………………
痛みも、衝撃も無い。
まさかと思い、彼は顔を上げる。
瞳に映るのは、森と呼ばれた白衣の男性が平然と診察を続けている姿。
そして、ベアトリーチェが或人の目の前で手のひらをかざしており、そのしなやかに伸びる黒革の手袋に覆われた人差し指と中指との間に、一発の弾頭がはさめられている。
さらに周りを見れば、その二人を含めた、或人の周囲が『五本の長い鎖』によって守られるように囲われ、幾つもの弾丸をその鎖の隙間に挟めて止めていた。
課長ベアトリーチェ・カントルが少し溜息を吐き、指の間に挟めた鉛の弾頭をカラリと地面に捨てながら語る。
「やれやれ……。海川、相変わらず『弾道予知』が雑だ。今回の護衛対象には弾丸一発も向けてはならない……」
彼女が目と言葉を向けた先、或人が振り返って見るとそこには、周囲を囲う五本の鎖全ての端がその右手の指一本一本の指輪と結び付いている男性が立っていた。
その『海川』と呼ばれた男は顔をガスマスクで覆い、筋骨隆々な上半身の裸体を晒し、下半身はゆったりとしたカーゴパンツを履いた奇妙な格好をしていた。
彼は長髪を後ろ手に縛った頭を右に傾けて、首の伸びをしながら、ガスマスクのガラス奥にて不服そうな表情を見せ、語る。
「そんだけ『魔力』を垂れ流している奴が、どうやったら傷つくのか教えて欲しい、が、なっ!」
返答しながら彼は勢いよく空へと飛びあがる。或人の瞳にはその人間離れした跳躍力を生み出す根源としての『力《エネルギー》』が感じ取れた。
彼の跳躍した先には、次なる攻撃を準備しつつ更に距離を詰めていた神父が待ち構えている。神父は拳銃を向けて叫ぶ。
「神の法に反し、人の法を支配する魔術師達よ! 神の剣の名の下に、その不法を正す! 海川有馬ァッ! 覚悟ぉッ!」
「うるせぇえええええッ! テメェの声のが不法だわボゲェええええッ!」
有馬と呼ばれた彼はより大声で叫びつつ人差し指を神父に向けて伸ばし、一本鎖を飛ばす。
同時に神父は手に持った自動拳銃の引き金を引く。
『ズガァアン! ズガァアン!』
強力な『力』を帯びた弾丸が一発、二発と神父の構えた銃口より、雷鳴の如き発破と共に発射される。
薬莢を脱いで六条右回りに回転溝がある銃口から飛びすさぶ弾丸は音速に近い速度、到底人間が認識し、避けられる速度ではない。
だが、有馬はまるでその弾丸の軌道がある程度事前に分かっていたかのように身体の位置取りと移動を行っており、銃弾を寸前、最低限度の動きで避けてしまう。
そして鎖が蛇のように柔らかで鋭い動きにより神父の首へ絡みつき、動きを完全に封じる。鉄の輪が神父の首の肉を挟み、乱暴に圧力をかけて絞める。
「うぐぁぁっ!」
「神の犬ッコロには相応しい首輪をしてやらねェとなぁ?」
有馬はガスマスクの奥で不敵に笑い、自身の右腕に鎖を纏わせ、殴りかかる。
しかし、対する神父は首を締め付ける鎖を解こうとする気は無く、冷静に左手の拳銃を有馬の額に向けて、引き金を引きつつ叫んだ。
「馬鹿めっ!」
『ズガァン!』
撃鉄。
薬莢が排出される中、弾丸は有馬の額に命中。回転によって頭蓋骨をねじり圧してゆく。
そして、神父の額に回転と着弾の衝撃が加わり、彼はそのままのけぞる。
「!?ッ」
有馬はガスマスクの中で嘲るような笑いを浮かべて吐き捨てるように言う。
「馬鹿はテメェだよッ」
有馬は右腕を振りおろし、硬質な鎖の巻かれる強烈な拳を神父の顎に命中させる。
『ガシャァアアアン!』
「ごバふッ!」
脳震盪により気を失いかけている神父へ、有馬は攻撃の手を緩めない。左腕ですぐさま正拳につなげようと拳を振り下ろす。
「させるかッ!」
突如、有馬の背後へ叫びながら飛び込む影。
「ああ!?」
有馬のガラス越しの瞳に右手にメイスを持った神父が映る。彼は炎の蛇から脱出し、片割れの危機に飛んできたのだ。
彼はあの業火の中で灼かれたというのに、服の裾や身体の数カ所に小さな火傷や焦げが見える程度の軽傷。
その時、神父の背にある鈍色の翼が、有馬を囲う。銃口は全て有馬の額、一点を狙っていた。
「至近距離! 回避不能! さらばだ呪術師!」
有馬が鎖を防御のため展開するよりも早く、神父は翼の引き金を引くための『言葉』を口に出そうとする。
だが。
『バリバリバリリィッ!』
「アッ!? がはッ……!」
迅雷。
神父は飛来した電撃により全身を痙攣させ、墜落していく。
その電撃は神父の真下、地上に現れた三人の人影のうち、3メートル近い大男が右手に持つ『金剛杵』から発せられた。
その隣にはその男と双子のごとく同じ顔、同じ体格をした槍を持つ大男。どちらも人間と言うより『像』というべき姿である。
そしてもう一人、ひときわ身長が小さく見える、巫女のような白い上衣と赤い袴を着た長い黒髪をポニーテールにまとめた女性がその手に『札』と『木片』を持って立っていた。
或人は嫌でも目に入るはずの二人の大男と彼女に今まで全く気づかなかった。否、気付くはずは無かったのだ。
――あの仁王像に似た大男たち……!
そこの女性が投げた札から『出現させた』!?
もう一人の神父が有馬のもとへと飛び出す直前に、或人はその一部始終を目撃していた。
あの巫女服の女性が恐るべきスピードで現れ、何やら呪文のような言葉と共に投げた札に、またしてもあの『文字の紐』が出現。その『言葉の紐』が二人の大男の姿を構築したのだ。
――超能力の類としか思えない……!
弾丸を受け止め、相手にその衝撃を反射する現象、空を飛ぶ神父、蛇のように舞う炎、人間と見紛う存在を御札から作り出す人……!
僕は一体何に巻き込まれてしまったんだ!?
或人が異能者たちの戦いに動揺する中、彼の診察を進めていたテレビ頭の森が機械音声を響かせる。
『診察完了。バイタル――問題なし。護送車へ移送します』
彼はその音声と共にベッドを押して或人を動かし始めた。
課長もそれに続く。神父を殴り倒し手が空いた有馬や、仁王を操る女性も或人の方へ注意を向けた。
しかし、それが一瞬の隙となったのか。
「ヒャァッ! 芸術はぁ~↑バクハツだぁああああアアアアッ!」
鬨の声がごとき絶叫。
同時に、雪の中や上空に潜伏していた五名もの人間が別々の方向から現れる。奇襲攻撃だ。
『ドガァアアアアアアン! ドチャチャッ!』
有馬や巫女服の女性が同時発生した爆発に巻き込まれる。
アスファルトが溶けて飛散し、嫌な臭いが或人の鼻を衝く。爆発は発火の範囲こそ小さいが、恐ろしい熱量であることをその臭気が物語る。
戦火はついに或人の眼前へと迫りつつあった。
痛みも、衝撃も無い。
まさかと思い、彼は顔を上げる。
瞳に映るのは、森と呼ばれた白衣の男性が平然と診察を続けている姿。
そして、ベアトリーチェが或人の目の前で手のひらをかざしており、そのしなやかに伸びる黒革の手袋に覆われた人差し指と中指との間に、一発の弾頭がはさめられている。
さらに周りを見れば、その二人を含めた、或人の周囲が『五本の長い鎖』によって守られるように囲われ、幾つもの弾丸をその鎖の隙間に挟めて止めていた。
課長ベアトリーチェ・カントルが少し溜息を吐き、指の間に挟めた鉛の弾頭をカラリと地面に捨てながら語る。
「やれやれ……。海川、相変わらず『弾道予知』が雑だ。今回の護衛対象には弾丸一発も向けてはならない……」
彼女が目と言葉を向けた先、或人が振り返って見るとそこには、周囲を囲う五本の鎖全ての端がその右手の指一本一本の指輪と結び付いている男性が立っていた。
その『海川』と呼ばれた男は顔をガスマスクで覆い、筋骨隆々な上半身の裸体を晒し、下半身はゆったりとしたカーゴパンツを履いた奇妙な格好をしていた。
彼は長髪を後ろ手に縛った頭を右に傾けて、首の伸びをしながら、ガスマスクのガラス奥にて不服そうな表情を見せ、語る。
「そんだけ『魔力』を垂れ流している奴が、どうやったら傷つくのか教えて欲しい、が、なっ!」
返答しながら彼は勢いよく空へと飛びあがる。或人の瞳にはその人間離れした跳躍力を生み出す根源としての『力《エネルギー》』が感じ取れた。
彼の跳躍した先には、次なる攻撃を準備しつつ更に距離を詰めていた神父が待ち構えている。神父は拳銃を向けて叫ぶ。
「神の法に反し、人の法を支配する魔術師達よ! 神の剣の名の下に、その不法を正す! 海川有馬ァッ! 覚悟ぉッ!」
「うるせぇえええええッ! テメェの声のが不法だわボゲェええええッ!」
有馬と呼ばれた彼はより大声で叫びつつ人差し指を神父に向けて伸ばし、一本鎖を飛ばす。
同時に神父は手に持った自動拳銃の引き金を引く。
『ズガァアン! ズガァアン!』
強力な『力』を帯びた弾丸が一発、二発と神父の構えた銃口より、雷鳴の如き発破と共に発射される。
薬莢を脱いで六条右回りに回転溝がある銃口から飛びすさぶ弾丸は音速に近い速度、到底人間が認識し、避けられる速度ではない。
だが、有馬はまるでその弾丸の軌道がある程度事前に分かっていたかのように身体の位置取りと移動を行っており、銃弾を寸前、最低限度の動きで避けてしまう。
そして鎖が蛇のように柔らかで鋭い動きにより神父の首へ絡みつき、動きを完全に封じる。鉄の輪が神父の首の肉を挟み、乱暴に圧力をかけて絞める。
「うぐぁぁっ!」
「神の犬ッコロには相応しい首輪をしてやらねェとなぁ?」
有馬はガスマスクの奥で不敵に笑い、自身の右腕に鎖を纏わせ、殴りかかる。
しかし、対する神父は首を締め付ける鎖を解こうとする気は無く、冷静に左手の拳銃を有馬の額に向けて、引き金を引きつつ叫んだ。
「馬鹿めっ!」
『ズガァン!』
撃鉄。
薬莢が排出される中、弾丸は有馬の額に命中。回転によって頭蓋骨をねじり圧してゆく。
そして、神父の額に回転と着弾の衝撃が加わり、彼はそのままのけぞる。
「!?ッ」
有馬はガスマスクの中で嘲るような笑いを浮かべて吐き捨てるように言う。
「馬鹿はテメェだよッ」
有馬は右腕を振りおろし、硬質な鎖の巻かれる強烈な拳を神父の顎に命中させる。
『ガシャァアアアン!』
「ごバふッ!」
脳震盪により気を失いかけている神父へ、有馬は攻撃の手を緩めない。左腕ですぐさま正拳につなげようと拳を振り下ろす。
「させるかッ!」
突如、有馬の背後へ叫びながら飛び込む影。
「ああ!?」
有馬のガラス越しの瞳に右手にメイスを持った神父が映る。彼は炎の蛇から脱出し、片割れの危機に飛んできたのだ。
彼はあの業火の中で灼かれたというのに、服の裾や身体の数カ所に小さな火傷や焦げが見える程度の軽傷。
その時、神父の背にある鈍色の翼が、有馬を囲う。銃口は全て有馬の額、一点を狙っていた。
「至近距離! 回避不能! さらばだ呪術師!」
有馬が鎖を防御のため展開するよりも早く、神父は翼の引き金を引くための『言葉』を口に出そうとする。
だが。
『バリバリバリリィッ!』
「アッ!? がはッ……!」
迅雷。
神父は飛来した電撃により全身を痙攣させ、墜落していく。
その電撃は神父の真下、地上に現れた三人の人影のうち、3メートル近い大男が右手に持つ『金剛杵』から発せられた。
その隣にはその男と双子のごとく同じ顔、同じ体格をした槍を持つ大男。どちらも人間と言うより『像』というべき姿である。
そしてもう一人、ひときわ身長が小さく見える、巫女のような白い上衣と赤い袴を着た長い黒髪をポニーテールにまとめた女性がその手に『札』と『木片』を持って立っていた。
或人は嫌でも目に入るはずの二人の大男と彼女に今まで全く気づかなかった。否、気付くはずは無かったのだ。
――あの仁王像に似た大男たち……!
そこの女性が投げた札から『出現させた』!?
もう一人の神父が有馬のもとへと飛び出す直前に、或人はその一部始終を目撃していた。
あの巫女服の女性が恐るべきスピードで現れ、何やら呪文のような言葉と共に投げた札に、またしてもあの『文字の紐』が出現。その『言葉の紐』が二人の大男の姿を構築したのだ。
――超能力の類としか思えない……!
弾丸を受け止め、相手にその衝撃を反射する現象、空を飛ぶ神父、蛇のように舞う炎、人間と見紛う存在を御札から作り出す人……!
僕は一体何に巻き込まれてしまったんだ!?
或人が異能者たちの戦いに動揺する中、彼の診察を進めていたテレビ頭の森が機械音声を響かせる。
『診察完了。バイタル――問題なし。護送車へ移送します』
彼はその音声と共にベッドを押して或人を動かし始めた。
課長もそれに続く。神父を殴り倒し手が空いた有馬や、仁王を操る女性も或人の方へ注意を向けた。
しかし、それが一瞬の隙となったのか。
「ヒャァッ! 芸術はぁ~↑バクハツだぁああああアアアアッ!」
鬨の声がごとき絶叫。
同時に、雪の中や上空に潜伏していた五名もの人間が別々の方向から現れる。奇襲攻撃だ。
『ドガァアアアアアアン! ドチャチャッ!』
有馬や巫女服の女性が同時発生した爆発に巻き込まれる。
アスファルトが溶けて飛散し、嫌な臭いが或人の鼻を衝く。爆発は発火の範囲こそ小さいが、恐ろしい熱量であることをその臭気が物語る。
戦火はついに或人の眼前へと迫りつつあった。
