湖辺の音味しいレストラン


 《……中央本線。特急あずさ21号、新宿行き。次は甲府、甲府に停車いたします》

 通路側の席に座る私と、隣の窓側に座るリコ。

 あのあと、音味しい料理を食べてからレストランを出て、帰りの特急に乗るまで……ひと言もリコは発していない。
 ただ、電車の指定席に座ると同時、彼女はそっと私の手を握った。それから今に至ってもずっとだ。ずっと手を握っている。こちらは見ずに、窓の外を見たまま。

 やがて甲府へと着いた。最終便にも関わらず、ホームへと人波がぞろぞろと降りてゆく。
 その中に、小学生くらいの女の子ふたり組の姿があった。
 大きなリュックを背負い、手を繋いでニコニコしながら何やらしゃべっている。

「ねぇ、アスミ。覚えてる?」

 すると、リコが私の方を見ずに語りかけて来た。その声は小さくて震えていて、けれどどこか力強さも感じさせる不思議なゆらぎだった。

「いや、覚えてないか……」
「いいよ、リコ。話して。ちゃんと聞くから」

 リコはぐすっと鼻をすすった。握る手にも力がそっと加わる。

「小学生の頃ね。あたしさ、いじめられてたんだ。覚えて……ないよね?」