君に伝える最後の言葉

誰かの荒い呼吸が聞こえる。
その周りで未来への希望と期待が込められた声が聞こえる。
見上げた空はやけに青くて、いつも以上に高かった。
さっきまで鉛のように重かった体はもう軽くて、体のどこにも痛みはなかった。
ああ、私死ぬんだ。

誰かが笑って、誰かが泣いて、誰かが拍手した。
みんな、嬉しそうな、安心したような表情だった。
その輪の中で、荒く息をし、立ち尽くしている少年を皆は英雄だと称えた。
しかし少年の顔は暗かった。とても動揺していて、少し後悔しているようにも見えた。
少年が口を小さく開く。聞こえるか聞こえないかくら
いの声量で
「ごめん」
と呟いた。優しさが滲んだ温かい声だった。

その声が、どうしても頭から離れなかった。
何か声をかけようと口を開くが、言葉にならなかった。
意識が遠のいていく。周りの歓声も小さくなり、世界から音が消えていった。

次に目を開けた時、私は見知らぬ家の中にいた。
奥の方から水の音がする。たぶん家の主がお風呂に入っているのだ。
ここはどこ?私の部屋ではない。家の雰囲気や置いてある家具からして、男性の部屋だと思う。一人暮らしなのか、お風呂以外からは人の気配はしない。勉強机に参考書が積まれていた。名前の欄は字が汚くてなんて書いてあるのか分からない。
水が止まり、ガチャと扉が開いた音がした。まずい、お風呂から上がってくる。どこかに隠れなきゃ。しかし、部屋には必要最低限のものしか置かれてなくて、隠れられるような場所がない。
やばいやばいやばいどうしよう。とりあえず机の下に隠れよう。
部屋の主が帰ってきた。髪もよく拭かずにベッドに倒れ込んだ。きっととても疲れているのだろう。
狭い部屋に静寂が響く。ずっと息を止めているので苦しくなってきた。
何かをぼそりと呟いた。枕に顔を埋めているのではっきりとは聞こえない。
ベッドがきしみ、仰向けになった。そしてまた呟く。
「ごめん」
私はピンときた。慈愛に満ちた切ない声色___私を殺した英雄の声だ。あの時のものと、完全に一致していた。
じゃあここは英雄の家ってこと?なんで私はここにいるの?死んだんじゃなかったの?疑問が頭を埋め尽くす。
「俺は人殺しだ。」
そう言ってすすり泣く声が聞こえる。私はそれを机の下で聞く。
彼はもしかして私を殺したことを悔やんでいるのだろうか。責任を感じてしまっているのだろうか。
そうなのだとしたら、その感情は間違いだ。言ってあげなければならない。あの時、言えなかった言葉を。伝えなければ、あなたは正しいのだと。
このまま机の下に隠れていてもいつかは見つかる。小さく深呼吸をする。大きく息を吸いこみ、次の瞬間、私は机の下から立ち上がった。

「あんたは人殺しじゃない!」

虚ろだった英雄の目がかっと見開かれ、体が勢いよく起こされた。何か言いたげに口をパクパクさせている。