか。
「────ふ、ははっ。災難だったな。俺も、お前も。本当は俺が行くはずだったんだ。でも嫌でさ、俺もやっぱりやりたくなくて、つい仮病使っちまった。ごめんな。嫌な役押し付けて」
「い、嫌な役を押し付けられてるのは、ずっとあんただろ……小さい頃から俺の面倒ばっか見させられて、それで……」
「嫌じゃなかったぜ。楽しかったよ、おまえといるの。たしかに生意気で腹立つときもあったけど、おまえとくだらねえ話してるときだけは、この腐った世界でも……息ができてたんだ」
「おい死ぬな。目を開けろ!」
「いや、死ぬって。しぬしぬ、もうすぐ死ぬ。おまえもこのままここにいたら刺されるぞー……だから、はやく逃げな」
身体を押される。
最後の力を振り絞ったのか、もう目を開ける気力すら残っていないようだった。
「おれも、お前も、見たことねぇもんがこの世にはまだたくさんあるだろ……それ全部みるまでこっちには来るな。お前にはまだ生きてもらわなくちゃこまる。人生謳歌してくれや。
俺の分まで生きて、そんで────」
どうしようもないくらい、幸せになってくれ。
