雨の雫が落ちるなか、恋は突然に。
少年が雨宿りする場所は東恋町の色恋神社。
この神社は、縁結びの神社である。あまり人気ではないが、効力があるとかないとか…。
綾人という少年は、傘に強くリズムを刻んで当たる中、神社を訪問して、社の屋根で雨を防ぎ、傘を畳んだ。
薄暗い社には、独特の雰囲気が漂っている。
少年は、お賽銭の前に堂々と立ち、正しくお参り作法を行い、「好きな人が欲しいです!」と意気揚々に願う。
返事は来ないことを知っている綾人は、再び傘の結びを解いて立ち去ろうと、水の集まりに足を踏み出した。
「お主もお年頃じゃのう」
子供なのか?と考えさせられる声にに思わず、後ろを振り向いた。
そこにいるのは、女の子のみだった。
今の時代に似つかわしい服だな。
そう思ってしまうほど、華やかで綺麗なお嬢さん。
俺の好みの子だ。
そうか、俺の願いが叶ったのか。
凛々しく、でもかわいらしい。
「お主の願いを聞いてやろう」
「俺と付き合ってください!」
彼女と面と向かって告白してみる。
顔を下げて表情は分からないが、漏れた声で困っているのが感じられる。
「お主、童のことが見えているのか!?」
そうそう、見えて…。え?
予想より斜め上で、思わず、顔を上げる。そこには、はにかんでいるが、驚いてもいる可愛い表情があった。
「見えるも何も、可愛い顔が前にいるよ?そんなことより、告白の返事は教えて」
「お、お主とは、付き合えない。あと童は男じゃ」
この見た目で男なの?!小学生かな…。
「小学生じゃないわ。童は、この神社の神、睡蓮じゃ」
睡蓮…嘘だ。
そんなはずはない。だっておじいちゃんが言うには、睡蓮様は300年も前に祀られたと聞いた。
「嘘じゃないわい。神は年を取らない」
あれ、俺、口に出した。
「童は神社の神じゃ。人間の願いを聞く。だから、心が読める」
信用できるとは言えないけど、俺の心を読めているからな。信じるしかない。
「じゃぁ、俺の心を聞いたのなら、付き合って?」
甘えた声を発するものの、睡蓮様は耳を赤くさせながら、「無理じゃ。」と理由もなく、断った。
「なんでよー」
「付き合えることが出来ないのじゃ」
睡蓮様が呆れたように言った。
「神様たちのルール?」
ルールや規則なら、仕方がない。
「ルールというわけじゃないが、事例がなくて、分からないのじゃ」
「でも、おとぎ話で神様と人間が添い遂げるってお話ありませんでしたか?」
名を確か…。
「神恋記じゃろ」
少し睡蓮様の表情が雲隠れした。
「あれは、昔童の…人間界でいう友達が、うっかり人間の前に出てきてしまったのじゃ。その件を、あの方が知って、出会ってしまった人間の記憶を書き換えたのじゃが、その人間は何をしたと思う?」
時代にもよるけど、もしかしたら他の人に言ってしまったとか。
「半分正解じゃ。正しくは、本に書き記したのじゃ。文字は人間の発達からなりうるもの。神の規則として、本などの書き換えは禁止されている。理由は、人間界に干渉しすぎになってしまうのと独自発達を壊してしまうからじゃ」
「神様も大変なんだね」
同情を交えつつ、話す姿もかわいいと気楽なことを考えてしまう。
「とりあえず、付き合う?」
「とりあえず、で片付けるではない。お主とは付き合えない」
揶揄うのではない。と言わんばかりの圧力。
「お主は、顔に出やすいのじゃの、何をニヤニヤとしておるのじゃ」
おっと、うっかり顔に出してしまった。いつもの癖だ。
いつも顔に出やすく、馬鹿にされてしまう。
慣れているから、何言われてもどうでもいいんだけどね。
「はぁ」
すると、何かを吐き捨てる勢いでため息をつかれた。
「お主は、その考え方をやめよ。その、何を言われても構いませんよ。という考え方を」
あ、そうだ。この人俺の考えていることが分かるのか。違うことを考えていたから、忘れていた。
「睡蓮様は、俺のことそんなに気にしてくれるんだ。ふぅん」
やっぱり、思った通り。睡蓮様は優しい。
「して、お主の名前を聞いても良いか?」
「俺?綾人、花村綾人」
「ほう、綾人か。良い名じゃな。花村…どこかで聞いたような…」
「俺の家系は、アニメみたいな話かもしれないけど、特殊能力を持つ家系なの。母は、予知夢。父は、筋力強化。俺は、表向きは、植物の開花。兄は、他者の記憶変化」
俺の能力は弱い、もしかしたらバカにされる。でも睡蓮様なら、この方には伝えても良いように直感で思った。
「表向き?どういうことじゃ?」
食いついた!
「能力の概要は本人しか分からない。俺の能力は、人外の能力を活性化させる。要するに、睡蓮様の力を活性化させる」
「本当のか?」
「そう、能力を使うのにも条件がある。母であれば、予知をするのにも、夢を見ないといけない。父は、筋力を強化しようとしても長時間もたない。俺は、人外のみ可能」
「そうか、思考を読んでしまったが、お主も辛い人生だったのだな」
家族の話をしたせいか、無意識で嫌な記憶を思い出してしまった。睡蓮様はもう分かったよね?
俺の能力は弱い。だからこそ、それによる反動もある。それは、家族から除け者にされること。兄の力が強いというのもあるが、いじめが絶えない。
「そうか、聞いてしまって悪かった」
睡蓮様の小さな手が、頭を撫でてくれた。その手は、温かい。優しさが俺を包み込む。
長く話していたせいだろうか、時は一瞬で過ぎた。日が俺たちに別れを告げている。
「そろそろお主も帰る時間であろう。また明日も来るとよい。童は待っておるぞ」
「睡蓮様!絶対に落として見せますね!」
「分かった」
今日初めて会ったのに、あの時より、声色も優しく、穏やかだ。
睡蓮様はやっぱりお人好しなのかな。
綾人は、次の日から、ほぼ毎日、童に会いにこの神社に来る。雨の日も来るものだから、心配もあったが、「大丈夫!」と生意気に言うものだから、心配は無用じゃったな。
今日は、来ないか…。
もう、日が落ちて空が暗闇に呑まれそう。
「ごめん!睡蓮様遅れた!」
綾人が暗闇から現れてこちらに走ってくる。
「こんな遅くに、どうしたのじゃ」
「睡蓮様と話したくて」
「そうか」
じゃが、お主の顔はあの空に飲み込まれてしまうほど、暗い。
すまない、綾人。お主の記憶を見せておくれ。
童の見た光景には、この元気さの欠片もない綾人が見えた。
何度も殴られたり、蹴られたりを繰り返される綾人。
目の前にいるのは誰じゃ、綾人よ。
「お父さんだよ」
童は声には出していないのに、綾人から返事が返ってきた。しかも、記憶ではない。今の綾人だ。
「お主、なぜ分かった」
口には出していないはず。
「分かるよ。何度も話していればね。俺の記憶を覗いたんでしょ。実は、お父さんから、暴力を受けて遅れちゃったんだ」
「…すまない、綾人」
「睡蓮様が謝らなくて良いよ」
お主はなんて顔をするのだ。
童に優しいと思うのは、良いが今のお主は童よりも優しいぞ。
「お主、一つ聞いても良いか?」
「いいよ」
「童の眷属として来ないか?」
「けんぞく?」
「そう」
「眷属とは、血を交わすようなものではない。簡単に言えば住み込みで神主の役割をする者。」
「なるほど、親に相談してみるよ」
「そうか、ならばもう世は暗い。危ないからそろそろ帰るとよい」
綾人が帰る姿は、先ほどより、落ち着きを取り戻し、雲隠れした思いが晴れたように感じた。
「ただ今帰りました」
「遅い!」
父の声は、トラウマを思い出す。また、殴られてしまうのではないか。もう怖い思いはしたくない。無駄に広く地域の人からは「豪邸だ」と囁かれるほど、俺の家はお金持ちだ。
お金持ちの能力を有効活用すれば資金が手に入るからだ。
「も、申し訳ございません」
怯えてしまって声が語尾につれて小さくなった。しかし狼狽えず、物申す決意を固めた。
睡蓮様に会うために…。なぜあの人を今この場に至って考えたのだろうか…。
本当にあの人のことが好きなんだね…。
改めて思う綾人の心は温かさで包まれている。
「一つよろしいでしょうか」
「なんだ。ゴミの分際で」
「とある神社から住み込みで神主の仕事をしないか。と言われました。よろしいでしょうか」
「お前が?では良い。代わりに、何発か殴らせろ!」
もう、会わないかもしれない。ならば、殴られても我慢できる。
俺は父に体を預け、いつも通り殴られる構えを整えた。
殴られた後はいつも、数分間は動くこともできない。しかし、今夜は違っていた。もう、こんな奴に会わなくて済むからだ。
「では、身支度を済ませますので」
自分の部屋に向かい、重い足取りを引きずる。
「綾ちゃん、あの話は本当なのですね」
背後から声がした。母の声で間違いはない。
「はい、本当でございます」
すると、母の声は、寂しさを帯びて発せられた。
「そうなのね、良かったわ。あなたが幸せになることを祈るわ。これ、少ないけれど、綾ちゃんが大人になったときのために貯めておいたお金です」
そう言って母は、通帳と印鑑を手渡した。
「ありがとうございます」
そう言い、再び部屋へ向かった。
元々、孤立状態だったため、荷物は少ない。
「今夜にでも行くか。睡蓮様にまた迷惑を掛けちゃうな」
「はやく、綾人に会いたいな」
もう、そう考えるほど、過保護になってしまったのか。
「睡蓮様!」
綾人は少し大きいリュックを背負って元気よくこちらに手を振っている。
「綾人よ、お帰り」
今にも泣きそうな顔だ。
「もう、遅いから、神社で寝るとよい。この神社、さきほど綺麗にしたから」
「分かった」
綾人は、リュックの中から、使い古された布団を出し、ゆっくりと眠りについた。
疲れているのか、すぐに寝息が聞こえ、寝息交じりに言葉も聞こえてきた。
それは…あまりよくないものだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい。もう、もう悪いことはしないから。ごめんなさい」
童は無意識に綾人の頭を撫でて落ち着かせた。
「もう大丈夫、大丈夫じゃ。お主は童と一緒じゃ。付き合うことはできないが同棲はしてやれるぞ」
その日は、寝ている綾人をずっと眺めていた。
翌日から、綾人は元気を取り戻し、ウキウキで神社の手入れをしている。童も元気な綾人を見ることができて満足じゃ。
「ねぇねぇ、睡蓮様!そろそろ俺と付き合ってよー!」
「何度も言っているが、無理なものは無理じゃ」
この会話は何度目じゃ。そろそろ折れてもよいものを。
「俺は諦めないからね!その顔、早く折れないかなって考えているんでしょ」
綾人のほうが一枚上手のようじゃな。負けたわい。
「分かった。して、綾人よ、少しお使いを頼めるか?」
「睡蓮様のお願いなら、なんでも聞きます」
なんでもって…。
「ラナンキュラスという神が西麗町の神社で祀られている」
「西麗町?あぁ、隣町か」
「そう、ラナンキュラスにこの手紙を渡してくれないか?」
懐から巻物状に巻いた紙を綾人の手に差し出す。
「いいんだけど、睡蓮様はいかないの?」
「あやつは、少し苦手でのう」
「そっか、分かった。なんて神社?」
「美麗神社じゃ」
「了解!」
綾人よ、無事を祈っておるぞ。
綾人は、小走りで鳥居を潜り抜けた。階段を降りるため、徐々に綾人が見えなくなってしまう。
こんなにも、綾人が離れるのは寂しいものじゃ。
「さて、近くに駅はあるかな」
調べたところ、ここから西麗町は遠い。
睡蓮様なら、ここから飛んであっという間なんだろうな。
そんなことを考えながら、携帯と顔合わせをする。
最寄りまで、乗り継ぎをしないといけない。
「西麗駅か。なるほどね。色恋駅から、二時間か、長いな」
駅のホーム前で切符を購入して、改札を通り抜け、黄色の点字ブロックを目印に電車を待った。
早く、睡蓮様と付き合いたいな。
もし、付き合えれば、あんなことやこんなこと。
ニヤニヤが止まらない。
そんなことばかり考えていると、電車が目の前に「早く乗るなら乗れよ」と言わんばかりに待っている。
その後車内を眺めて、何駅か過ぎたころ、車内のみんなに注目されている人がいる。
女優かな。そうおもって携帯を見直す。
「ん?ねぇ、あなた」
「何?」
「君から睡蓮ちゃんのオーラがするのだけど」
睡蓮ちゃん? 睡蓮様のことか。
「それが何か?」
この人が俺に話しかけられたせいで、俺に向けられる視線が痛い。まるで、「なんであんな小僧に」やら「あんな男、妬ましい」などと。
あぁ、やだやだ、迷惑。
「私の名前は、ラナンキュラス。西麗神社の神よ」
「は?」
とっさのことに驚いた。でもそんなことより。
「お前、なんでここにいるんだよ。俺が切符を買った意味ねぇじゃねぇか。お金返せ」
そう、睡蓮様のために使ったお金。こんな女のために使ったお金じゃない。
そんな言葉を発したせいで、もっと痛い注目を浴びた。
「とりあえず、睡蓮様がお前にこれを授けろと言われた」
リュックから、睡蓮様から預かったものを乱暴にラナンキュラスに差し出した。
「ありがとう。そうだわ、風の便りで睡蓮ちゃんが、召使いを作ったって聞いたわ」
「あ?召使いじゃねぇわ。眷属になったんだよ」
「なるほどねー」
この女は、不敵な笑みを浮かべて、どこから取り出したかわからないが、財布から今までの電車賃を貰った。当然だ。
「じゃぁ、次の駅で一緒に降りましょう」
そう言い残し、次の駅に到着してドアよこのボタンを押して降りた。
「では、ちょっと待ってね」
すると、なにか黒い円形の空間がそこに現れた。そこに今まで持っていたデパートで爆買いしたであろう荷物を全て入れた。すると、空間は閉まり消えた。
「君、私の手を貸して」
こんな女の手を繋ぐのか。そう、愚痴を思いながら手を差し出した。
瞬時に、場所が切り替わり、目の前には、色恋神社の鳥居があった。
「これは、空間移動よ」
「へぇ」
興味なさそうに発すると、ラナンキュラスは少し残念そうだった。
しかし、俺には関係ない。
すぐに手を振りほどき、「ありがとう」と発してそそくさと睡蓮様の元へ走り出した。
「睡蓮様!ただ今戻りました」
「綾人よ、早かったな」
睡蓮様が嫌な顔を見せるとは、珍しいな。可愛い。
目線の先には、鳥居の真下で堂々とラナンキュラスが笑顔に手を振っている。
「睡蓮様、分かります。あの女、面倒くさいです」
「まぁ、悪い奴ではない。綾人よ、信用はしてよいぞ」
睡蓮様の頼みだから少しはするが、裏切るようには見えない。いや、そう見せているのかな。
「睡蓮ちゃん、お久しぶりー」
「ラナンキュラスよ、綾人のことをあまりいじめないでおくれ」
睡蓮様は優しいな。俺なら、絶対話しない。
「こら、綾人よ、そんなことを言うでない」
「ごめんなさい」
「いよいよ、睡蓮ちゃん。でさ、頼みがある。この子ちょうだい」
「絶対嫌。あと、綾人はものではない。てか、お主にはもう眷属がいるであろう」
「いるよ。あの子可愛いんだ。睡蓮ちゃんがそんなこと言うなんて珍しいね。神社の神でありながら、人間不信を持っていたのに」
「それで、読んでくれたか?渡したものは」
「まだぁ、そんなに重要?それだったら読むけど」
「いや、それほど重要ではない。あと、お主はさっさと帰れ」
「寂しいこと言わないでよー」
早く帰ってくれないかな。あと、俺はお前の眷属になる気はない。
「この後は、澪《みお》ちゃんを愛でるからまたね」
澪?誰だ。
「ラナンキュラスの眷属じゃ」
「なるほど」
本当に嵐みたいな人だな。人っていうか神か。
「さて、切り替えて、一緒にご飯でも食べるか」
「はい!」
毎回、ごはんは睡蓮様と共に行きつけの居酒屋で食べている。
神が飯を食べるのかって思うけど「食べなくても生きてはいられるけど、綾人は人間だから一緒に食べる」と言っていた。俺のためとか、睡蓮様優しい。本当に大好き。
綾人は、考え事に集中しているせいで、目の前を歩いて頬を赤らめている睡蓮様に気づかない。
「おじさん!ほうれん草とベーコン焼き一つ!」
「お主は毎回来たら必ずそれを頼むのだな。なら童は、オムライスを一つ」
奥の厨房の方から活気よく「了解」の二文字が響いた。
「だって、これを初めて食べた瞬間、ずっとこれ食べたいと思ったもん!」
「不健康になるぞ」
呆れながら呟かれた。
「心配してくれてありがとう!」
お会計を済ませ、店を出る寸前、喝のある声が店内に響き渡った。
「睡蓮様と来れてうれしい!」
俺はそう言って空いている睡蓮様の頬に唇を押し付けた。
蓮様の頬は柔らかく、弾力性があった。口づけをしたときは、感じなかった温もりが徐々に上がっているのが唇を伝ってわかる。そう、睡蓮様は照れている。多少の間があった。
男の子のはずなのに、睡蓮様の顔が女の子に見えてくる。
「お、おおお、お主何をしておる!?」
「照れちゃってかわいいなー。毎日、告白しているんだからキスくらいするでしょう?」
手で顔を隠す仕草も、慌てて視線を逸らそうとしてもついつい見てしまう姿も、すべて愛しく思える。
素直になれないのは少ない時間だけど、一緒に暮らしていて分かってきた。しかも、俺が「かわいい」とか「好きだよ」とか毎回言っているのに慣れてないせいで顔が火照っている。
「睡蓮様、かわいいね」
「な、な、なんじゃお主?!いつも急すぎるのじゃ!」
案の定、顔が火照って挙動不審になっている。まるで過ちを隠そうとする子供。
「して、お主、今日も一緒に寝るのか?」
「うん!当たり前!」
「当たり前か…」
睡蓮様は優しい。本当は年齢的にも一人で寝ることが好ましいが、家族の件を睡蓮様は承知している。だから、いつもそばにいては睡蓮様の温もりを分けてくれる。
そして、時折静かになるも、その時間も良いと考えながら、俺らは色恋神社から月の光に照らされながら、ゆっくりと帰路に就いた。
「お主と出会ってもう、一カ月じゃな」
敷布団をひいているとき、睡蓮様は茶を優雅に飲みながら、ぼそっと口にした。
俺は、口で言うのではなく、心の中で「そうだね。睡蓮様ありがとう」と呟いた。
「俺は、このまま一生、睡蓮様と居たいな」
「それはうれしいな」
その場で朗らかに笑う睡蓮様は、太陽と似ていた。夜なのに太陽という言葉はおかしいが、それほどまでに、俺の心は浄化されたのだろう。
「睡蓮様のばか」
しかし、告白だと気づかない睡蓮様は、鈍感すぎる。
「ばかとはなんじゃ、童はばかじゃない」
まるで幼少期に残ったかと思うほど、手をフリフリと動かしていた。
布団の準備を終え、睡蓮様には外の空気を吸ってくると嘘をついて、ひんやりとした風が服の生地を通って肌に当たった。
「こんな生活がずっと続いてほしいな」
神様が近くにいるのだから、睡蓮様に頼めばいいのに、俺は無意識に天を仰いだ。
