湖辺の音味しいレストラン


「東京までどんくらいかかるんだ?」
「うーん、最終便だと3時間はかかったような」

 お客様を見送ったあと、僕らはキッチンの片付けを済ませたのち、遅めの夕食を摂った。
 音味しい料理以外の炊事はいつも僕の担当だ。
 大したものはできないけれど、一人暮らしが長かったから家庭料理くらいならあらかた作ることができる。
 今日は残った巨大パンの切り身と、野菜たっぷりのコンソメスープで晩ごはんだ。

「なぁ、客の話は守秘義務だっけか?」
「そうだよ。お客様の記憶を覗く以上は、僕らの中に閉まっておこうね」

 わかった。と頷きながら、モグリンがパンをちぎろうとする。しかし硬くて手こずっているようだ。

「お前さ、プラトンって知ってるか?」
「ブラトップ?」

 はぁ。とため息をついて、モグリンは続けた。
 
「大昔のギリシャに、プラトンっていう哲学者のおっさんがいてさ。そいつが言うには、人間ってのは元々ひとつの球体だったんだってよ。そこには女も男もなくて、寂しさを感じることもなかったらしい。でも何を思ったか、神様がその球体を2つに割っちまったんだと」

 モグリンがパンをふたつに引き裂いた。

「それからだ。人間がふたつに別れたのは。それから……寂しくて仕方なくて、死ぬまで誰かを求めるようになったんだってよ」

 そう言い終えると、モグリンはパンをスープに沈めた。水気を吸って、次第にふやけてひとつにくっついたパンを見つめながら、続けてこうつぶやいた。

「仕方ないよな。神様が悪いんだ」

 僕は手元のパンを見つめた。ちぎろうとしたが硬すぎる。
 仕方がないから諦めて、僕もモグリンのようにスープの中にパンを沈めた。