「わたし、ここであなたと見る小さな海が好き」
ここにあるすべてにアオさんとの思い出が詰まっている。
そのひとつひとつが宝物だとすれば、このワンルームはわたしにとって宝箱のような存在だった。
ずしりと頭に重みを感じる。
「アオさん、もしかして顎乗せてない?」
「じつは海見るのはじめてだったんだよ」
アオさんは独り言みたいにそう零した。
それを聞いて、だからアオさんは海の見えるこの町を選んだのかなとわたしは思った。
「はじめての海はどうだった?」
「別に普通。磯臭いしゴミは多いし、こんなもんかって思ってた」
「あはは、まあそうだよね……」
「お前と出会うまでは」
後ろから腕が回されて、まるで抱くように引き寄せられる。
「人間ってさ、お前が思ってるよりもずっと欲深い生き物なんだよ」
いつもわたしのわがままばかり聞いていたアオさんが、はじめて欲を見せた瞬間だった。
「もう離す気ないけど、いいよな?」
「うん♡」
わたしはそっと目を瞑った。
「え、なんで急に目閉じてんの」
「え、またキスしてくれるのかと思って」
「そんなバカスカするわけないだろ」
「昨日はしてくれたのに?」
「……あれは寝ぼけてただけだって」
やいのやいのと言い合いながら、わたしはすっかり溶けたアイスクリームを口いっぱいに頬張った。
窓越しに差し込む光と波の揺らめきを眺める。
そうして、
これが彼とここで見た最後の海になった。
