(坂下side)
俺、坂下肇は、今日ほど親友・南尚弥の二十歳の誕生日を祝う席で、自分のメンタルの限界を感じたことはない。
南が二十歳になった。人生の大きな節目だ。
「初めてのお酒をデビューしたい」という南本人の希望で、俺たちは居酒屋の個室に集まった。
本来なら、もっと健全で、もっと普通な祝い方があるはずだ。――なぜ俺は今、正面に座る親友と、その隣にぴったりと張り付く銀髪美形の青年を眺めているのだろうか。
(……なんで親友の誕生日祝うのにその彼氏(?)まで同席しなきゃいけないんだ。しかも相手は国宝級のイケメンだぞ。祝う側のはずなのに、胃がキリキリ痛むのが一番納得いかないんだが……)
「南、何頼む? 俺は生中で。宵は……オレンジジュースか?」
「初めてのお酒って、何がいいんだろう?」
「サワーとか飲みやすいんじゃないか? レモンとか巨峰とかあるぞ――」
そう俺が勧めた瞬間、宵がフッと鼻で笑い、会話に割り込んできた。
「尚弥は柑橘系よりベリー系の方が好きだよ。……ねえ尚弥、このカシスベリーというものはどうかな?」
そういって、メニュー表の写真を指差す宵。
その視線は、チラリと俺の方を向き、「お前は尚弥の何を知っているんだ」とでも言いたげだった。
(……まだ、マウント取ってくるのか? 俺はライバルじゃなくて、お前の彼氏の数少ない友達だろうが……)
南は「じゃあ、それにしようかな」と初めてのアルコールカクテルを注文し、「……おいしい!」と目を輝かせている。
食事とお酒が少し進んだところで、南が「ちょっとトイレ」と席を立った。
残されたのは、俺と宵。気まずい沈黙が流れている。
俺は意を決して、正面に座る美青年に釘を刺した。
「……おい、宵。南のこと、泣かすような真似したら承知しねーからな」
すると宵は、さっきまでの柔和な雰囲気を消し、ゾクッとするほど冷たく、鋭い瞳で俺を射抜いた。
「……言われなくても分かってるよ。彼の魂はぼくのものだ。この命に賭けて、彼の笑顔だけは守る」
「……お、おう。それなら、まぁいいけど」
想像の三倍以上に重い宣言を聞かされ、思わず口元が引きつった。
(……あー、やっぱ怖えわ、こいつ)
戻ってきた南は、何も知らず「酒って美味いんだな」と上機嫌にカクテルやサワーを追加していく。
「これ、ジュースみたいじゃん」と危険なペースでとゴクゴクと。
「おい、南! それ結構アルコール強いぞ……って、あー、もう手遅れか」
初めての酒だ。そろそろ水を飲ませないとまずい。
俺が気を回してソフトドリンクを注文したが、時はすでに遅し。南はテーブルに突っ伏し、顔を真っ赤にして、完全にふにゃふにゃになっていた。
呂律は回っておらず、目も潤んでとろんとしている。
(しまった……。完全に飲ませすぎた)
俺の心配をよそに、南はゆっくりと身体を起こすと、そのまま隣の宵の肩に「んー……」と頭を預け、猫のようにスリスリと甘え始めた。
「よい〜、あたま、なでて〜……」
「――っ!? な、尚弥!?」
……うわ〜、南のこんな顔、俺は生まれて初めて見たぞ……。
というか、あの余裕綽々だった銀髪の方が、驚きのあまりフリーズしている。
「尚弥から……甘えてくるなんて……!」と小声で呟いているのが聞こえて、少しだけ愉快な気分になった。
だが、それでも南の豹変は止まらない。宵の首に両腕を回し、抱きつくような形でさらに甘えだした。
俺は一体、何を見せられているんだ。
「よい〜、だいすきだよぉ……」
「〜〜〜〜!!」
(声、でっか。南、酔うとこんなに素直になるのか? ……おいおい、宵の方も耳まで真っ赤じゃねーか。あの王者の風格はどこいったんだ)
南は宵の身体にぶら下がったまま、さらにとんでもない爆弾を投下する。
「よい、しっぽだして? ……もふもふしたい……」
(……しっぽ? ……何プレイだ?)
その一言が、美青年の理性の限界を突破させたらしい。
宵がガタッと音を立てて立ち上がり、真っ赤な顔のまま南を抱き寄せ、俺を睨みつけた。
「……っ、サ、サカシタ! ぼ、ぼくたち帰るから! ぼくが責任もって連れて帰る!」
「……お、おう。せいぜい食われないように気をつけろよ、南。……って今日は逆か」
そうして、俺は1人残された居酒屋の個室で、ぬるくなったビールを飲み干した。
(あーあ、一緒に住んでるんだろうけど、公衆の面前で『お持ち帰り』宣言かよ。もうあいつら、俺の前で隠す気ゼロだな)
「……南。もう俺が心配するその先に行っちまったんだな。……俺も、彼女ほしー……」
空になったジョッキを眺めながら、俺は親友の「普通」が完全に過去のものになったことを、改めて噛み締めていた。
――――――――
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。
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俺、坂下肇は、今日ほど親友・南尚弥の二十歳の誕生日を祝う席で、自分のメンタルの限界を感じたことはない。
南が二十歳になった。人生の大きな節目だ。
「初めてのお酒をデビューしたい」という南本人の希望で、俺たちは居酒屋の個室に集まった。
本来なら、もっと健全で、もっと普通な祝い方があるはずだ。――なぜ俺は今、正面に座る親友と、その隣にぴったりと張り付く銀髪美形の青年を眺めているのだろうか。
(……なんで親友の誕生日祝うのにその彼氏(?)まで同席しなきゃいけないんだ。しかも相手は国宝級のイケメンだぞ。祝う側のはずなのに、胃がキリキリ痛むのが一番納得いかないんだが……)
「南、何頼む? 俺は生中で。宵は……オレンジジュースか?」
「初めてのお酒って、何がいいんだろう?」
「サワーとか飲みやすいんじゃないか? レモンとか巨峰とかあるぞ――」
そう俺が勧めた瞬間、宵がフッと鼻で笑い、会話に割り込んできた。
「尚弥は柑橘系よりベリー系の方が好きだよ。……ねえ尚弥、このカシスベリーというものはどうかな?」
そういって、メニュー表の写真を指差す宵。
その視線は、チラリと俺の方を向き、「お前は尚弥の何を知っているんだ」とでも言いたげだった。
(……まだ、マウント取ってくるのか? 俺はライバルじゃなくて、お前の彼氏の数少ない友達だろうが……)
南は「じゃあ、それにしようかな」と初めてのアルコールカクテルを注文し、「……おいしい!」と目を輝かせている。
食事とお酒が少し進んだところで、南が「ちょっとトイレ」と席を立った。
残されたのは、俺と宵。気まずい沈黙が流れている。
俺は意を決して、正面に座る美青年に釘を刺した。
「……おい、宵。南のこと、泣かすような真似したら承知しねーからな」
すると宵は、さっきまでの柔和な雰囲気を消し、ゾクッとするほど冷たく、鋭い瞳で俺を射抜いた。
「……言われなくても分かってるよ。彼の魂はぼくのものだ。この命に賭けて、彼の笑顔だけは守る」
「……お、おう。それなら、まぁいいけど」
想像の三倍以上に重い宣言を聞かされ、思わず口元が引きつった。
(……あー、やっぱ怖えわ、こいつ)
戻ってきた南は、何も知らず「酒って美味いんだな」と上機嫌にカクテルやサワーを追加していく。
「これ、ジュースみたいじゃん」と危険なペースでとゴクゴクと。
「おい、南! それ結構アルコール強いぞ……って、あー、もう手遅れか」
初めての酒だ。そろそろ水を飲ませないとまずい。
俺が気を回してソフトドリンクを注文したが、時はすでに遅し。南はテーブルに突っ伏し、顔を真っ赤にして、完全にふにゃふにゃになっていた。
呂律は回っておらず、目も潤んでとろんとしている。
(しまった……。完全に飲ませすぎた)
俺の心配をよそに、南はゆっくりと身体を起こすと、そのまま隣の宵の肩に「んー……」と頭を預け、猫のようにスリスリと甘え始めた。
「よい〜、あたま、なでて〜……」
「――っ!? な、尚弥!?」
……うわ〜、南のこんな顔、俺は生まれて初めて見たぞ……。
というか、あの余裕綽々だった銀髪の方が、驚きのあまりフリーズしている。
「尚弥から……甘えてくるなんて……!」と小声で呟いているのが聞こえて、少しだけ愉快な気分になった。
だが、それでも南の豹変は止まらない。宵の首に両腕を回し、抱きつくような形でさらに甘えだした。
俺は一体、何を見せられているんだ。
「よい〜、だいすきだよぉ……」
「〜〜〜〜!!」
(声、でっか。南、酔うとこんなに素直になるのか? ……おいおい、宵の方も耳まで真っ赤じゃねーか。あの王者の風格はどこいったんだ)
南は宵の身体にぶら下がったまま、さらにとんでもない爆弾を投下する。
「よい、しっぽだして? ……もふもふしたい……」
(……しっぽ? ……何プレイだ?)
その一言が、美青年の理性の限界を突破させたらしい。
宵がガタッと音を立てて立ち上がり、真っ赤な顔のまま南を抱き寄せ、俺を睨みつけた。
「……っ、サ、サカシタ! ぼ、ぼくたち帰るから! ぼくが責任もって連れて帰る!」
「……お、おう。せいぜい食われないように気をつけろよ、南。……って今日は逆か」
そうして、俺は1人残された居酒屋の個室で、ぬるくなったビールを飲み干した。
(あーあ、一緒に住んでるんだろうけど、公衆の面前で『お持ち帰り』宣言かよ。もうあいつら、俺の前で隠す気ゼロだな)
「……南。もう俺が心配するその先に行っちまったんだな。……俺も、彼女ほしー……」
空になったジョッキを眺めながら、俺は親友の「普通」が完全に過去のものになったことを、改めて噛み締めていた。
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