「別に仲良いわけじゃないよ。零番地は…、そうだな、系列店と思ってくれていい」
「本店とか?この店って、そんな大きな会社だったんですか?」
「本店とは違うけど、…まぁ、支店みたいなものは幾つもあるな」
探し物屋とは、そんなに店舗があったのかと、多々羅は驚いた。この店だけだと思っていたが、他にも店舗があるとしたら、愛のように物の化身が見える人間が、正一だけじゃなく、他にもいるのだろうか。
「あ、じゃあ、あの箱の中は何が入ってるんですか?探し物とは別の仕事って、あれの事ですか?」
「だから、多々羅君は知らなくても良い事だってば」
話の流れでこのまま聞き出せるかと思ったが、そんな簡単にはいかないみたいだ。
「教えてくれたって良いじゃないですか!俺、悪いけど辞めませんよ!」
「明日になれば分からないだろ」
「…写真」
ボソッと呟いた多々羅の言葉に、愛はびくりと肩を震わせた。しかし、愛はめげずに背を背ける。
「…み、見たければ、見ればいいよ!どっかにばらまいたって、俺は平気だし!」
「またまた、無理しちゃって。良いんですか?本当に良いんですか?誰にも知られたくない秘密なんでしょ?」
しつこく聞けば、愛はくるっと振り返って、多々羅にしがみついた。
「…やっぱり駄目だ!写真どこやった!」
「教えられませんよ、そんな事」
「…じゃあ、俺も教えない」
「えぇ?それはズルくないですか?」
「ズルい事言い出したのは、そっちだろ」
「ちょっと店長!」と、怒って階段を上がる愛を多々羅が追いかける。
こんな事をしている内は、まるで昔に戻ったかのような気にさせられる。必要ないなんて言ったのだって、ただの軽口で、本当は少なからず必要としていると、その本音を隠したいだけなのではないか、そう思えば、多々羅の心は少し軽くなる。
愛の本音がどこにあるのか、もし言葉通りだとしたら。そう思ってしまえば、せっかく立て直した決意が揺らいでしまいそうで、多々羅は愛の言葉から目を背けるのに必死で、だから、多々羅は気づかなかった。
誰も居なくなった静かな店の片隅で、白い光が、ぼんやりと灯っていた事に。
***
その後、多々羅は忘れていた洗濯物を取り込み、リビングで二人は向き合ってお弁当を食べた。
一週間前に多々羅が来てから、あのゴミの山があったとは思えない程、部屋は綺麗になっていた。
二階の居住スペースは、階段を上がるとすぐ横にキッチンとリビングがあり、その奥に、トイレと風呂がある。階段の脇には廊下があり、そこを通って手前が愛の部屋で、奥が多々羅の部屋だ。階段は更に上に続き、屋上に出られるようになっており、洗濯物は屋上で干している。
今日買ったお弁当は、肉がたっぷり乗った牛丼だった。
多々羅が一人暮らしをしていた頃は、よくお弁当を買って食べていたが、愛はお手伝いさんも居るお屋敷で育った身だ、舞子も手料理を持って来てくれていたと言っていたし、こういった弁当は嫌だったらどうしようかと心配したが、愛は特別嫌な顔をせず、寧ろ美味しそうに頬張っている。食に関しては拘りが無いようだ。
「明日はちゃんと作りますね」
「多々羅君のご飯も美味しいけど、お弁当も美味しいよ。不思議だよな、スーパーで見た食材が、こんな風に変わるなんてな」
愛は、感慨深くきんぴらごぼうを箸で持ち上げた。それは一昨日、多々羅が作ったおかずの一つだ。弁当を広げて肉しかない事に気付き、冷蔵庫から余っていたおかずを共に並べた。きんぴらごぼうの他に、ほうれん草の和え物もある。やってみて分かった事だが、自分は意外と料理上手ではないかと、多々羅はちょっと得意気だ。
「はは、今度一緒に作りましょうか」
「そうだな、そういえば料理なんてしたこと無かったな…」
そこで多々羅は、ふと、愛が包丁を持ってキッチンに立つ姿を思い描いた。立ち姿は完璧、だが、手元は確実に危うい想像しか出来ず、絶対に愛を一人でキッチンには立たせないようにしようと、こっそり胸に誓った。
「…瀬々市のお家じゃ、作る必要ないですからね。そういえば、皆さんお元気ですか?俺が行った時、家には正一さんと春子さんしか居なくて」
「…元気じゃないか?俺も会ってないから分かんないけど。皆、仕事で忙しいだろうし」
淡々と愛は話す。その表情からは穏やかさは消え、話す声もどこか無関心に聞こえる。そんな愛の様子に、多々羅は違和感を覚えた。
正吾と夏枝は愛の義父母だが、親に変わりない。姉弟の結子と凛人も同様に、愛が遠慮する事はあっても、彼らが愛と距離を置いていたとは思えなかった。多々羅から見れば、血が繋がらなくても、彼らは仲の良い普通の家族だったからだ。
なのに、今の愛からは、家族と距離を取っているように聞こえる。
愛は、どうして家族と距離を取るのだろうか。
「そうなんですね…今度一緒に会いに行きましょうよ」
「…俺はもう、瀬々市とは関係ないから、多々羅君一人で会ってきなよ」
「そんな寂しい事、」
「関係ないから、この店を引き継ぐと決めたんだ。この店の仕事は、瀬々市と離した方が良いんだよ」
突き放すように言う愛に、多々羅は反論しかけた口を黙って閉じた。黙々と食事を進める愛は、これ以上、話す事はないと言っているかのようで。そう思ってしまえば、愛との間に、また厚い壁が立ちはだかるのを感じてしまう。
多々羅は力なく視線を落とした。



