いつものテンションの友人

「お前と恋人に間違われたんだけどw」

「は?」



 そんな感じで飄々と言いながら入ってきた三木に、オレは心底呆れた顔で答えた。




 三木は、十五年来の友人だ。
 誰とでも仲良くできてどんな時でも軽いノリの三木と、常にローテンションで他人の目を気にせず一人でいることが多いオレ。
 対照的なオレたちだけど、小学校で初めて会った時からなぜか気が合う。ボケとツッコミのポジションを維持しつつ、今まで付き合いが続いている。


 どんな時でも飄々とした態度で、何でも肯定してくれて、三木といると辛いことなんて明るく吹き飛ばしてくれる。そんな三木に、オレはなんやかんやいつも助けられている。
 そんなところをオレは尊敬してるし、すごいヤツだと思ってる。


……こんなこと、三木には口が裂けても言えないけどな!!



 でも、そんな三木にも欠点がある。
 それは……本音までも、この同じ飄々としたテンションで言ってしまうことだ。たぶん本人も気づいていないだろう。


 本音か冗談か、わかりにくいんだよなぁ……


 だからオレは、三木に恋人ができるたび、その恋人を応援せずにはいられない。






 三木が今回オレの家にやって来たのは……三木の意中の相手が、三木とオレが付き合ってると思っていたとかナントカで……それを言いにやって来たという訳らしい。


 まぁ、付き合い長いし、他人が勘違いしてしまうのもわからなくはない。ツッコミしてるとこなんて、気の置けない間柄に見えるだろう。


 ……でもな、オレは三木に言いたい。
 それをそのテンションで言うなー!!!!






ーーーー




「なぁなぁ荒川、聞いてよー!昨日、とうとう付き合うことができたんだけどさぁw」


 またもや今日も三木は、オレの家の玄関を開けるなり開口一番いつものテンションで話し始める。


「……お、おめでとさん」


 結構重要なことをさらりと言われ、オレは自分のテンションに困る。


「ありがとー!ありがとー!二階席もありがとー!!」


 そんな中でも、三木はオレのテンションなんか何のその、アンコールかってくらい盛り上がっている。ちなみに三木は布団しか置いてないロフトに向かって手を振っている。


 ここはコンサート会場かって……



「……ってか、誤解は解けたんだな」


 オレはふと、数日前のことを思い出す。オレが三木の恋人だと間違われたときのことだ。


「友達だよって言ったら納得してくれたよ〜」

「そうか。それはよかった」


 オレはほっと胸をなでおろす……けれど、それができたのは一瞬で。


「あ、あと、今度そのうち荒川と会いたいってさ〜」

「は?」


 オレは目をパチクリさせるしかなかった。なで降りたはずの胸は一瞬で戻ってくる。


 ちょい待てそれは全然大丈夫じゃないパターンじゃないか!?





ーーーー




「今日はありがとうございました。荒川さんのこと話に聞いてて、ずっと会ってみたいと思ってたんです。荒川さんと会えて良かったです」

「いえ、こちらこそ。あ、あと、今後とも三木をよろしくお願いします」

「はい」

「では」

「荒川まったねー!」


 店の前でいつものようにブンブンと手を振る三木たちを見送りつつ、オレも家路についた。


 よかったーー!!


 会ってみたいと言われた時には、これはヤバイ予感しかない!!三木と恋人じゃない証明をせねば!?と思った。けれどそんな心配は杞憂で……


 むしろ、すごく良い人で安心したなぁ。


 三木の飄々とした態度に悪ノリする訳ではなく、かといって三木を厳しく止めるでもない。
 ちょうどいいバランスだ。まさにお似合いってやつだ。


 心配しすぎだったな……


 あれこれ気にしすぎない性格は三木を見習うべきか……そんなことを考えていると、ポケットの中でスマホが震えた。三木からの電話だった。


「もしもし?どうした忘れ物でもしたか?」

「荒川と別れてすぐね、ついさっきなんだけどね、ケンカしちゃった〜」

「は?」




ーーーー






 今日も今日とて、三木は飄々と現れる。


「やっほー荒川〜!飯行こうぜー!!」


 お互い忙しい時期が重なり、三木と話すのはこの前の電話ぶりだ。


「いいけど……」


 先週の電話の内容からして、ケンカして傷心中……だよ、な?


 相変わらず同じテンションにオレは三木の心境がわからず、とりあえず傷心の方にテンションを合わせる。


「あ、あの……この前の、さ。ケンカ、大丈夫だったのか?」

「んー、今は冷戦状態ってやつ〜?同じ会社だから、仕事の時は普通に話してるかな〜」

「そ、そうか」


 相変わらずわかりにくい……!!



ーーーー





 腹が膨れ少し酒も入ったことにより、酔い冷ましにオレたちは歩くことにした。


「ふー、食った食った!満腹だー!!」

「だな」


 冷たい風が、火照った顔に気持ちいい。


「そういえば、まだケンカ続行中なんだけどさー」


 なんの気無しに、いつもの飄々とした態度で三木は話し始める。けれどオレは、酔いもあってか、いつも以上に鋭いツッコミが口から出ていたようで……


「ってか、恋人とケンカ中とかさ、そのちゃらけたテンションで話す内容かぁー?」

「荒川……?」


 その瞬間、場とオレの背筋が凍るのがわかる。


「あ、ごっ、ごめ……」


 オレは酔いが一瞬で醒めていく。酔いどころか血の気も引く勢いだ。


 ヤバイ、これは言い過ぎだ……


「いいよいいよー、気にすんな〜」


 しかしその中でも、三木のいつものテンションは相変わらずいつものだった。


 三木……


「ほんと、ごめん」


 こういう時の三木って、やっぱりさ……





ーーーー





 少し歩いて、オレたちは駅に到着した。


「今日はありがと〜!」


 そう言いながらブンブンと手を振る三木の姿に、先週のことが重なる。


 そういえば先週もこんな感じで別れて、その後……


 さっきの礼を言いたかったのか、いつもよりちょっとだけ深酒したからか……オレは、いつにないことを口にする。


「三木おまえ、わかりにくいんだよ……ってか、傷心中くらい、悲しいって顔しろよな!!」


 一瞬だけびっくりした顔を見せた三木だったけど……相変わらずいつもの飄々としたテンションで改札の中へ消えて行った。