メゾン・ド・モナコ






それからは、いつも通りの朝を迎えた。朝食では、なずなはブロッコリーを切ってレンジで温めただけだったが、それでもちゃんと出来ればフウカは褒めてくれた。子供扱いされているような気がしたが、それでも褒められれば嬉しいし、やる気が出てくるもの。しかし、「そんくらいで甘やかすな!」と、直ぐ様ナツメの喝が飛んできたので、その細やかな幸せの時間は、賑やかな朝へと様変わりだ。
そうして、賑やかさを繋ぎ止めたまま朝食が終われば、あっという間に仕事組を送り出す時間となった。

「なるべく早く帰りますから、気をつけて下さいね」
「はい、ありがとうございます。フウカさんもお気をつけて」
「はい、行ってきます」

フウカを送り出そうとした時、タイミングよくインターホンが鳴った。

「あ、ミオさん達ですよ、きっと」
「ミオさん?」

ミオとは、昨日、春風(はるかぜ)が言っていた、人の世のあやかし達を管理しているというあやかしだ。
フウカがドアを開けると、そこにはスーツをきっちりと着て、白に近い灰色の髪を持った綺麗な顔立ちの青年と、ギンガムチェックの半ズボンにサスペンダー、ふわっとした髪を隠す鹿撃ち帽、まるでシャーロックホームズを思わせる出で立ちの、愛らしい少年がいた。

「おはようございます、ご足労頂いてすみません」
「おはよう、これも僕達の仕事だから気にしないで。それより、お手柄だったね」

灰色の髪の青年が、物腰柔らかに言う、人の良さそうな青年だ。その言葉に、フウカは苦笑った。

「だといいんですけど…」
「大丈夫!僕達がちゃんと皆に言っておくから!」

鹿撃ち帽を被った少年は、胸を張って帽子をくいっと直した。任せてくれと言わんばかりの愛らしい姿に、フウカも笑って礼をいった。

「仕事でしょ?引き止めてごめんね」
「すみません、失礼します」

それから、フウカはなずなに目を向けて、「行ってきます」と、もう一度声を掛けた。「行ってらっしゃい」とフウカを送り出すと、なずなは二人に挨拶をしながらスリッパを差し出した。

「ありがとう、あなたがなずなさんですね」
「は、はい、高野(こうの)なずなといいます」
「話は聞いてるよ、俺はミオ。こっちがナオ」

灰色の髪の青年がミオ、ホームズみたいなコーディネートの少年がナオだ。
ナオはにっこり笑って、なずなの顔を下から覗き込むと、「よろしくね!」と元気良く挨拶する。可愛らしい笑顔につられ、なずなも笑顔で挨拶を返した。
ミオはスラリとした青年だが、ナオは小学生みたいだ。ハクより背が高いので、ハクよりは年上だろうか。

「それにしても災難だったね」
「いえ、皆さんに助けて頂きましたから」
「助かってるのは、こっちもだよ」

ミオの言葉に、なずなはきょとんとしながらも、ひとまず二人をリビングへ促した。
「ミオさんとナオさんがいらっしゃいました」と声を掛けると、春風がソファーから立ち上がり、ハクはマリンの後ろに隠れながらも、キラキラと目を輝かせていた。

「朝早くごめんね」と言う春風に、ミオは人が良さそうに表情を緩めた。

「いえ、それで何か喋りましたか?」
「あぁ。誰かに金と引き替えに騒動を起こしてこいって、指示を受けたらしい。この間、僕達と鉢合わせた火の玉男が彼の兄で、兄の失敗の尻拭いに弟が寄越されたらしい。ここに通うなずな君を襲えと指示を受けたようだ。だが、指示を出した者の正体は、彼にも分からないってさ」

肩を竦める春風に、ミオは眉を寄せた。

「指示役の姿も見てないって事?」
「あぁ、靄にくるまれたあやかしだと言っていた。目の前に指示の紙と札束を出されて、何も考えず手を出したってさ。きっと、火の玉騒動を知って面白がってたんだろ」
「それで、彼はどういう状況?」
「それ以上は聞いても無駄だと判断して眠らせている、術を解こうか?抱えて帰るのも大変だろう」
「暴れませんか?」
「もうそんな気力残ってないと思うよ」

にこりと微笑む春風に、ミオは春風に合わせて笑みを浮かべながらも、少し頬を引きつらせたようだ。
火の玉男に一体何をしたのか、それは神のみぞ知る。