幼なじみが身も心もボロボロなので、ボクがお世話します

ボクと雪哉くんが幼なじみから恋人同士になってから数日経った。
毎日朝と夜、ご飯を一緒に食べて、ゲームして、喋って、手をつないで、抱き締めて……。
そんな変わりない、平凡な日々。

「……いや、どこがやねん。」

「え?」

部室で秋平先輩とリバーシをしてる夏生くんが、怠そうに言う。

「そ・れ・の!どこが!変わりないねん!!」

ビシッと雪哉くんに、あーんをするボクを指差す夏生くん。

「部室であーんって、どこのバカップルやねん!!家でやれや!」

「だ、だって今日雪哉くん、読書に夢中でお昼食べてないって!それで体に悪いから食べてって言ったら、食べさせろって言うんだもん……」

「……春斗」

口を開けて待機する雪哉くん。
それに気づいて、お弁当の卵焼きを口に入れてあげる。

「美味しい……?」

「……また、焦げてるな」

「うっ……!ぜ、前回よりかは上達したし!」

「……そうだな、味は美味いから頑張れ」

世界がぱあっと花開きた気分だ。
恋人になっただけで、ひとつひとつの言動に喜んでしまう。
ほんと、嬉しい……また作ろう。

「……はぁー、二人の世界やわ」

「仲良いな!二人とも!!」

相変わらず大声の秋平先輩。
現在、リバーシ十五連敗中だ。

「……あんた、あれ見て''仲良い''でよくすみますね。」

「え……?それ以外なくないか?」

「にっぶ〜〜。そんなんだからモテないんですよ?」

「も、モテないと鈍いのは関係ないだろ!」

「関係あります〜。女の子はそういうとこも見てるんやから……てか、早くしてくれません?もうあんたの負け確定なんやから」

盤面は見るも悲惨。
ほぼ真っ黒でここから入れる保険はなさそうだ。

「待て!!起死回生の逆転勝ちがあるかもしれないんだ!!」

「ないですよ」

「……ねぇよ」

「ないと思いますよ」

三人とも全く同じ意見だ。

「クソーっ!!負けだ!負け!!……もう一回だ!夏生!」

「えぇー!またですかー?他のゲームやりましょうよ」

「いや、あと少し!あと少しで何かが掴めそうなんだ!」

「安心してください、あんたが掴んでるのは蜘蛛の糸です。千切れるので諦めてください」

「ぐわぁー!わかんない例えするな!!」

「……公務員目指してるやつが蜘蛛の糸知らなくてどうするんだよ」

雪哉くんが頭を抱えていた。
この二人、意外とちゃんと先輩後輩やっているから見てて気持ちがいい。

「はぁー……まぁ、この分だと家でもイチャついとるんやろ?大学開始早々恋人できて、おめでとう」

「え?恋人?誰がだ?」

「……あんた、ほんっとうに鈍い!!そんなん、ハルと錆川先輩に決まっとるやろ!!」

「え?……彼女ができた?」

「あ゙ーーー!!!わからんやつやな!」

ハゲるんじゃないかと思うほど、力強く髪を掻きまくる夏生くん。
ごめんなさい、秋平先輩。擁護できません。

「ハルと錆川先輩が!付き合ってるんですよ!恋人として!!」

「……な、なんだってーー!?」

今、知りました!言わんばかりの衝撃的な顔をする秋平先輩。

「え……!?そ、そうなのか……お前ら、そういう仲なのか……何で教えてくれなかったんだよ!水臭いヤツめ!!このこの〜!」

雪哉くんの背をバシバシ叩いて、ウザ絡みをする秋平先輩。
雪哉くんは眉をひそめて、明らかに苛立っている。

「……だから、嫌だったんだよ」

小声でそう呟く雪哉くん。
確かに……これは言いたくない。

「……ま、待て!部室でこんなことしてるのは、ダメなのではないか!!こ、恋人同士ってのは二人きりの空間で、もっと……こう、な!!」

この人、意外とピュアなんだな。
……最後の、な!!がうるさいくて台無しだけど。

「そ、そうですよね……ゆ、雪哉くん。この辺で――」

「…………嫌だ」

「え?」

「俺はここで春斗に、あーんしてもらいたい。俺は今、自分の気持ちに正直になってる。」

……ず、図太い!ボクの恋人図太すぎるよ!
しかも、ちゃっかり口開けて次のおかず待ってるし!

「はぁー……秋平先輩ー!僕、ラーメン食べたい気分ですぅ。」

「え?ラーメン?それなら大学から歩いて数分のところにあるだろ?行ってこいよ」

「嫌やわ〜。僕は秋平先輩と行きたいんですよ〜。可愛い後輩の頼みですよ〜?」

「どこがだ!この前もデートだなんだって言って散々俺に飯を奢らせやがって!俺の財布はすっからかんだぞ!!」

「ええやないですか〜。彼女できた時の予行練習ですよ?ほらほら行きますよ〜」

有無を言わさずに夏生くんは秋平先輩を引っ張る。
……デジャブ。

「嫌だー!!俺は可愛い女の子と行きたいんだー!こんなチャラ男と行きたくないー!!」

「や〜ん、傷つくわ〜。夏生ちゃんは繊細な子なんやからやめてーや……ほな、ごゆっくり〜」

そう言い残してバタンっと扉は閉まる。
まるで嵐が過ぎ去ったかのようだ。