幼なじみが身も心もボロボロなので、ボクがお世話します

柔らかくて、あたたかい。
心地よくて……ずっとしていたい。
けれど、触れるだけのキスをするとそのまま雪哉くんは、離れていってしまう。
それが名残惜しくて、つい唇を目で追ってしまった。

「……キス、しちゃったね」

「……したくなった」

短い返事。でも……それだけで心が満たされた。
雪哉くんの胸にそっと体を預ける。

「もっと……したい、かも」

気づけば呟いていた。
雪哉くんは額をくっつける。

「……して、いいのか?」

視線が、定まっていない。

「いいよ……」

大丈夫。そう言い聞かせるように肯定する。
雪哉くんは躊躇いつつも、ゆっくりと、唇を近づける。
 
また、唇が、触れた。
 
雪哉くんの、優しさと温もり……そして心に渦巻いている不安も感じる。
けど、それが雪哉くん。ボクの大好きな、雪哉くん。
すごく、ドキドキして……幸福感で満たされる。

唇がゆっくり離れていく。

「……なぁ」

「ん?」

「……こんな、幸せでいいのかな?」

雪哉くんの視線が、泳いでいる。

「……いいんだよ、雪哉くん。でも、今までたくさん頑張って、苦しんできたから不安なんだよね?」

こくりと頷く。

「何度でも言うよ……''大丈夫''。雪哉くんはね、幸せになってもいいんだよ。今まで苦しんでした分、今があるだけだよ。だから、不安にならないで?」

「……そう、なのか?」

「うん、そうだよ!……だから、不安にならなくていい。ボクがついているから……ね?」

手を絡めて、ぎゅっと握る。
ひんやりとした体温が、ボクの手に伝わってくる。

「……ありがとう、春斗。こんな俺を励ましてくれて」

「もー……''こんな''や''俺なんて''は禁止!ボク、苦しくなっちゃうよ?」

「そうか……お前が、嫌なら善処するよ」

……思考が固まってしまう。

「……今、善処って言った?」

「あぁ。……ははっ……努力するって意味だよ」

「あー!ち、ちがっ!意味がわからないじゃないよ!」

「そうか……」

雪哉くんは、ニヤついた顔を隠そうともしない。

「ば、バカだと思ってるでしょ!その顔は!」

「思ってない……相変わらずだと思っただけだ」

「そ、それ思ってるじゃん!」

ちょっとムカついたから握ってる手に思いっきり、力を入れてみる。
……全く動じていない。ムッとしちゃうな。

「……ごめんって、怒るなよ」

「……怒ってないもん」

「じゃあ、この手は何だ?」

ニヤニヤとちょっと意地悪な顔をして、繋いでる手を掲げる。

「……雪哉くんのこと、好きすぎて、ぎゅうってしちゃっただけだもん」

「………………お前、それ……あー……」

耳まで真っ赤にする雪哉くん。
……やった、雪哉くんに初めて勝った。
ふふん、としてやったりと顔をしてると、一瞬、唇に柔らかい感触。

「…………え」

「……お返し」

何をされたかわかって顔がぼんっ、と赤くなる。
さっきもされたのに照れるなんて……で、でも不意打ちはずるいから。
ぽすん、と顔を雪哉くんの胸に埋める。

「……ずるい、今のは」

そのまま静寂な空間が続く。
意を決して、顔を上げる。
じっ、と雪哉くんはボクを見つめていた。

「…………今度、さ」

「う、うん……」

発した声がどもっている。

「母さんに……会ってくる」

「え?おばさんに……?」

雪哉くんが……''未来''の話をしている。

「ずっと……避けてた、会うのを。生きてるかわからない俺が会ってもしょうがないって思って。
会って……たわいのないこと、話せればいいかなって。」

「うん……いいと思う」

それは、些細なことだけど大きな一歩だ。

「春斗……お前のおかげだ」

ボクの体を雪哉くんは強く抱き締めた。

「……お前がいなかったら、俺は……ずっとくすぶっていた。生きてるか死んでるのかわからないまま……ふわついた人間になっていたと思う。
けど、ちゃんと、''ここにいる''って思えるようになった」

雪哉くんは、すがるように頬を擦り付けてくる。

「そんな俺を……救ってくれて本当にありがとう……。こんな俺だけどまだ、お前のヒーローでいてもいいか?」

「……うん。いいよ」

ボクは雪哉くんの背中に手を回す。

「ねぇ雪哉くん……焦らずにさ、ゆっくりでいいから進んでいこうよ。」

雪哉くんは何も言わず、ただ静かに頷いた。
その腕はまだ少し強くて、ボクを離す気はない。

――でも、それが落ち着く。

「……今日はボクが君を離さない。

ボクたちの関係は、変なのかもしれない。
でも、これがボクらなんだ。
これからも……隣で並んでゆっくりと進んでいく。