そんなに見つめなくても、いつもそばにいるよ    ―大学生編

 隣で静かな寝息を立てて寝ている恋人の顔を見るほど幸せなことはない。
 時おり、いびきなのか寝言なのか不思議な声を出すことがあるけど。
 
「ん? また寝顔を見ていた?」
「うん。俺の特権だもん」
「さぶっ……今何時?」
「6時。まだ二時間は寝てられる。っていうか寒いな……今日雪でも降るのか?」

 晴矢が俺に身体を密着させると布団を頭の方までずり上げる。
 俺はリモコンで暖房のスイッチを押すと晴矢を胸に抱く。 
 二人で身体を寄せると暖かい。

「良樹、あったかい」
「晴矢は猫並みに寒がりだからな」
「金魚は寒くないのかな」

 晴矢が俺の肩越しに窓側に置いてある水槽の金魚を目で追っているのがわかる。
 六月の屋台ですくった金魚は半年経っても元気に泳いでいる。

「むしろ暑い方が死活問題だろ」
「父さんもすっかり金魚が気に入って、今度は熱帯魚飼育するとか言い出したよ」
「マジか? 熱帯魚こそ飼育するのが大変そう」
「だからキーちゃんに怒られていた」

 おじさんがキーちゃんにお説教されている姿が目に浮かぶ。

「ブチも金魚見たいって言っていたけど、いつブチ呼んで鍋パーティーする?」
「クリスマス前かな。クリスマスはりっちゃんと過ごすだろうから」
「卒業まで付き合っていたらあの二人結婚しそうだよね」
「結婚か……」
「結婚の前にまずは就職か。年明けたら就職活動を始めないとだよね」
「そうだよなー。結婚も就職もピンとこないけど」

 まだまだ学生のままで居たい気持ちだが現実に目を向ける必要がある。

「十年後ってどうなっているんだろ」
「なんだよ唐突に。三十歳か……俺はお父さんに完遂して独り立ちできているはず」
「今よりも世の中は同性のパートナーシップに寛容になっているといいね」
「そうしたらお母さんたちの理解ももっと深まるかもな」
「三十になっても良樹は俺をいつも見つめているの?」

 三十歳の俺たちは全く想像が出来ないけれど、確信していることがある。

「もう俺は晴矢を見つめていないだろうな」
「どうして?」
「そんなに見つめていなくても、お前はいつも俺のそばにいてくれるから」

 俺の言葉に晴矢が嬉しそうに笑った。
 十年後も二十年後も俺たちはずっと一緒だ。