「やれやれだぜ」
「さて、はじめようか」
お客人を無事迎え入れ、いよいよ調理開始だ。
僕はDJブースの前に立ち、モグリンはヘッドホンを付けてキッチンに立つ。
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この調理用BGM(つまりレシピだ)は、音味しい料理を食べた人の脳内に流れるミュージックビデオの楽曲と似て非なるもの。
僕が客から提供された短歌から“想い”を回読したものを曲にして、モグリンの調理の進行に合わせてその都度ミックスするという、いわばナマモノ。それは、やはり調理にはテンションというものがあるからだ。思い出の中に、喜びや悲しみが同居しているように。
これより、モグリンは僕の作った曲に乗って踊るようにして調理するのである。レシピの抑揚に合わせて完璧な工程、完璧な味付け、完璧な熱加減。それら全てが合わさり、味の姿をしたメッセージとなって舌に乗れば、それが食べた人の脳内に“走馬灯”を走らせる。
「いくよ、モグリン」
「おう、いつでもいいぜ」
さぁ、調理開始だ────
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おっと開始早々、モグリンどこへ行く?
職務放棄か? まだ怒っているのか?
不安をよそに、モグリンが厨房の奥から額に汗してよっこらしょと持ってきたのは、初競りで出てくるマグロみたいな巨大な“パン”だ。
ドシン! とパンらしからぬ音で作業台の上に横たわった巨大パン。モグリンはそれを、これまた大きな刀みたいな包丁でカットしてゆく。
1.5cm幅にパンをスライスしたモグリンが「こんぐらいデカいんだぞ」と、ドヤ顔でパンの切り身と自分の細腕を並べてアピールしてくるのが可愛い。
ここで一旦、パンはピザ釜でこんがり焼きを入れる(短時間でOK)。
その間に、小女子をフライパンで炒って香ばしさと食感を際立たせる。
キャベツは水気がでるので熱を加えず、細かく手で千切ってごま油と塩でマリネしておく。
パンを釜から取り出し、焦げ目のつき具合を確認したら、ローストしたニンニクを塗って香り付け。
最後に、マリネしたキャベツと小女子を溢れんばかりにパンに乗せたら────
完成だ。
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