幼なじみが身も心もボロボロなので、ボクがお世話します

あれから、雪哉くんに諦めずに話しかけた。
ぎこちなくて、うまく言葉が出なかった。
けど、秋平先輩が中に入って場を盛り上げたりしてくれた。
……正直、あれはウザ絡みの部類だから雪哉くんには同情した。
 
そして二時間後――。

ご飯も食べ終わり、会計を済ませて帰ろうとするが――
目の前にはベロベロに酔っ払った秋平先輩の姿。
ジョッキを両手で抱きしめて、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべていた。
……完全にできあがっている。

「あ〜あ……ダメな大人の見本みたいやな」

夏生くんの意見に完全に同意だ。

「いいか〜……こんなふうになったら〜ダメだぞ〜しぇんぱいとのやくそくだ〜」

「説得力皆無〜!」

「はぁ……」

ゲラゲラと大笑いする夏生くんとは対照的に眉間を押さえながらため息をつく。
この人、ダメだ……。
でも、不思議と嫌いになれないんだよな。

「秋平先輩……一人で帰れますか?」

「いや〜無理やろ。こんなん一人で帰ったら危険や……先輩、あれやったらボクが家まで送りますよ?」

「え〜マジか〜……いいのか〜?」

「別にいいですよー?あー、でも先輩の家の場所わからんなーダメ元で聞きますけど、先輩の家どこですかー?」

「あっち〜」

そう言い、先輩はあらぬ方向を指差す。

「ダメやな」

「……おい、光月」

「は、はい?」

低い声が、すぐ後ろから聞こえた。
急な出来事に夏生くんと二人してびくりと肩が跳ねる。
 
「秋平先輩の家の住所、お前のスマホに送ったから確認しろ」

「え?……わぁ、ホンマやん」

夏生くんはスマホを確認して驚いていた。
横からチラリと見ると、住所と先輩の家の写真が送られていた。

「なんで住所知ってるんですか?」

「去年、卒業した先輩に託された。あの人、酒癖悪いからなんかあったら家に送れよって」

なるほど……納得だ。
……雪哉くん、優しいな。あんなウザ絡みされたのに。

「わぁーありがとございますー……なんや、ここから歩いてそう遠くないな。先輩、小さいから背負って送ってきます」

「子ども扱いするな〜……」

「子どもは泥酔しないです〜ほら、先輩、立って立って」

夏生くんは秋平先輩を無理やり立たせると、よいしょと秋平先輩を背負う。

「ほな、ボク秋平先輩送ってきますね〜。ハル、また明日な〜」

「あはは〜また明日〜!!」

大声で、見知らぬ他人に別れを言う秋平先輩。
周りの人たちは、ぎょっとした顔をしてチラチラとこちらを見ている。
顔が真っ赤になるのを感じる。
大人になるって大変なんだなと思ってしまった。

「……大丈夫か?」
 
夏生くんと秋平先輩の姿が見えなくなると、雪哉くんが話しかけてきた。
 
「う、うん……」

「あの人はあんな感じだから諦めろ……」

「そう、なんだ……」

再び沈黙。
逃げるな。――さっき決めただろ。
な、何か言わないとと、カラカラの喉から必死に声を絞り出す。

「ゆ、雪哉くん!家はどこ?方向同じだったら、一緒に帰ろ?」

勇気を出して雪哉くんを誘う。
ここで誘えなかったら、後悔する……そうだよね、夏生くん!

「……こっち」

右の道を指す雪哉くん。

「あっ、同じ方向だね。一緒に帰っていい?」

「……いいけど」

よっしゃ、と心の中でガッツポーズをする。

「じゃ、じゃあ帰ろ?」

「あぁ……」

ゆっくりと夜の道を歩く。
さっきの居酒屋の空間と比べると、とても静かだ。
春の暖かい夜風が髪を撫でる。
ふと、雪哉くんの体を見る。
昔より背は伸びたのに、服の隙間がスカスカに見えるぐらい細い。
それがどうしようもなく、心配になった。

「雪哉くん、細いね……ちゃんと食べてる?」

つい昔みたいに踏み込んでしまった。
これがまた雪哉くんの地雷になるかもしれない。
でも、聞かずにはいられなかった。

「面倒くさくて食べてない日もある」

「えぇ!?だ、ダメだよ!ちゃんと食べないと!」

「別にいいだろ」

「よくないよ!普段何食べてるの?」

「ピザ」

「……それだけ?」

「いくら食べても飽きないからな、ピザは……それに」

ぼそっと言って、視線を夜の道に落とす。

「何も考えなくても、それさえ食べれば食った気になる」

どこか諦めたような顔で雪哉くんは言う。
……胸がきゅっとなる。
そんな顔をしないでほしかった。

「……体にすごく悪いよ。いつか倒れちゃう」

「面倒くさいからいい。それに、不健康な方が俺にはちょうどいいんだよ」

「雪哉くん……」

なんで、そんなこと言うの?
そんな自分を傷つけるようなこと……
つい、ボクも下を向いてしまう。
アスファルトの無機質な光景が視界に広がる。
……ダメだ、雪哉くんの負のエネルギーに負けちゃいけない。
そう決意し、グッと拳を握ると、顔をあげる。

「雪哉くん、そんな食生活やめようよ。ボク、そんな雪哉くん見たくない。それに……そんな生活、雪哉くんに似合わないよ」
 
雪哉くんの顔を見つめる。
今にも崩れそうなほど脆い顔だった。

「……やめろよ、そんなこと言うの」

「やめないよ。だって、雪哉くんはボクにとってヒーローだもん」

ボクがそう言うと、雪哉くんは地面に視線を逸らす。

「だって、雪哉くんはボクの憧れなんだ。泣くのを我慢するのも、苦手な勉強を頑張ってきたのも雪哉くんがいたから今のボクがあるんだよ?だから、またあの頃の雪哉くんでいてほしいんだ」

「……やめろよ、俺のことをヒーローなんて、言うな」

「え?」

かすれた声で雪哉くんは呟く。

「……春斗、これだけは言わせてくれ。俺はもうヒーローなんかじゃない」

喉がひゅっと詰まる。
頭をガツンと殴られたような衝撃がボクを襲う。

「……こんな俺にヒーローを名乗る資格はない。だから……そんな、俺に期待してる目で見ないでくれ」

そう言うと雪哉くんは口を閉じてしまう。
心臓の奥に、冷たい雪を押し込まれたみたいだった。
何か言おうと口を開くが、結局閉じてしまう。