メゾン・ド・モナコ






あやかしといえども、人間の世界で暮らしている以上、働かなければ生きていけない。

フウカはキッチンカーでサンドイッチの販売、ナツメはアイドル、ギンジは隣駅の商店街で働いてるらしいが、なずなには何の仕事をしているのか、教えてくれなかった。

マリンは訳ありのようで仕事をしておらず、春風(はるかぜ)は一応神様であり、アパートの管理やあやかし達の保護をしているので、秘密の援助があるらしい。

ハクは見た目は小学生だが、あやかしと人間では成長の速度も、生きる長さも違うという。学校に通えば年齢に合わせて見た目を成長させていかなくてはならないので、人の世に来た子供のあやかしが学校に通う事はほとんどないらしい。
それに、ハクは人の世に避難してきたようなものだという、今は心の養生も兼ねてゆっくりしているのだそうだ。



そうして、話は戻り現在。



朝食を終えると、なずなは慌ただしく出て行く仕事組を見送る為、玄関に向かった。

「何かあったら、いつでも連絡下さいね。すぐ帰ってきますから」
「ありがとうございます」

フウカは毎朝、こうやって声を掛けてくれる。この一言があるかないかで、なずなの気持ちは随分変わった。今日も頑張ろうと思える、職場にこういった元気をくれる人がいると心強い。なずなは笑顔で頷いた。

「気をつけて下さいね」
「はい、行ってきます」

フウカは爽やかに微笑み仕事に向かった。玄関のドアが閉まり、なずなが小さく気合いを入れていると、

「あらあら~ちょっといい感じ~?」

と、耳元で声が聞こえ、なずなはぎょっとして振り返った。いつの間にか、顔を寄せる程近くにマリンがいた。彼女はこれほど目を惹く存在なのに、気配を消すのが上手い、それも、マリンが人ではないからだろうか。
しかし、今なずなが重きを置くのは、マリンの体質の事ではない。

「ち、違います!そういうんじゃありませんから!」

フウカとの仲を勘繰るマリンへの訂正だ、恐らくマリンはからかってるだけだろうが、フウカの名誉の為にも、ちゃんと否定しなくては。

確かに、ちょっと心が揺らぎそうではあるが。

慌てて否定するなずなをどう見たのか、マリンは、ふふ、と笑い、靴箱から華奢なサンダルを出した。

「お出かけですか?」
「ちょっとお散歩」

そう言う彼女の姿は、まるでネグリジェと見紛う程セクシーなワンピース。普通のワンピースではあるので、外で着れない服ではないが、マリンが着るとなると、何故か目のやり場に困ってしまう。

「…ちょっと大胆過ぎませんか?」
「そう?」
「今日は暑いですから、せめて羽織るものありませんか?綺麗な肌が傷ついちゃいますよ」
「私は水だから平気よ」
「でも、」
「水だって茹ったら大変だ。倒れちゃうかもって、ハク君も心配してるよ」

新たな声に振り返ると、やって来たのは春風で、彼はマリンの肩に薄めのカーディガンを、首にはストールを掛けてあげている。春風の足元にはハクの姿もあった。

「あら、それじゃ着ないわけにいかないわね」

春風の後ろに隠れてるハクは、マリンの微笑みに照れている様子だ。