メゾン・ド・モナコ



「大昔は、人の世とあやかしの世の境界なんてなかったんですけど、力の差とかで争いが起きちゃってね。それを身を挺して止めたのが、スズナリってあやかしなんです。鈴鳴(すずなり)神社って、あるでしょ?」

それにはなずなもピンときた様子で、身を乗り出した。

「あ!金髪のイケメンの神主さんがいる神社ですよね!縁結びで有名な」
「そうそう、因みに彼もあやかしで、妖狐なんだ」
「え、」
「ユキはなかなかのあやかしだよ、ゼンってのがあそこでは一番だけど」

春風の相槌に、なずなはさすがに言葉を失った。テレビやネットでも、金髪のイケメン神主と呼ばれていたので、それを疑いもしなかったが、まさかあやかしだとは思いもしなかった。
本当に人々が知らないだけで、あやかしは人の日常に溶け込んでいるらしい。
固まるなずなに苦笑いながら、ミオは続けた。

「まぁ、その鈴鳴神社が、人とあやかしの平和の象徴なんです。俺達あやかしと人間は、一緒に暮らせないと分かって、二つの世が出来た。でもね、元々一緒に生きてきたわけだから、人と仲の良いあやかしも沢山いたんだ。中には家族になったり、仕事を共に成功させたりね。
そんな、人の世から引き離せないあやかし達は、あやかしだとバレない事を条件に、人の世で生きていく事を許された。
ずっと昔から、人として姿や職を変えながら生きてるあやかし、人の世に憧れて来るあやかし、ナツメ君みたいに、人の世で活躍するあやかしに憧れてやって来る場合もあれば、逆に、あやかしの世が生きづらくてやって来る者もいる。でも、誰でも来れるわけではなくて、ちゃんと申請と許可が必要なんだ。中には、人の世で暴れてやろうって輩もいるからね。
そういうあやかしは、抜け道を通ったり、偽って人の世にやって来たりする。だから、俺達は何か問題が起きてないかパトロールしつつ、あやかしの世と行き来して情報を集めたり、調査をしてるんだ。
人の世にいるあやかしが、安心して暮らせるように。それは、人の安全の為でもあるから」

そこで、ナオがソファーの上に立ち上がり、鹿撃ち帽を被り直した。

「それで、今回問題視されたのが、このアパートの住人という訳なのだよ」

胸を張る姿はホームズを思い描いているのだろうか、本人は格好よく決めているつもりだろうが、可愛さが溢れている。

「ここのアパートのあやかしが火の玉騒動の犯人だと、何者かが噂を流してる。人の世に馴染めていないのも、その証拠だってね。だから、犯人捜しもいいけど、人とも仲良くしろって言ったんですけど」

ミオは言いながら、ナオの両肩に優しく手を乗せ、流れる動きでナオをソファーに座らせた。

「それは、人の世に溶け込めって意味だったんですけどね。まさか、正体を晒して引き込むとは思いませんでしたよ」

半分呆れ顔のミオに、春風はおどけた様子で肩を竦めた。