幼なじみが身も心もボロボロなので、ボクがお世話します

「おい、雪哉〜そんな言い方ないだろ?幼なじみってやつだろ?友達は大切にしろよ」

「……はい」

目の前の光景をなかなか受け入れられない。
ボクの記憶の中の雪哉くんはこんなボロボロの姿じゃない。
もっと、キラキラしていた。

「ほんとにわかってんのか?……というか自己紹介しろよ。親しき仲にも礼儀ありだぞ」

守部先輩の声が遠くに聞こえる。

「……錆川、雪哉です。法学部二年です」

視線を逸らしながら、小さい声で言った。
あぁ、やっぱり……雪哉くんだ。
信じ難いけど、そうなんだ。

「し、心理学部の……白石春斗です。小さい頃に遊んでた雪哉くん……でいいんだよね?」

「……あぁ」

一言そう言うと、視線を手元の本に向けると黙ってしまう。

「雪哉ー、冷たいぞ!せっかくの再会なんだろ!……ごめんな?あいつ態度が塩すぎるんだよ」

「……あっ、だ、大丈夫、です」

正直、放っておいて欲しかった。
それぐらい目の前の現実を受け止められる自信がなかったから。
でも……逃げたらもっとダメな気がしたから、震える足を必死に抑えて踏ん張っている。

「……ハル、大丈夫か?」

隣にいる夏生くんは心配そうな顔をしてボクに話しかけてきた。

「だ、大丈夫……ちょっとビックリしただけだから」

「そう?……無理しちゃあかんよ?」

あたたかい言葉。
今のこの状況じゃなかったら、緊張が解れていたはずだ。
 
「ほんっと、ごめんな。でも、あいつ誰にでもあんな感じだからさ」

守部先輩は頭を掻き、苦笑いを浮かべると肩をすくめる。
すまないと言わんばかりに目尻は情けなく下がっていた。

「……よし!そんじゃ、ボードゲームやるか」

そう言うと、守部先輩は棚から小さな箱を取り出して、机の上に置く。
多分、ボクに気を使って空気を変えてくれたのだろう。
急に気持ちを切り替えることなんて、と思ったがここで立ち止まるなと体が言っているのがわかる。

「ほら、二人とも座って座って!……おい!雪哉も本閉じてやるぞ!」

「はぁ……はい」

雪哉くんはため息をつきながら、パタンと本を閉じる。

「……ハル〜座ろか?」

「う、うん……」

ボクは夏生くんに促されると、席に着く。

「よし、揃ったな!じゃあ、今日はこれをやろう!『ダンジョンパス』!!」

「はーい。どういうゲームですか?」

片手を軽く上げて、夏生くんは質問する。

「ふふん!いい質問だ、夏生。このゲームは嘘をつくゲームだ!」

守部先輩はニヤリと笑いながら、カードの束を指で弾く。

「スライム、ゴブリン、スケルトン、ミミック、オーク、マンドラゴラ、ドラゴンの七種類のモンスターが描かれたカードがここにある」

カードの束を軽く切りながら楽しそうに続ける。

「やることは簡単だ!カードが配られたら、その中の一枚を伏せて、誰かにたとえば『これはスライムです』と宣言して渡す……でも本当のことを言わなくてもいい!嘘ついてもOK!」

「ほうほう」

夏生くんはうんうんと頷く。

「渡された方は二択!一つはそれが本当か嘘か当てる。そして、当てたらカードは宣言した側に戻る。外したら自分のものになる」

「へぇー、二つ目はなんですか?」

「二つ目はそのカードを見て、別の誰かに宣言して回す。この時、本当のことを言ってもいいし、嘘をついてもいい!『これはドラゴンです』って言って、スライムのカードを渡してもOK!」

「はぁー……心理戦ってやつですか」

「そう!だから面白い!同じモンスターを四枚集めるか七種類全部揃ったら、その時点で負け!……まぁ、習うより慣れろだ。一回やってみようぜ!」

守部先輩はボクたちにカードを順番に配る。

「よし、配り終えた!んじゃあ、手札を確認しろよー」

裏向きになった八枚のカードを見られないようにひっくり返して見る。
手札はミミック、ドラゴン、ドラゴン、スケルトン、ゴブリン、スライム、スライム、マンドラゴラだ。

「準備はいいかー?……じゃあ最初はオレからやる!」

守部先輩は裏向きにカードを伏せると、雪哉くんの元へ置く。

「ドラゴンです!!」

……嘘、だな。
だって顔がめちゃくちゃ強ばってるし、声がワントーン高い。
なんて態度に出る人なんだ……。
でも、そのわかりやすさが今は少しだけ救いだった。
チラリと雪哉くんを見ると、とっても面倒くさそうな顔をしていた。

「……ドラゴンじゃないです」

そう宣言してカードをひっくり返す。
案の定カードの絵柄はドラゴンではなく、スライムだった。

「クソッ!なんでわかった!!」

「……はぁー、もう何回も言ってるんですけど、顔に出てるんですよ、先輩」

雪哉くんは深くため息をつき、カードを守部先輩に突き返す。

「そんな馬鹿な!オレは完璧にポーカーフェイスをしていたはずだぞ!!」

「できてないから負けてるんですよ」

頭をポリポリと掻きながら雪哉くんは言う。

「オレは負けん!次!……ゴブリンです」

またしても雪哉くんに宣言する。
今度はニヤニヤと笑いながら、低い声で静かに言う。
けど、視線が泳ぎまくってて台無しだ。
ダメだ……この人、絶望的にゲームが下手くそ。
ふと、隣の夏生くんを見ると、その光景をクスクスと口元を手で抑えながら見ている。
夏生くん……完全に面白がっている。

「……ゴブリンじゃないです」

カードをめくる。
……うん、ミミックだ。

「あぁー!負けた!次、次!……ミミックです!」

何故かまた雪哉くんに宣言する。
今度は真剣な顔立ちで、その表情に似つかわしくない甲高い声だ。

「あの、なんで俺ばっかりにやるんですか?」

「お前を負かしたいからに決まってるだろ!」

「……貴方ね、一年生にゲーム教えてるってこと忘れてません?」

「それとこれとは別だ!!俺はお前と戦っている!!」

部室に響くぐらいに叫ぶ守部先輩。
その瞬間、ぶっ!!と吹き出す音が隣から聞こえてきた。

「あはははは!!ハル、この人おもろいやろ?」

口を大きく開けて大笑いする夏生くん。

「な、夏生くん、失礼だよ……」

けれど、その笑い声で胸の重たいものが少し緩んだ。

「ええねん。ボク、昨日も大笑いしたけど秋平先輩、怒るどころか逆に笑ってくれたんよ。ねぇー先輩?」

「その通りだ!オレは至って真剣!その姿を笑われても一向にかまわん!なんてったってオレは懐の広い男だからな!!」

ふふんと胸を張って誇らしげな守部先輩。
こう思っちゃいけないんだろうけど、幼い見た目も相まって可愛く見えてしまう。

「さぁ!雪哉、早く言ってくれ!」

「…………はぁー」

頭を抱えたまま、またため息をつく雪哉くん。

「……ミミックじゃないです」

ひらりとめくる。
……カードの絵柄は、ゴブリンだ。
無言で雪哉くんは秋平先輩に勢いよく突き返す。

「………………夏生、春斗!こういうゲームだ!!わかったか!!な?な?」

「え、えぇ!?」

まさかのこっちに飛び火してきた。
しかも、謎に圧をかけてきた。
というかこの人、会ってすぐに下の名前呼ぶんだ……距離感すごい人だな。

「ははははは!普通、急にこっちにくる?しかも、なんもわからんし!ほんまおもろい人やわー」

机をバシバシ叩きながら夏生くんはお腹を抱えて笑う。
雪哉くんはこめかみを押さえて、小さく息を吐く。
……どうやら、いつもこうらしい。

「……そう、つまりだ!オレのように意地張って勝負挑みすぎるとこうなるってことだ!!」

「は、はぁ……」

何を言ってるんだこの人は。
……でも、なんだか馬鹿らしくなってふふっと笑ってしまう。

「………笑ったな」

「え……?」

騒がしい空気の中、ふと雪哉くんが呟いた。
ほんの少しだけ、口角が上がっているように見える。
 
「……お前にはその表情が、似合う」

「!?」

『泣いてるより、春斗には笑顔が似合うぞ』

かつて、雪哉くんがボクに言った言葉がフラッシュバックする。
……うん、変わってない。
見た目は変わっても、中身は変わってないんだ。
まだ希望はある。
けれどそれは指先にやっと触れるほど、小さいもの。
 
……そうだよ、きっとそうだ。
そうじゃないと……雪哉くんじゃない。

ボクが……雪哉くんを取り戻さなきゃ。