そんなに見つめなくても、いつもそばにいるよ    ―大学生編

 隣で静かな寝息を立てて寝ている恋人の顔を見るほど幸せなことはない。
 時おり、いびきなのか寝言なのか不思議な声を出すことがあるけど。
 俺の恋人である先野晴矢は寝ていても可愛い。

🔸🔸🔸

 高校三年生の夏、親の仕事の都合でタイに越さなければならなくなった俺に、日本に残れるように手を差し伸べてくれたのが晴矢と晴矢のお父さんだ。
 俺は一人日本に残り、晴矢の家で暮らすようになった。
 無事に高校を卒業し、そのまま晴矢と俺は内部の大学へ進学したが、中学の時からマトリョーシカ兄弟として一緒に過ごしてきた親友のブチは外部受験をして偏差値の高い大学へ進んだ。

「本当に今日でマトリョーシカ兄弟は解散か……」
「そんな顔するなよーブチ。俺たちは離れても心はひとつだろ」
「そうだよ、俺たちは心の友なんだろ?」

 卒業式の日、一人離れるブチが珍しく半ベソをかいているところを二人で慰める。
 ブチが高校生の時に口にした「心の友」という言葉はその通りだった。
 中学から高校までの六年の間、俺たち三人は様々な事を通して絆を深めてきた。大学で離れたとしても、誰かに何かがあればいつでも駆けつける、そういう関係性は既に築き上げている。

「でもやっぱり寂しいよな……」

 晴矢が小さな声でつぶやいた。
 ブチと晴矢は小学校一年生の時からの幼馴染だ。
 十二年間の重みを感じさせる。

「お前たちはずっと仲良くしていろよ。もし別れたら俺はどっちと仲良くしていいか困るからな」

 ブチの言うことにハッとする。
 ずっと晴矢と一緒に居るつもりではあるけれど、俺たちが別れたらマトリョーシカ兄弟の絆も失われるのか?
 俺は思わず隣にいる晴矢の顔を見つめる。
 永遠に見つめていたい顔……
 俺の視線に気づいた晴矢が優しく微笑む。
 まるで俺が不安に思ったことを察したかのように、安心させるかのように。
 俺は微笑み返し、晴矢の手を握った。

「そんなことは絶対起きないから安心しろよ、ブチ」

 晴矢が諭すようにブチに告げる。

「だよな。俺も口ほど心配はしてないけどな」

 晴矢の言葉にブチが満足したかのように頷いた。