大学の食堂で昼飯を食べていると庄野と伊東さんが合流した。
伊東さんは既に俺が庄野の借りていた部屋を新たに契約するということを知っていた。
「実家が近いのに一人暮らしするってエラいね」
「そうかな……仕方なくってとこだけど」
「あの部屋は私からもオススメ。隣の部屋の音が聞こえないのがすごく良い」
庄野も同じことを言っていた。
そんなに隣の生活音って気になるのか。
「今は先野くんの家で暮らしているんだっけ? 先野くんも一緒にあの部屋に引っ越すの?」
「え? まさか。俺は実家のまま」
「そうなのね。二人で暮らすのかと思った」
俺は伊東さんの言葉が気になり、箸を持ったまま考える。
何か含んでいるような言い方だ。
隣に居る晴矢も食べるのを止めている。
俺は二人に聞きたかったことを口にした。
「伊東さんは俺たちがどういう関係に見える?」
「え? 唐突なんだけど」
「うん、唐突に聞いてみた」
伊東さんは躊躇しているような表情を浮かべると、コーヒーに刺しているストローを触りながら俺の目を見ると口を開いた。
「二人は恋人同士だと思う」
隣に座ってカレーを食べている庄野も頷いた。
「どうしてわかったの? 俺たち傍目からだとそう見えている?」
「見えている」
「え? そうなの?」
「嘘! 見えてないよ」
伊東さんは笑いながら否定する。
「ごめん。からかっちゃ失礼よね。私、弟がいるんだけど彼もゲイなの。だから男同士でも友達なのか恋人なのか、そういう視線一つとか繊細な仕草とかでわかるようになっちゃって。二人が一緒にいるところを見ていて、ああ、弟と同じかもって思っていた」
伊東さんのご両親はそれを知っているのだろうか。
受け入れているのだろうか。
俺はそれが気になっている。
「確信したのは、圭と先野くんと一緒に飲みに行った日。あの時、先野くんずっと手島くんのこと気にしていてLINEしなきゃとか電話しなきゃとか、何時までに帰るって言わなきゃって。おかしいでしょ? ただの友達にそんな風にしないじゃない?」
「でもあの時、俺が晴矢に連絡いれても既読にすらならなかったけど」
「ああ、それは圭が勝手に先野くんのスマホを取り上げていたから。あまりにも先野くんがスマホを気にしていたから、飲んでいて楽しくないだろーって奪っちゃったのよ」
今更、あの時の真実が浮かび上がる。
つくづくあの時の晴矢は不憫だ。
「そう確信してから二人の様子を見ていたら、やっぱりなって思ったの。でも、素敵だなって」
「どうして?」
「お互いに思いやっている姿が見えるから。手島くんは先野くんをお姫さまみたいに守っているなーとか、先野くんは手島くんが気を遣わないように先んじて行動しているみたいだなーとかそういうところがね、素敵だなって」
「伊東さんには見えているんだ」
「……弟さんがゲイじゃなかったら、正直この関係はどう思う?」
「ん? 別に特別なことじゃないんじゃない。男同士でも女同士でも好きならそれを他人がどうこう言うことじゃないでしょ。まあ、絶対無理って嫌悪感を覚える人はいるだろうけど、そんなことを気にする必要ないよ。だって自分たちの人生だし。誰にも迷惑かけていないし」
「庄野は?」
「俺も別に気にしない。お互いに好きならそれでいいし。まあ、俺がもし男に告白されたら断るとは思うけど。セクシャリティを変えるのは無理だろ。お前たちは端から見ていても楽しそうで俺は好きだけどな」
晴矢が空になった皿を脇に置くと、眉間に皺を寄せた顔で庄野に尋ねる。
「前に庄野にお前は女と絡まないからって言われたことあるけど、あの時から気づいていたの?」
「ああ、あれは確信があったわけじゃなくて。ただお前と手島がいつも一緒に居るからさ、絶対領域っていうか女が入ってこられる隙ないなって思っていたのと、るり子がお前のファンみたいだったからけん制の意味も込めて言っただ……」
いきなり伊東さんが庄野の頭を叩き、俺も晴矢も驚く。
「痛いっよ! 食べているんだからさぁ」
「本当に失礼。圭はデリカシーが無さ過ぎる。ごめんね、先野くん。私が徹底的に鍛え直している最中だから、許して」
「いいって、気にしてないよ。それに俺たちのこと二人は好意的に受け取ってくれてありがたいなって」
晴矢の表情が明るくなった。
伊東さんも庄野も俺たちをありのまま受け入れてくれる。
彼らが特別なのか?
「とか言っているけど、ウチの家族で弟のことを肯定しているのは私だけだけどね。やっぱり親の気持ちは複雑みたいだし、妹は弟との意思疎通は無理って感じ」
「やっぱりそうか……」
「手島くんも悩んでいるの?」
「え……うん、まあ」
「私の実家は田舎だから親も妹もやっぱり周囲の目を気にするのよ。だから弟も実家を出て今は関西に居る。高校も中退して働いているけど、実家に居た時よりも幸せそうなのが救いかな」
「もう自立しているんだ」
「せざる得ないって感じ。でも自分の好きな事が出来て、自分を偽ることなく生きていけているみたいだから良かったと思うよ」
やはり、親や周囲の目が気になるのか。
「……自分らしく生きていきたいよね」
伊東さんの言葉に共感する。
受け入れてもらうための解決策は見つからないけど、自分自身を偽って生きていきたくはない。
俺は隣にいる晴矢の横顔を見つめる。
ずっと見つめていたい顔……ずっと守っていたい人。
「なにかあったら相談して。弟から山のように相談されたことをデータベース化しているから、何でも答えられるよ」
伊東さんは頼もしい。
新しい友達は俺たちに良い刺激を与えてくれる貴重な存在だとあらためて思った。
🔸🔸🔸
来週には梅雨開けという日にお父さんの二週間の日本滞在が終わり、タイに戻って行った。
お母さんだけは一人日本に残り、俺の引っ越し作業を手伝うと言う。
結局、俺と晴矢の関係については二人ともあれ以来何も言わなかった。
庄野は既に部屋を解約して引っ越しており、俺は不動産会社から入居OKの返事を待っている状態だ。
晴矢の家で使わせてもらっていたベッドや机、椅子、本棚など一式もらえることになり、そのまま新しい部屋に置ける。
お母さんにそのことを伝えると酷く不機嫌になった。
「家具ぐらい新調するのに。どうして使い古した物をもらう必要があるのよ。体のいい粗大ごみ処理みたいじゃない」
こんなに口が悪かったか? と思うほど晴矢の家に対しての攻撃を止めない。
いい加減俺は辟易しており、引っ越しを手伝わなくていいとまた喧嘩になってしまった。
「どうしてお母さんがやることが気に入らないの! そんな子に育てた覚えはありません。そんなにお母さんが嫌なら先野家の息子になればいいでしょ!」
言うことが極端すぎて呆れるしかない。
俺が晴矢の家に行って荷物を整理しているのも気に入らないらしい。
実家に戻ってからお母さんたちとのいざこざもあり、晴矢と二人で一緒に居る時間がほとんど無かった。
俺は少しでも時間を作って、晴矢の家に向かう。
「……ん……ダメだよ。もう帰らないとおばさん心配するよ」
「ん……もう少しだけ」
静まり返った部屋に俺と晴矢のリップ音だけがする。
晴矢の細い腰を抱きながら、キスを止めることが出来ない。
本当はベッドに押し倒したいところだが、耐えている。
俺が一人暮らしを始めれば、いつでも一緒に居られるから。
「愛している」
「うん。俺も愛している」
二人とも離れがたく、額と額を合わせる。
「引っ越したら毎日でも来いよ。一緒に料理作ろう」
「料理? 良樹が? 俺もキーちゃんに何か教わっておく」
そのまま抱きしめる。
「泊まっていこうかな……」
「ダメ。おばさんが待っているから帰って」
晴矢が身体を離す。
「おばさんをこれ以上失望させちゃだめだよ」
「……晴矢はお母さんに誠意を見せるって言うけど何をするつもりなんだ?」
「……」
俺はブチと話した時の晴矢がずっと気になっている。
俺がお母さんに嫌われないように晴矢が自分を犠牲にするのではないかと不安になる。
「特に何も考えていないよ」
「絶対、無理するなよ。俺のためとか考えるな。お母さんとのことは俺自身が解決するから」
「わかってる」
言葉と心の中は全く別だということは知っている。
晴矢はずっとそうだ、本当の気持ちは常に隠している。
「じゃ、帰る」
「うん。明日大学で」
玄関のドアを開けるとキーちゃんが居た。
「ちょっと話せる?」
「はい」
🔸🔸🔸
俺はキーちゃんの運転で家まで送ってもらうことになった。
キーちゃんに二人だけで話したいことがあると言われて。
「晴矢のことですか?」
「そう」
「やっぱり何か感じますか?」
「普通を装っているけど、水槽の前で延々と金魚を見ていたりね、食事していても急に多弁になったり」
「晴矢、俺とお母さんの仲が悪くなったことをずっと気にしていて、誠意を見せるって言いだして。俺はそれが不安で」
「……自分を犠牲にするかもって?」
「それしか考えられなくないですか?」
キーちゃんも晴矢の微妙な変化を感じ取っていた。
一緒に生活していればわかるはず。
「俺が一番恐れているのは別れを言い出すんじゃないかってことです」
「良樹くんと別れるから良樹くんと仲直りしてくださいって?」
「はい……」
「全員に自分たちの事を理解して受け入れてもらうって無理だと思うの。僕も母だけは受け入れてくれているけど、父も兄弟も断絶状態」
「そうなんですか」
「芸能界デビューした時はそれこそ家族総出で応援してくれたけど、週刊誌に僕のセクシャリティが暴露された途端、手のひら返しもいいとこ。お前は家族ではない! ってね。まあ、今よりもずっとセクシャリティに関してはタブーな時代だったし、彼らの気持ちはわかるけど」
「はい」
「わかってくれる人、受け入れてくれる人だけを信頼していけばいいと思う。ご両親に理解されない辛さはわかるけど、でもそれで一番愛する人を傷つけたくはないでしょう?」
「だから、晴矢には何もしてほしくないんです」
「でもね、晴矢くんがお母様に対して何かをしたとしても、良樹くんは全て受け入れてあげて」
キーちゃんの意外な言葉に驚く。
晴矢がすることは俺と別れると言うことなのは間違いないのに。
「それは無理です! だって俺は別れたくない」
「別れると言うとは限らないでしょ? 晴矢くん、この二年で精神的にも強くなっている。良樹くんにただ守られていただけの一歩後ろに下がって居たような子ではなくなっていて、すごくタフだよ。良樹くんの良い影響を受けて成長している。だから信じていいと思う」
賛同しかねた。
俺自身が何でも受け入れるほど器が大きい男ではない。
「二人の今後にも繋がる大事な一歩になると思うな」
キーちゃんの確信で俺の不安を払拭することは出来ない。
それでも晴矢のことを信じたい気持ちはある。
伊東さんは既に俺が庄野の借りていた部屋を新たに契約するということを知っていた。
「実家が近いのに一人暮らしするってエラいね」
「そうかな……仕方なくってとこだけど」
「あの部屋は私からもオススメ。隣の部屋の音が聞こえないのがすごく良い」
庄野も同じことを言っていた。
そんなに隣の生活音って気になるのか。
「今は先野くんの家で暮らしているんだっけ? 先野くんも一緒にあの部屋に引っ越すの?」
「え? まさか。俺は実家のまま」
「そうなのね。二人で暮らすのかと思った」
俺は伊東さんの言葉が気になり、箸を持ったまま考える。
何か含んでいるような言い方だ。
隣に居る晴矢も食べるのを止めている。
俺は二人に聞きたかったことを口にした。
「伊東さんは俺たちがどういう関係に見える?」
「え? 唐突なんだけど」
「うん、唐突に聞いてみた」
伊東さんは躊躇しているような表情を浮かべると、コーヒーに刺しているストローを触りながら俺の目を見ると口を開いた。
「二人は恋人同士だと思う」
隣に座ってカレーを食べている庄野も頷いた。
「どうしてわかったの? 俺たち傍目からだとそう見えている?」
「見えている」
「え? そうなの?」
「嘘! 見えてないよ」
伊東さんは笑いながら否定する。
「ごめん。からかっちゃ失礼よね。私、弟がいるんだけど彼もゲイなの。だから男同士でも友達なのか恋人なのか、そういう視線一つとか繊細な仕草とかでわかるようになっちゃって。二人が一緒にいるところを見ていて、ああ、弟と同じかもって思っていた」
伊東さんのご両親はそれを知っているのだろうか。
受け入れているのだろうか。
俺はそれが気になっている。
「確信したのは、圭と先野くんと一緒に飲みに行った日。あの時、先野くんずっと手島くんのこと気にしていてLINEしなきゃとか電話しなきゃとか、何時までに帰るって言わなきゃって。おかしいでしょ? ただの友達にそんな風にしないじゃない?」
「でもあの時、俺が晴矢に連絡いれても既読にすらならなかったけど」
「ああ、それは圭が勝手に先野くんのスマホを取り上げていたから。あまりにも先野くんがスマホを気にしていたから、飲んでいて楽しくないだろーって奪っちゃったのよ」
今更、あの時の真実が浮かび上がる。
つくづくあの時の晴矢は不憫だ。
「そう確信してから二人の様子を見ていたら、やっぱりなって思ったの。でも、素敵だなって」
「どうして?」
「お互いに思いやっている姿が見えるから。手島くんは先野くんをお姫さまみたいに守っているなーとか、先野くんは手島くんが気を遣わないように先んじて行動しているみたいだなーとかそういうところがね、素敵だなって」
「伊東さんには見えているんだ」
「……弟さんがゲイじゃなかったら、正直この関係はどう思う?」
「ん? 別に特別なことじゃないんじゃない。男同士でも女同士でも好きならそれを他人がどうこう言うことじゃないでしょ。まあ、絶対無理って嫌悪感を覚える人はいるだろうけど、そんなことを気にする必要ないよ。だって自分たちの人生だし。誰にも迷惑かけていないし」
「庄野は?」
「俺も別に気にしない。お互いに好きならそれでいいし。まあ、俺がもし男に告白されたら断るとは思うけど。セクシャリティを変えるのは無理だろ。お前たちは端から見ていても楽しそうで俺は好きだけどな」
晴矢が空になった皿を脇に置くと、眉間に皺を寄せた顔で庄野に尋ねる。
「前に庄野にお前は女と絡まないからって言われたことあるけど、あの時から気づいていたの?」
「ああ、あれは確信があったわけじゃなくて。ただお前と手島がいつも一緒に居るからさ、絶対領域っていうか女が入ってこられる隙ないなって思っていたのと、るり子がお前のファンみたいだったからけん制の意味も込めて言っただ……」
いきなり伊東さんが庄野の頭を叩き、俺も晴矢も驚く。
「痛いっよ! 食べているんだからさぁ」
「本当に失礼。圭はデリカシーが無さ過ぎる。ごめんね、先野くん。私が徹底的に鍛え直している最中だから、許して」
「いいって、気にしてないよ。それに俺たちのこと二人は好意的に受け取ってくれてありがたいなって」
晴矢の表情が明るくなった。
伊東さんも庄野も俺たちをありのまま受け入れてくれる。
彼らが特別なのか?
「とか言っているけど、ウチの家族で弟のことを肯定しているのは私だけだけどね。やっぱり親の気持ちは複雑みたいだし、妹は弟との意思疎通は無理って感じ」
「やっぱりそうか……」
「手島くんも悩んでいるの?」
「え……うん、まあ」
「私の実家は田舎だから親も妹もやっぱり周囲の目を気にするのよ。だから弟も実家を出て今は関西に居る。高校も中退して働いているけど、実家に居た時よりも幸せそうなのが救いかな」
「もう自立しているんだ」
「せざる得ないって感じ。でも自分の好きな事が出来て、自分を偽ることなく生きていけているみたいだから良かったと思うよ」
やはり、親や周囲の目が気になるのか。
「……自分らしく生きていきたいよね」
伊東さんの言葉に共感する。
受け入れてもらうための解決策は見つからないけど、自分自身を偽って生きていきたくはない。
俺は隣にいる晴矢の横顔を見つめる。
ずっと見つめていたい顔……ずっと守っていたい人。
「なにかあったら相談して。弟から山のように相談されたことをデータベース化しているから、何でも答えられるよ」
伊東さんは頼もしい。
新しい友達は俺たちに良い刺激を与えてくれる貴重な存在だとあらためて思った。
🔸🔸🔸
来週には梅雨開けという日にお父さんの二週間の日本滞在が終わり、タイに戻って行った。
お母さんだけは一人日本に残り、俺の引っ越し作業を手伝うと言う。
結局、俺と晴矢の関係については二人ともあれ以来何も言わなかった。
庄野は既に部屋を解約して引っ越しており、俺は不動産会社から入居OKの返事を待っている状態だ。
晴矢の家で使わせてもらっていたベッドや机、椅子、本棚など一式もらえることになり、そのまま新しい部屋に置ける。
お母さんにそのことを伝えると酷く不機嫌になった。
「家具ぐらい新調するのに。どうして使い古した物をもらう必要があるのよ。体のいい粗大ごみ処理みたいじゃない」
こんなに口が悪かったか? と思うほど晴矢の家に対しての攻撃を止めない。
いい加減俺は辟易しており、引っ越しを手伝わなくていいとまた喧嘩になってしまった。
「どうしてお母さんがやることが気に入らないの! そんな子に育てた覚えはありません。そんなにお母さんが嫌なら先野家の息子になればいいでしょ!」
言うことが極端すぎて呆れるしかない。
俺が晴矢の家に行って荷物を整理しているのも気に入らないらしい。
実家に戻ってからお母さんたちとのいざこざもあり、晴矢と二人で一緒に居る時間がほとんど無かった。
俺は少しでも時間を作って、晴矢の家に向かう。
「……ん……ダメだよ。もう帰らないとおばさん心配するよ」
「ん……もう少しだけ」
静まり返った部屋に俺と晴矢のリップ音だけがする。
晴矢の細い腰を抱きながら、キスを止めることが出来ない。
本当はベッドに押し倒したいところだが、耐えている。
俺が一人暮らしを始めれば、いつでも一緒に居られるから。
「愛している」
「うん。俺も愛している」
二人とも離れがたく、額と額を合わせる。
「引っ越したら毎日でも来いよ。一緒に料理作ろう」
「料理? 良樹が? 俺もキーちゃんに何か教わっておく」
そのまま抱きしめる。
「泊まっていこうかな……」
「ダメ。おばさんが待っているから帰って」
晴矢が身体を離す。
「おばさんをこれ以上失望させちゃだめだよ」
「……晴矢はお母さんに誠意を見せるって言うけど何をするつもりなんだ?」
「……」
俺はブチと話した時の晴矢がずっと気になっている。
俺がお母さんに嫌われないように晴矢が自分を犠牲にするのではないかと不安になる。
「特に何も考えていないよ」
「絶対、無理するなよ。俺のためとか考えるな。お母さんとのことは俺自身が解決するから」
「わかってる」
言葉と心の中は全く別だということは知っている。
晴矢はずっとそうだ、本当の気持ちは常に隠している。
「じゃ、帰る」
「うん。明日大学で」
玄関のドアを開けるとキーちゃんが居た。
「ちょっと話せる?」
「はい」
🔸🔸🔸
俺はキーちゃんの運転で家まで送ってもらうことになった。
キーちゃんに二人だけで話したいことがあると言われて。
「晴矢のことですか?」
「そう」
「やっぱり何か感じますか?」
「普通を装っているけど、水槽の前で延々と金魚を見ていたりね、食事していても急に多弁になったり」
「晴矢、俺とお母さんの仲が悪くなったことをずっと気にしていて、誠意を見せるって言いだして。俺はそれが不安で」
「……自分を犠牲にするかもって?」
「それしか考えられなくないですか?」
キーちゃんも晴矢の微妙な変化を感じ取っていた。
一緒に生活していればわかるはず。
「俺が一番恐れているのは別れを言い出すんじゃないかってことです」
「良樹くんと別れるから良樹くんと仲直りしてくださいって?」
「はい……」
「全員に自分たちの事を理解して受け入れてもらうって無理だと思うの。僕も母だけは受け入れてくれているけど、父も兄弟も断絶状態」
「そうなんですか」
「芸能界デビューした時はそれこそ家族総出で応援してくれたけど、週刊誌に僕のセクシャリティが暴露された途端、手のひら返しもいいとこ。お前は家族ではない! ってね。まあ、今よりもずっとセクシャリティに関してはタブーな時代だったし、彼らの気持ちはわかるけど」
「はい」
「わかってくれる人、受け入れてくれる人だけを信頼していけばいいと思う。ご両親に理解されない辛さはわかるけど、でもそれで一番愛する人を傷つけたくはないでしょう?」
「だから、晴矢には何もしてほしくないんです」
「でもね、晴矢くんがお母様に対して何かをしたとしても、良樹くんは全て受け入れてあげて」
キーちゃんの意外な言葉に驚く。
晴矢がすることは俺と別れると言うことなのは間違いないのに。
「それは無理です! だって俺は別れたくない」
「別れると言うとは限らないでしょ? 晴矢くん、この二年で精神的にも強くなっている。良樹くんにただ守られていただけの一歩後ろに下がって居たような子ではなくなっていて、すごくタフだよ。良樹くんの良い影響を受けて成長している。だから信じていいと思う」
賛同しかねた。
俺自身が何でも受け入れるほど器が大きい男ではない。
「二人の今後にも繋がる大事な一歩になると思うな」
キーちゃんの確信で俺の不安を払拭することは出来ない。
それでも晴矢のことを信じたい気持ちはある。



