真昼の夢を、君と歩く

 迎えた文化祭当日。
 クラスの出し物である演劇『影を追う王子』は、予想以上の大盛況だった。
 
 夜月の突飛なアイデアを、俺が現実的な構成に落とし込んだ脚本。全員で力を合わせて作り上げた舞台装置と小道具。
 舞台の上で影と踊る王子の姿に、観客は息をのんで見入っていた。

 「……睡、ほら。みんなお前が作った世界に夢中になってるぞ」

 舞台袖の暗がりで、俺は隣に立つ睡に囁いた。
 睡は小さくうなずくと、客席のほうをじっと見つめている。

 「……夢じゃないんだね、これ」
 「ああ。お前が現実で作った、本物の景色だ」

 睡は客席から聞こえてくる割れんばかりの拍手を、しばらくじっと聞き入ってから目を閉じた。

 「ねえ、光」
 「ん?」
 「……ありがとう。僕を、こっちの世界に引き戻してくれて」

 そのとき、ふいに睡の手が俺の手に触れた。

 一瞬の、けれど確かな体温だった。


 ◇◇◇◇


 数週間後。
 季節はすっかり冬本番を迎え、教室の窓は白く曇っている。

 授業が終わったあとの、のんびりとした昼休み。
 窓際の最後列で、睡は目を閉じて眠っていた。その穏やかな寝顔は、かつての現実を拒絶していた頃とは、似て非なるものだった。

 俺はノートを閉じて、睡の机の横に立つ。

 「おい、睡。起きてるか?」

 睡はゆっくりと、でも迷いのない動作で目を開けた。
 そして眩しそうに俺を見上げて、いたずらっぽく笑った。

 「うん。ちゃんとここにいる」

 睡の返事に安堵して、俺は結露で曇った窓を手で拭う。
 その向こうには、どこまでも広がる鮮やかな青空があった。


 「ねえ光、今日はどこ寄り道する?」

 「そうだな……なんでもいいよ、睡の行きたいところならどこでも」



 Fin.