メゾン・ド・モナコ





なずなの暮らすアパートに着くと、昨夜と変わらない部屋の惨状を見て、なずなは改めて絶句した。明るい日の下で見ると、その惨状がより鮮明に見え、夢ではなかったのだなと、思い知るようだった。

「あちゃ~予想以上だね」
「何もここまでしなくてもねぇ…なずちゃん、大事な物とかは無くなってない?」
「えっと…」

通帳や印鑑、大事な書類等は棚の引き出しの中だ。それを先ず確かめようと、よろよろと室内に入った時、部屋の隅で、きちんと壁に立て掛けられたままのギターを見つけた。

「…あ、」

散乱する荷物の中、倒れもせず立て掛けられたままのギターを見て、なずなは通帳の事も忘れ、ホッと胸を撫で下ろしていた。

「…大丈夫です、ちゃんとありました」

振り返りそう言えば、皆も安心した様子だ。

「それは良かった。じゃ、ちゃっちゃとやっちゃいますか」
「ふふ、お片付けは得意よね?ハクちゃん」
「うん!」
「ありがとうございます、皆さん」

春風が倒れた家具を起こし、マリンとハクが散らばった物を一纏めにしてくれる。
なずなは、ギターをそっと撫でた。最近は触れる事もなかったギターだ。夢に敗れ、もう触る事も無いと思っていたけれど、真っ直ぐ立つギターを見て、ホッとしていた。なずなが落ち込む間も、この子は真っ直ぐ立っていたのだと、そんな風に思えたからだ。
敗れた夢とはいえ、ギターは大事な存在だった。ずっとなずなを支えてくれた、それは今だって、大事な相棒に変わりはない。

「…ごめんね」

そう声を掛けたなずなの顔は、どことなく晴れやかだった。いつまでも引きずってはいけないと、この子に叱咤された気分だ。この部屋を片付けたら、ちゃんと一歩が踏み出せるかもしれない。曖昧にしていた、新しい日々への一歩を。

これで、区切りをつける。

なずなは決心して頷くと、早速皆に混じって、作業に取り掛かった。

マリンやハクが纏めてくれた荷物から、必要な物、日用品や服等を鞄に纏めていく。
まだ、火の玉の真犯人が捕まっていないので、それまではメゾン・ド・モナコでお世話になる。
必要な物以外は、元の場所に片付けていった。春風は、家具を起こしつつ部屋の様子を見ていたが、特にあやかしの気配のするものはなかったようだ。
火の玉の真犯人は、この部屋を訪れてはいないのだろうか。

「一応、犯人が捕まるまでは、アパートには帰らない方がいいね。もし必要な物を取りに来るなら、必ず誰かと一緒に来る事。あと、外も一人では出歩かない方がいいだろうね」

春風の言葉に頷き、なずなは頭を下げた。

「皆さん、ありがとうございます、本当にすみません!」
「もう、なずちゃんが気にする事は何もないわ」
「早く犯人捕まえられるように頑張るからさ、フウカ君達が」
「あら、春さんがやらないと」

またミオちゃんに怒られるわよ、と笑うマリン。
なずなは、温かな皆の気持ちに頬を緩めた。そして、玄関の鍵を締める。背中には、相棒のギターを背負い、新たな一歩を踏み出していく。