視界が、薄く、明るい。
瞼を開けた瞬間、脳が真っ先にそう認識した。カーテンの隙間から、薄い朝の光が見える。
枕元の時計を見ると、まだ起きるには少し早い時間だ。
(なんだか体が重くて、頭がはっきりしないな)
ふと、隣で眠る宵の顔が目に入った。その穏やかな顔を見た瞬間、昨夜の記憶が濁流のように押し寄せてきた。
眠る前、自分から「大事だ」と言い、額にキスまでしたことを。
「うわあああああああああ!!」
俺は叫び声を上げ、布団にくるまって芋虫のように悶絶した。
俺、昨日なんで、あんな……恥ずかしいことを! 一体何テンションだったんだ!? 宵、気づいてないよな?
「ん……? なおや? おきたの……?」
宵が眠そうな声を出す。完全に墓穴を掘った。俺の叫び声で、宵を起こしてしまったらしい。
そのまま宵は、「よいしょ」という効果音が聞こえてきそうな動作で、俺の上に乗っかってきた。そのまま両手が伸びてきて、俺の頬を包み込む。
そして、いつも通り、逃げ場のない「ちゅ、ちゅ攻撃」が始まった。
昨日までは平気だったのに! 今日はダメだ。俺、絶対に顔赤い!!
宵の顔をまともに見られず、けれど視線を逸らそうにも顔はしっかりと固定されている。
「なおや、まつりのにおい、まだする。だいすき」
「やめて、やめて! いろいろ今日はダメージがでかいの!」
今日の宵は、いつも以上に距離を詰めてくる気がする。ぎゅっと目をつぶって、内心パニックになりながらなんとか耐えた。
嵐のような朝のルーティンが終わり、ようやく、ほっと息をつく。
「……ったく、調子狂う」と悪態をついてはみたものの、こんなんでこれからどうすんの? という疑問は考えないようにした。
それでも宵を突き放せないのって、やっぱり、俺……。
いやいやいやいや、そこも考えるのはやめよう。
**
あれから、俺は毎日、「甘い拷問」とでも呼ぶべき日々を送っていた。
なぜなら、俺の中のドキドキが日々大きくなり、それに比例するように宵がさらに距離を詰めてくるからだ。
宵の耳や尻尾が出る頻度は明らかに増え、最近ではおばあちゃんの前でもくっついてくるから、恥ずかしくてたまらない。
おばあちゃんは、すべてを見通しているような、優しい眼差しで見守っている。それが余計に恥ずかしくなる。
いつ慣れるんだ? 前はもっと平気だったじゃん。
心の中でそう言いながらも、俺も自然に宵の手を握ってしまう。……気づいたら、そうなっているのだ。
――そんな、どこか浮ついた平和な日常を、不吉なほど冷たい風が切り裂いたのは、その数日後のことだった。

