「またゴミがいるわ。大人しく農作業に戻りなさい?」
「こんな高級な服、似合わないですわ」
今日もまた来た。今日は一段と当たりが強い。
「…そうですよね」
さらっと受け流しつつ、立ち去ろうとすると、1人の少女が声をかけてくる。確か名前は蓮華。
「今日から私の女官を1人そちらで働かせてくださいな。これは上からの命ですわ」
艶やかに笑う蓮華は、その女官に挨拶を促した。
「初めまして、愛藍様。翠と申します。これからお世話になります」
翠と名乗ったその少女は、綺麗にお辞儀をする。
私もお辞儀をする。すると、蓮華は憎らしい笑みを浮かべて、
「私の従者を農民の元へ行かせるのは嫌ですけれど、上からの命なので仕方ないですわ」
ツンツンした感じでそう言われる。私も正直蓮華の従者迎えるのは気が進まない。
「では後を頼みますわ」
そう言って蓮華はさって行った。
私は翠に部屋を案内しようと、誘う。すると、
「ぜひ!」
と言う答えが返ってきた。翠からは蓮華のような蔑む空気が全く感じられない。
「こちらが私の部屋です」
後宮の奥まったところに私の部屋はある。一番大きな部屋だ。
「わぁ……!」
翠はこんな大きな部屋を見たことがないと言う目で見ている。
私は翠を部屋の椅子に座らせる。そしてお茶の準備をする。
「あ、私が準備します!愛藍様はお待ちください!」
翠が駆け寄って、私の仕事を奪い取る。そして、翠は美味しそうなお茶を注ぎ始める。
「わぁ…!」
今度は私が驚く番だった。翠の作るお茶は私が作るお茶よりもとても美味しいのだ。私は翠とお茶を飲む。すると、翠が質問してくる。
「愛藍様には、従者がいらっしゃらないのですか?」
そう聞かれて私はグッとなる。私が農民だということで、誰も従者になりたがらなかったのだ。
「誰もなりたがらなくてね…。でも、一通り自分でできるから大丈夫よ!」
そう言うと、翠は、
「では、私は何をしたらいいんでしょうか…?」
おそるおそる問いかけられる。私は、
「翠とこうしてお茶ができるならいいのよ!仕事がしたいなら、部屋の前の廊下を拭き掃除してほしいかな…」
そう言うと、翠の目に光が灯る。
「では、すぐにでも掃除いたします!!」
元気よくそう言われて、私はくすくすと笑う。そして、伝えないといけないことを一つ言い忘れているのに気づく。
「夜は、仕事とか大丈夫だから、部屋に戻ってね」
夜は炎鬼様が来るので、翠がいると大変なことになってしまう。
それに対して翠は少し笑った。
(笑った…?)
あまりにも不自然だった。今のは笑う場面ではない。
ではどうして…。
(ま、いいかな)
私は一旦そこで考えるのをやめてしまった。
「では、明日から勤めさせていただきます。よろしくお願いいたします」
翠は午後5時頃までいて、部屋を出て行った。
夜はさっき言った通り、炎鬼様が来るので、いられると困る。
「晩御飯をお持ちしました」
いつもの女官が晩御飯を運んできてくれる。
今日もとても高級な晩御飯だ。
「ありがとうございます」
女官は私を睨みつけてさって行った。最近、いろんな人の当たりが強い。これでも後宮の中では一番上の位の人なんだが。
(美味しい…)
晩御飯は基本いつも一人だ。翠に誘われていたが、断った。
炎鬼様がいつ来るかわからないからだ。
食事を食べ終え、女官に運んでもらう。もうすぐ、炎鬼様が来る時間だ。
すると、こんこんと窓が叩かれる音がする。私は窓に駆け寄って、開ける。
「こんばんは」
そこには炎鬼様がいた。今日の炎鬼様はなんだか機嫌が良さそうだ。いつものじめじめした空気が微塵もない。
「…っ」
いつものようにベットに腰掛けて話そうとすると、突然、炎鬼様が壁に押さえつけてくる。
「…俺、愛藍…が……」
何かを言いかけた炎鬼様。私は続きが気になって、
「何?」
と聞く。すると、炎鬼様はパッと離れて、
「ごめん。なんでもない」
と言った。そして、その後、炎鬼様はまた弱音を言い始める。
「やっぱ無理ぃ。だって、大臣との会食だなんて……」
ぐずぐずし始める炎鬼様。今度、大臣との会食があるらしく、緊張で死にそうだと。
「大丈夫!会食なんて、料理美味しいって思って、適当に返事しとけば大丈夫!」
私は励まそうと必死に言葉を選ぶ。すると、炎鬼様はへへと笑って、
「ありがとう。頑張ってみる」
炎鬼様の目は輝いていた。どうやら本気になったらしい。そうやって話しているうちに、炎鬼様が帰る時間になってきた。
「じゃあ、今日もありがとう。また明日の夜。……今度、俺、言いたいことあるから、聞いてほしい」
「わかった!じゃあね」
手を振って炎鬼様とわかれる。
炎鬼様は私に何を言いたいのだろう?
(もしかして…結婚の申し出…とか…)
そう想像して顔が熱くなる。そんなことあるわけないのに。私は確かに炎鬼様の伴侶になるためにここにきたが、今は友人のような関係だ。
日に日に炎鬼様への期待が大きくなってゆく。
(私は…どうしたら……)
私は一旦、自分の気持ちに整理をつけることにして、寝ることにした。
炎鬼と愛藍が話しているころ、翠はその関係について探りを入れていた。
炎鬼が夜に愛藍の部屋に入り、楽しく会話を交わしているところを目撃したのだ。
(これは……)
愛藍と話しているときの炎鬼は、普段の冷徹な空気はなく、穏やかで明るい空気があった。
間違いなく、愛藍は炎鬼を落とそうとしている。
(では…、炎鬼の部屋に…)
翠は炎鬼の部屋に入る。そこは、しっかりと整理整頓されている綺麗な空間だった。
「っ…!」
炎鬼の机にはいくつもの日記が置かれていた。日記の題名は、『愛藍と出会って』だった。
ページを開くと、そこには毎晩話していて嬉しかったこと、楽しかったことが書き記されていた。
そして、その日記が書かれている最後のページにはこう書いてあった。
『俺は多分、愛藍のことが好きだ。まっすぐで優しくて、面白い。そんな愛藍が好きだ。この気持ちは、今度伝えよう。』
そう書いてあった。今日、二人が話しているとき、炎鬼が言いたいことがあると言っていた。
もしかして、そういうことなのではないか。きっと愛藍も炎鬼のことが好きだ。
そしたら二人は晴れて伴侶になるだろう。
しかし、炎鬼を好きなのは愛藍だけではない。私の主の蓮華様も好きなのだ。
蓮華様はおそらく、愛藍のことを恋敵としてみなしている。
私が味方につくべきは主である蓮華様だろう。
だとすると、蓮華様の方法で愛藍の恋を潰す必要がある。
(どうしたものか…)
翠はとりあえず蓮華に報告をして、何も知らなかったふりをしようと思った。
次の日の朝、起きると、翠がいた。
「おはようございます!いい天気ですよね!あの、私、今日蓮華様のところに行ってきますね!」
翠がそう言った。翠の主は私ではなく、蓮華なので、別に翠が勝手に行ってもいいものなのに、なぜ許可をとるのか。
「いいよ。別に許可取らなくても大丈夫だからね!」
そういうと、翠は一瞬、不自然な笑みを浮かべる。でもすぐにいつもの表情に戻る。
「ありがとうございます」
翠は丁寧にお辞儀をして、私の部屋を出て行った。翠が出て行ってから気づいたが、朝食と服が準備してあった。
(気がきくなぁ…)
翠のような従者をもつ蓮華は幸せだろう。こんなに気がきく人なんだから。
そんなことを考えながら、朝食を食べる。
朝ごはんが一人なのは少し寂しい。でも、後で翠が来てくれるらしいので、我慢する。
私は朝食を食べ終えて服を着る。
今日は少し派手な服だった。袖口のあたりに金色の刺繍がある。
私は服の裾を持って、部屋を出る。後宮散策に出るのだ。
後宮には中庭がある。その中庭が最近落ち着く場所の一つなのだ。
私が中庭へ向かうと、蓮華と翠が立っていた。
私を睨みつけている。
(なんかしたかな…?)
疑問に思っていると、蓮華は周りにいた宮女を集め始める。
そして大声で、
「最上位の愛藍様は毎晩炎鬼様と密会してるらしいわ!!」
と言った。私は驚きで、動けなかった。
「翠が見たらしいのよ!それで、炎鬼様の部屋には愛藍様についての日記がたくさんあったとか…」
みんな食い入るように蓮華の話を聞いている。私は何も言い返すことができず、ただ呆然と立つだけだった。
「そこに本人がいるわ!ちょっと話を聞いてみましょう?」
蓮華が私に話を振ってきた。私が逃げようとすると、翠に腕を掴まれる。
「逃げないでください」
その目は本気だった。私はおとなしく蓮華のところに行った。行ったところで、何も話すことはないが。
「あんた、炎鬼様と毎晩密会してるわけ?」
腕を組んでいる蓮華にそう聞かれる。私は咄嗟に首を振って否定する。
「でも、翠があんたの部屋に入る炎鬼様を目撃したらしいのよ?」
そう言われても私は首を振って否定する。炎鬼様と私の関係がバレたら、炎鬼様が困るから。
「それに、そのときの炎鬼様、普段は見ないくらい甘かったんだってねぇ?」
そう言われて、私はビクッと反応してしまった。そう、昨夜の炎鬼様を思い出してだ。
「やっぱりそうなのねぇ」
蓮華は私をずっと睨みつけている。私はその重圧に負けないように頑張る。
そして、私の頭の中に一つの疑問が浮かび上がる。
まだ翠を私の部屋に入れてから二日しか経っていない。なのにどうして、私の情報を知っているのだろうか。
私は夜に来るなと言ったのに、翠は来た。
つまり、わざとだろう。炎鬼様と私が密会をしているだろうから、わざと私の部屋に侵入して、その会話を見ていたのだろう。
翠が一人でそんなことをするとは思えない。大体、翠と出会ったのは昨日が初めてだ。そんなことができるわけあるまい。
そうすると、翠に指図できる人…つまり、蓮華が犯人だろう。
「ねぇ、あんた話聞いてんの?」
でも、なんで……。
思えばここに来たときから蓮華のあたりは強かった。
なんで?
そこまで考えたとき、
「聞いてんの?!」
蓮華の振り下ろされた手が私の顔にスローモーションで近づいてくる。
あ、もう当たるなと思ったそのとき、
「パシッ」
誰かが蓮華の腕を掴んで止めてくれた。私がおそるおそる上を見上げると、そこには炎鬼様がいた。
「今の話、全部聞かせてもらった」
冷たく言い放つ炎鬼様に、周囲の宮女たちはビクッと震えている。もちろん、蓮華もだ。
「確かに私と愛藍は毎晩会っていた。でもそれがお前たちと何の関係があるんだ?」
そう聞かれて言葉に詰まる人たち。
「第一、私は愛藍に悩みを聞いてもらってただけだ。勝手に勘違いをするな」
しーんと当たりが静まり返る。今日の炎鬼様は夜の時とは違ってスイッチが入っている。
(かっこいい…)
そこでようやく、私は炎鬼様が好きなんだと自覚した。
そして、この静かな空気を打破したのは蓮華だった。
「あの、私、ずっと前から炎鬼様のことをお慕いしておりましたの…」
消えいるような声でそう言う。炎鬼様は、
「お前が私たちの関係を探ってたのだろう?なのに何だその図々しさは」
そう言って炎鬼様はそっぽを向いてしまった。
そして、私に歩み寄る炎鬼様。
「今度伝えたいことがあるって前言っただろう?」
「うん」
彼は小さく咳払いした。
「俺は愛藍が好きだ。優しくて、まっすぐなところが特に好きだ。…愛藍、どうか俺の伴侶になってほしい」
そう炎鬼様に手を引かれる。周りの宮女たちは突然のプロポーズにきゃーっと叫んでいる。
「私も、話すうちに炎鬼様に惹かれていきました。私は、炎鬼様の伴侶になりたいです」
そう言うと、炎鬼様は少し照れくさそうにして、
「愛藍」
と名前を呼んでくれた。
私はにこりと笑って、返事を返す。
農民出身だろうが関係ない。
私は炎鬼様が好きだ。
そう、心から思うことができた。
プロポーズ後、愛藍と炎鬼はキスをした。
愛のキスを。
「こんな高級な服、似合わないですわ」
今日もまた来た。今日は一段と当たりが強い。
「…そうですよね」
さらっと受け流しつつ、立ち去ろうとすると、1人の少女が声をかけてくる。確か名前は蓮華。
「今日から私の女官を1人そちらで働かせてくださいな。これは上からの命ですわ」
艶やかに笑う蓮華は、その女官に挨拶を促した。
「初めまして、愛藍様。翠と申します。これからお世話になります」
翠と名乗ったその少女は、綺麗にお辞儀をする。
私もお辞儀をする。すると、蓮華は憎らしい笑みを浮かべて、
「私の従者を農民の元へ行かせるのは嫌ですけれど、上からの命なので仕方ないですわ」
ツンツンした感じでそう言われる。私も正直蓮華の従者迎えるのは気が進まない。
「では後を頼みますわ」
そう言って蓮華はさって行った。
私は翠に部屋を案内しようと、誘う。すると、
「ぜひ!」
と言う答えが返ってきた。翠からは蓮華のような蔑む空気が全く感じられない。
「こちらが私の部屋です」
後宮の奥まったところに私の部屋はある。一番大きな部屋だ。
「わぁ……!」
翠はこんな大きな部屋を見たことがないと言う目で見ている。
私は翠を部屋の椅子に座らせる。そしてお茶の準備をする。
「あ、私が準備します!愛藍様はお待ちください!」
翠が駆け寄って、私の仕事を奪い取る。そして、翠は美味しそうなお茶を注ぎ始める。
「わぁ…!」
今度は私が驚く番だった。翠の作るお茶は私が作るお茶よりもとても美味しいのだ。私は翠とお茶を飲む。すると、翠が質問してくる。
「愛藍様には、従者がいらっしゃらないのですか?」
そう聞かれて私はグッとなる。私が農民だということで、誰も従者になりたがらなかったのだ。
「誰もなりたがらなくてね…。でも、一通り自分でできるから大丈夫よ!」
そう言うと、翠は、
「では、私は何をしたらいいんでしょうか…?」
おそるおそる問いかけられる。私は、
「翠とこうしてお茶ができるならいいのよ!仕事がしたいなら、部屋の前の廊下を拭き掃除してほしいかな…」
そう言うと、翠の目に光が灯る。
「では、すぐにでも掃除いたします!!」
元気よくそう言われて、私はくすくすと笑う。そして、伝えないといけないことを一つ言い忘れているのに気づく。
「夜は、仕事とか大丈夫だから、部屋に戻ってね」
夜は炎鬼様が来るので、翠がいると大変なことになってしまう。
それに対して翠は少し笑った。
(笑った…?)
あまりにも不自然だった。今のは笑う場面ではない。
ではどうして…。
(ま、いいかな)
私は一旦そこで考えるのをやめてしまった。
「では、明日から勤めさせていただきます。よろしくお願いいたします」
翠は午後5時頃までいて、部屋を出て行った。
夜はさっき言った通り、炎鬼様が来るので、いられると困る。
「晩御飯をお持ちしました」
いつもの女官が晩御飯を運んできてくれる。
今日もとても高級な晩御飯だ。
「ありがとうございます」
女官は私を睨みつけてさって行った。最近、いろんな人の当たりが強い。これでも後宮の中では一番上の位の人なんだが。
(美味しい…)
晩御飯は基本いつも一人だ。翠に誘われていたが、断った。
炎鬼様がいつ来るかわからないからだ。
食事を食べ終え、女官に運んでもらう。もうすぐ、炎鬼様が来る時間だ。
すると、こんこんと窓が叩かれる音がする。私は窓に駆け寄って、開ける。
「こんばんは」
そこには炎鬼様がいた。今日の炎鬼様はなんだか機嫌が良さそうだ。いつものじめじめした空気が微塵もない。
「…っ」
いつものようにベットに腰掛けて話そうとすると、突然、炎鬼様が壁に押さえつけてくる。
「…俺、愛藍…が……」
何かを言いかけた炎鬼様。私は続きが気になって、
「何?」
と聞く。すると、炎鬼様はパッと離れて、
「ごめん。なんでもない」
と言った。そして、その後、炎鬼様はまた弱音を言い始める。
「やっぱ無理ぃ。だって、大臣との会食だなんて……」
ぐずぐずし始める炎鬼様。今度、大臣との会食があるらしく、緊張で死にそうだと。
「大丈夫!会食なんて、料理美味しいって思って、適当に返事しとけば大丈夫!」
私は励まそうと必死に言葉を選ぶ。すると、炎鬼様はへへと笑って、
「ありがとう。頑張ってみる」
炎鬼様の目は輝いていた。どうやら本気になったらしい。そうやって話しているうちに、炎鬼様が帰る時間になってきた。
「じゃあ、今日もありがとう。また明日の夜。……今度、俺、言いたいことあるから、聞いてほしい」
「わかった!じゃあね」
手を振って炎鬼様とわかれる。
炎鬼様は私に何を言いたいのだろう?
(もしかして…結婚の申し出…とか…)
そう想像して顔が熱くなる。そんなことあるわけないのに。私は確かに炎鬼様の伴侶になるためにここにきたが、今は友人のような関係だ。
日に日に炎鬼様への期待が大きくなってゆく。
(私は…どうしたら……)
私は一旦、自分の気持ちに整理をつけることにして、寝ることにした。
炎鬼と愛藍が話しているころ、翠はその関係について探りを入れていた。
炎鬼が夜に愛藍の部屋に入り、楽しく会話を交わしているところを目撃したのだ。
(これは……)
愛藍と話しているときの炎鬼は、普段の冷徹な空気はなく、穏やかで明るい空気があった。
間違いなく、愛藍は炎鬼を落とそうとしている。
(では…、炎鬼の部屋に…)
翠は炎鬼の部屋に入る。そこは、しっかりと整理整頓されている綺麗な空間だった。
「っ…!」
炎鬼の机にはいくつもの日記が置かれていた。日記の題名は、『愛藍と出会って』だった。
ページを開くと、そこには毎晩話していて嬉しかったこと、楽しかったことが書き記されていた。
そして、その日記が書かれている最後のページにはこう書いてあった。
『俺は多分、愛藍のことが好きだ。まっすぐで優しくて、面白い。そんな愛藍が好きだ。この気持ちは、今度伝えよう。』
そう書いてあった。今日、二人が話しているとき、炎鬼が言いたいことがあると言っていた。
もしかして、そういうことなのではないか。きっと愛藍も炎鬼のことが好きだ。
そしたら二人は晴れて伴侶になるだろう。
しかし、炎鬼を好きなのは愛藍だけではない。私の主の蓮華様も好きなのだ。
蓮華様はおそらく、愛藍のことを恋敵としてみなしている。
私が味方につくべきは主である蓮華様だろう。
だとすると、蓮華様の方法で愛藍の恋を潰す必要がある。
(どうしたものか…)
翠はとりあえず蓮華に報告をして、何も知らなかったふりをしようと思った。
次の日の朝、起きると、翠がいた。
「おはようございます!いい天気ですよね!あの、私、今日蓮華様のところに行ってきますね!」
翠がそう言った。翠の主は私ではなく、蓮華なので、別に翠が勝手に行ってもいいものなのに、なぜ許可をとるのか。
「いいよ。別に許可取らなくても大丈夫だからね!」
そういうと、翠は一瞬、不自然な笑みを浮かべる。でもすぐにいつもの表情に戻る。
「ありがとうございます」
翠は丁寧にお辞儀をして、私の部屋を出て行った。翠が出て行ってから気づいたが、朝食と服が準備してあった。
(気がきくなぁ…)
翠のような従者をもつ蓮華は幸せだろう。こんなに気がきく人なんだから。
そんなことを考えながら、朝食を食べる。
朝ごはんが一人なのは少し寂しい。でも、後で翠が来てくれるらしいので、我慢する。
私は朝食を食べ終えて服を着る。
今日は少し派手な服だった。袖口のあたりに金色の刺繍がある。
私は服の裾を持って、部屋を出る。後宮散策に出るのだ。
後宮には中庭がある。その中庭が最近落ち着く場所の一つなのだ。
私が中庭へ向かうと、蓮華と翠が立っていた。
私を睨みつけている。
(なんかしたかな…?)
疑問に思っていると、蓮華は周りにいた宮女を集め始める。
そして大声で、
「最上位の愛藍様は毎晩炎鬼様と密会してるらしいわ!!」
と言った。私は驚きで、動けなかった。
「翠が見たらしいのよ!それで、炎鬼様の部屋には愛藍様についての日記がたくさんあったとか…」
みんな食い入るように蓮華の話を聞いている。私は何も言い返すことができず、ただ呆然と立つだけだった。
「そこに本人がいるわ!ちょっと話を聞いてみましょう?」
蓮華が私に話を振ってきた。私が逃げようとすると、翠に腕を掴まれる。
「逃げないでください」
その目は本気だった。私はおとなしく蓮華のところに行った。行ったところで、何も話すことはないが。
「あんた、炎鬼様と毎晩密会してるわけ?」
腕を組んでいる蓮華にそう聞かれる。私は咄嗟に首を振って否定する。
「でも、翠があんたの部屋に入る炎鬼様を目撃したらしいのよ?」
そう言われても私は首を振って否定する。炎鬼様と私の関係がバレたら、炎鬼様が困るから。
「それに、そのときの炎鬼様、普段は見ないくらい甘かったんだってねぇ?」
そう言われて、私はビクッと反応してしまった。そう、昨夜の炎鬼様を思い出してだ。
「やっぱりそうなのねぇ」
蓮華は私をずっと睨みつけている。私はその重圧に負けないように頑張る。
そして、私の頭の中に一つの疑問が浮かび上がる。
まだ翠を私の部屋に入れてから二日しか経っていない。なのにどうして、私の情報を知っているのだろうか。
私は夜に来るなと言ったのに、翠は来た。
つまり、わざとだろう。炎鬼様と私が密会をしているだろうから、わざと私の部屋に侵入して、その会話を見ていたのだろう。
翠が一人でそんなことをするとは思えない。大体、翠と出会ったのは昨日が初めてだ。そんなことができるわけあるまい。
そうすると、翠に指図できる人…つまり、蓮華が犯人だろう。
「ねぇ、あんた話聞いてんの?」
でも、なんで……。
思えばここに来たときから蓮華のあたりは強かった。
なんで?
そこまで考えたとき、
「聞いてんの?!」
蓮華の振り下ろされた手が私の顔にスローモーションで近づいてくる。
あ、もう当たるなと思ったそのとき、
「パシッ」
誰かが蓮華の腕を掴んで止めてくれた。私がおそるおそる上を見上げると、そこには炎鬼様がいた。
「今の話、全部聞かせてもらった」
冷たく言い放つ炎鬼様に、周囲の宮女たちはビクッと震えている。もちろん、蓮華もだ。
「確かに私と愛藍は毎晩会っていた。でもそれがお前たちと何の関係があるんだ?」
そう聞かれて言葉に詰まる人たち。
「第一、私は愛藍に悩みを聞いてもらってただけだ。勝手に勘違いをするな」
しーんと当たりが静まり返る。今日の炎鬼様は夜の時とは違ってスイッチが入っている。
(かっこいい…)
そこでようやく、私は炎鬼様が好きなんだと自覚した。
そして、この静かな空気を打破したのは蓮華だった。
「あの、私、ずっと前から炎鬼様のことをお慕いしておりましたの…」
消えいるような声でそう言う。炎鬼様は、
「お前が私たちの関係を探ってたのだろう?なのに何だその図々しさは」
そう言って炎鬼様はそっぽを向いてしまった。
そして、私に歩み寄る炎鬼様。
「今度伝えたいことがあるって前言っただろう?」
「うん」
彼は小さく咳払いした。
「俺は愛藍が好きだ。優しくて、まっすぐなところが特に好きだ。…愛藍、どうか俺の伴侶になってほしい」
そう炎鬼様に手を引かれる。周りの宮女たちは突然のプロポーズにきゃーっと叫んでいる。
「私も、話すうちに炎鬼様に惹かれていきました。私は、炎鬼様の伴侶になりたいです」
そう言うと、炎鬼様は少し照れくさそうにして、
「愛藍」
と名前を呼んでくれた。
私はにこりと笑って、返事を返す。
農民出身だろうが関係ない。
私は炎鬼様が好きだ。
そう、心から思うことができた。
プロポーズ後、愛藍と炎鬼はキスをした。
愛のキスを。
