メゾン・ド・モナコ






その後、なずなは部屋に戻ると、一つ息を吐いた。
一歩踏み出せたと思ったけれど、本当は皆の為に動く事で、自分を誤魔化していただけなのかもしれない。
自分はまだ、過去から立ち止まったままなのだろうか。

「…私が出来ること、」

自分が出来る事といえば、ギターが弾ける位。そのギターだって、プロの世界には不必要で、仲間には足枷となった。
精魂込めて作った曲を、ボーカルの瑠依(るい)も喜んで歌ってくれたのに、それは思い違いだったのだろうか。

「ただのステップアップの道具かな…」

瑠依にとって、自分達のバンドはその程度のもので、最初から切り捨てられるものだったのだろうか。
なずなは、部屋の角に立て掛けてあるギターに手を伸ばし、軽く弦を弾いた。ぽろん、と意味のない音に、なんだか泣きたくなる。

瑠依とは、音楽仲間との繋がりで出会った。曲の作れない彼女と、歌が歌えないなずな。やりたい音楽の方向性も似ていて、共に練習を積み重ね、仲間を増やし、ライブ活動を行ってきた。パフォーマンスについても、どうしたら人目につくのか、皆で試行錯誤を繰り返し、この先も一緒にやっていくものだとばかり思っていた。

そういえば、暫くギターには触っていなかった。チューニングをして、コードを押さえ、弦を鳴らし、そっと歌を口ずさんでみる。
誰の為でもなく、誰の物でもなく、自分だけの確かなもの。疑う事もない、真っ直ぐ見つめた未来に、必ず行けると根拠もなく思っていた。

無敵だった。
それが、簡単に崩れていく。

泣きそうで、でも負けたくなくて、もう戦いの場にすら立ってない事に気付き、声が震えていく。
ぽた、と零れる涙に、振りほどくようにギターを鳴らし、下手な歌を、そっとそっと歌い上げた。

まだ、なずなはどこにも行けない。



その音色を、ナツメは猫の姿のまま、ドアに耳を貼り付け、こっそりと聞いていた。