「はぁ……死ぬかと思った」
僕は忘れていた。すっかりまるっと完全に。忘れていた。
────例のヤクザの依頼をだッ!
無理もないだろう。この一週間にどれだけのことがあったというのか。僕だって暇じゃない。大変だったんだ。
などと自分に言い訳をあれこれ施したが、最大のピンチはチーちゃんがドタキャンしたことだった。
僕自身、ヤクザがぞろぞろとレストランに到着してきてからこの一件を思い出したのだが、とにかくなす術がなく詰みかけていた。
……そんな僕を救ったのが、モグリさんだ。
田原会、扇組の双方から銃を突きつけられている中、悠々と登場したモグリさんは、静かに言った。
「調理はじめるぞ……オーナー」
あとはすべて、うまくいった。
戦争は止めることができたし、扇組からの借金は消えた。さらに田原会から謝礼ももらえた。
万々歳だ。
そしてなにより────
彼が、うちの専属シェフになってくれた。
「モグリさん。条件面について話し合おう」
「どうせ給料でねーんだろ。3食昼寝付きでいーよ」
「それは保証する。あと個室もあげるよ」
「雨の日は一緒に寝てくれるか?」
「へ……あぁ……いいよ……?」
色々あったけれど、悪くない。いまはそう思っている。



