幼なじみが身も心もボロボロなので、ボクがお世話します

――あれから数日経った。
雪哉くんと一緒に朝と夜、ご飯を食べるのが日課になっていた。
目玉焼きを焦がしたり、味付けが大雑把になったりと、相変わらずボクの料理にはムラがある。
 
それでも。

「……悪くない」

その一言で、心臓がずっと、太鼓みたいに鳴る。
だって、お皿に盛り付けたら綺麗に食べてくれるし、なにが食べたい?って聞くとピザ以外の言葉が返ってくるようになった。
そして普段は読書に夢中の雪哉くんも、ご飯を食べ終わったらボクと会話をしてくれる。

玄関のダンボールは少しずつだけど減っていって、机の上にはちゃんと食べる場所ができた。

でも―― 
 
きっと、ボクがいなくなったらまた元に戻る。
 
それに、クローゼットは相変わらず閉じたままだ。

雪哉くん自身が掃除をしている気配もない。
ボクも近づけなくて、何もできていない。

……うん、違うこと考えよう。

今日もお弁当を作った。
おにぎり二つと卵焼きにウインナー、冷凍の唐揚げ、彩りにブロッコリーを入れたシンプルなお弁当。
……卵焼きは上手く巻けなくて不格好だし、焦がした。
おにぎりは、ぎゅっと握りすぎてパンパンになった。
そんなんでも、雪哉くんは笑ってくれた。
  
「……なに、ニヤニヤしとるん?」

「え……?し、してる?」

「めっっちゃ」

食堂でお昼ご飯を食べている時に、夏生くんに指摘されてしまった。

「なに?また旦那のこと考えとるん?」

「だ、旦那って……」

「そんなん錆川先輩に決まっとるやん」

「ち、違う!旦那じゃないよ!」

「旦那やろ。毎日ご飯作って、お昼の弁当まで作って、部室でイチャついて……通い妻やん」

「か、通い妻!?」

た、確かに部室で夏生くんと秋平先輩が来ない日は二人でゲームしてるけど……あ、遊んでるだけだし!

「しかも隣の部屋なんやろ?もう同棲してるようなもんやんか」

箸を持つ手が止まる。

「ど、同棲!?ち、違うよ!雪哉くんとボクは恋人同士じゃないし……」

「でもハル、錆川先輩のこと好きなんやろ?」

真っ直ぐな目で夏生くんは言ってくる。
逃げ場がない。

「え、そ、そんな……ち、ちが……」

「顔に書いてあるで?''ボクは雪哉くんが好きです''って」

マジか……。そんなわかりやすいのか、ボク。
地味にショックを受けてしまう。

「……わ、わかるの?」
 
「うん。好きやーって感じがめっちゃ出てる」

「うぅ……」

は、恥ずかしい。友達に知られるなんて……しかもバレバレだったなんて……!
恥ずかしさで顔が赤くなる。

「まぁ、秋平先輩は知らんとちゃう?あの人頭空っぽやから恋愛という思考があるかどうか知らんし」

ひどい言われようだ。一応、先輩なのに遠慮がない。

「その反応やと、告白すらしてへんみたいやな」

「……うん」

「なんで?」

「なんでって……」

言葉が少し詰まる。

「……もし、告白して……関係が変わって……雪哉くんとした約束を破っちゃうって思って……それに」

あの別れの日に……迎えに来てくれるって言ったから。
額にキスをしてくれたから……。
ボクは待ってるんだ。

「……それに、今の雪哉くんに好きをぶつけたら……受け取る前に壊れちゃうかもしれない」

今は無理かもしれないけど、待ってたら……来てくれるかもしれない。
それがボクの原動力だから。
 
「……それってつまりは……告白待ちしてるってこと?」

「え……う、うーん。そうなっちゃうのかな」

「煮え切らんなぁ……まぁええわ。でも、断言するで!君から告白せんとあの先輩との関係は進まへん!」

「え、ええ!?」

ビシッ!とボクに指を突きつける夏生くん。

「ええか?正直、今の錆川先輩は甲斐性なしや。話聞いてる限り、君がいないと生活能力は皆無」

……こうして客観的事実を並べられると、ひどいな。

「いいところは、君のご飯を美味しそうに食べるところや。けど、そんな人が告白すると思う?せぇへんよ」

「お、思わない、かも……」

「せやろ?……けど、そんな人でもハルのことを大切に思ってるのはわかるで?ゲームしてる時、ハルのことじーっと見つめてるし」

「え、えぇ!?そ、そうなの……?」

知らなかった……。ちょっと嬉しい、かも。
でも、最近の雪哉くんの目は、優しいけどこか必死な感じがして怖い、かも。
 
「逆に気づいてへんのかい。……秋平先輩ほどやないけど、君も鈍感やな。というかハルも錆川先輩のこと見てるやろ」

「い、いや……ち、ちがっ!」

そうである。
四人でゲームをしてる時、雪哉くんのことが気になりすぎて皆の目を盗んで見ていた。
気づかれてたなんて……恥ずかしい!

「まぁ、ええわ。けど、大切に思ってるイコール告白してくるとは限らへん。そうやろ?」

「それは……」
 
……見た目がボロボロで、読書に夢中すぎて愛想がなくて、生活能力皆無。
成績優秀でやればできるのに、勉学以外はやらない。
そんな雪哉くんが、告白――

「……してこない、かも」

無気力な時、人は自分のことで手一杯のはず。

「な?……ええか、ハル。恋愛ってのは行動あってこそや。想い合ってたとしても行動しなきゃなんの意味もない……すれ違ったままや」

いつになく熱く語る夏生くんに、魅入ってしまう。

「そ、そうなの、かな」

「そうや。……踏み出さん限り何も変わらん。恋愛なんて特にそうやで?」

踏み出さない限り……か。

「ふ、踏み出すと言えばさ……」

「うん」

「雪哉くんが……何かを隠してるみたいなんだよね」

あの、触るなと叩きつけるように押さえられた手が忘れられない。
もう何日も前のことなのに、背中が冷えてしょうがない。

「隠し事?元カノとか?」

「……だったらショックだけど。そういう雰囲気じゃなさそうなんだよね。雪哉くんの家、クローゼットがあるんだけどそこを掃除させてくれなくて」

「掃除って嫁みたいなことしとるなぁ。まぁ、隠したいものがそこにあるってことやないの?」

「だよね……じゃあ自分で掃除してって言ってるんだけどしてる気配なくて」

「ふーん……」

ゴクリと夏生くんは水を飲む。

「……さっきも言ったけど、錆川先輩は君にすごーく気を許してると思う。そんな人が頑なに見せへんなんて、よっぽど君に見られるのが嫌なんやろうな」

ボクに、見られたくない、か……。
一体何が眠っているんだろう……ボク以外だったら見せるのかな?そんな事ばかり考えてしまう。

「……僕からのアドバイスはひとつだけや。中途半端な気持ちで秘密を暴いたらあかん。覚悟がないまま踏み込んだら、壊れるのは自分や」

「覚悟……」

「うん、覚悟……。けどな?君に全部受け止める覚悟があるなら――そのときは、暴いたらええ」

「……暴いていいの?」

「そんだけの覚悟があったらな?……まぁ、ゆっくり考えればええ。これは僕なりのアドバイスや。実行するのもしないのも君次第。僕は背中を押しただけやからな。
……それに、君、危なっかしいねん。優しいだけじゃ世の中渡っていけへんで」

最後にきつい言葉を浴びせてきた。
けど――

「……あり、がとう」

食堂のざわめきが、少し遠くに聞こえる。
 
暴く、覚悟。
今のボクにその覚悟があるかわからない……。
 
でも……覚悟を決めないと、何も進まない。
恋も、雪哉くんとの時間も。

でも、今は……この幸せな時間をもう少しだけ感じさせてほしい。