メゾン・ド・モナコ




「す、すみません!ナツメ君かと思って、」

きっと、服と背格好を見て、なずなの事をナツメだと判断したのだろう、寝ぼけ眼では、確かに間違うかもしれない。
そのまま慌てて洗面所から出ていこうとするフウカに、なずなも慌てて呼び止めた。

「え、こちらこそ、お先にすみません!フウカさんどうぞ!」

呼び止められ振り返ったフウカは、ボサボサの頭をそのまま、顔を真っ赤に染めて、うろうろと視線を彷徨わせている。
その様子に、なずなはきょとんと首を傾げた。
なずなは、今更すっぴんを隠しても仕方ないと、すっかり開き直っているが、そんななずなに対し、フウカはどこか照れくさそうにして、俯きながら頭を撫でつけている。だが、いくら撫でつけても、髪がぴょんと跳ねてしまっていて、なずなはますます微笑ましい気持ちを膨らませていた。

「すみません、その、朝はそんなに得意じゃなくて…」
「え?誰より早起きなのにですか?」
「僕が起きないと、皆の一日が始まらないので」

まるで一家の母親だ。苦笑うフウカに、なずなはそれならばと、瞳を輝かせた。

「私、通いに戻ったら、朝はもう少し早く来ますよ」
「え?」
「料理はまだダメですが上達させます!それ以外もしっかりやりますから、朝はお任せ下さい!そうしたら、フウカさんも少しはゆっくり出来るでしょ?」

フウカには、世話になりっぱなしだ。料理もそうだが、昨夜だって、急いで駆けつけてくれて、ずっと背負って運んでくれた。なずなは、フウカの優しさに救われてばかりだ、もし力になれる事があるのなら、どんな事でも力になりたい。
熱を込めて言うなずなに、フウカはきょとんとしていたが、やがて、いつものように微笑んでくれた。

「ありがとうございます、…よろしくお願いします」
「はい!」

それから、なずなは改めて昨夜の礼をフウカに伝えれば、フウカはいいんですよと首を振って、それからなずなに気を遣わせない為だろうか、フウカは思い出したように今晩の献立の提案をすれば、二人は話に花を咲かせていく。



そんな二人のやり取りを、遠巻きに耳をそばだてていた春風は、うんうん、と、どこか満足そうに頷いていた。

「いい傾向だね」

そんな感想を持たれているとは露知らず。二人は、穏やかに朝の時間を過ごしていた。