「二人で日本一に」和馬のその言葉が、龍斗の未来の指針となっていた。また二人でやれる……龍斗の心はその喜びであふれていた。龍斗にとって和馬は親友であると同時に、お互いを高めあっていける好敵手である。「あいつには負けたくない」その気持ちが龍斗をここまで強くした。
インハイ予選も終わり、チームは新チームとなった。本来ならもうとっくに引退して、そろそろ受験勉強に本腰を入れる時期であったが、その間も龍斗は練習を続けていた。今度こそもっと強くなって、高みにのぼるためには龍斗に他のことを費やす時間はなかった。
そして、夏が終わり、秋も深くなって紅葉が紅く染まる頃、龍斗のもとに一本の電話がかかってきた。その電話こそ龍斗が待ちわびたものである。大学空手界で古豪と呼ばれる帝王大学、そこのスポーツ推薦枠に龍斗と和馬が選ばれた。
……これで二人で空手を続けられる
龍斗は当然和馬も帝大に進むものと思っていた。しかし、和馬は帝大への推薦入学を辞退した。それを龍斗が知ったのは推薦枠の通知があってから1週間ほどたってからだった。その日龍斗は話があると突然和馬に呼び出された。和馬の発した一言は龍斗にとってあまりに大きい一言であった。
「龍斗、俺は帝大には行かない……」
和馬は龍斗から目をそらし、ぼそっと言った。冷めた11月の風が二人の間をすり抜ける。龍斗は和馬のいっていることが理解できなかった。
「……えっ⁉ 今何て?」
「俺は帝大にいかない。つーか、大学にいくつもりはない、空手も高校で打ち止めやな」
今度ははっきりと和馬が言う。そして、龍斗にとって一番聞きたくなかった言葉が和馬から放たれた。
「……龍斗、すまん。二人の夢かなわんかったな」
「……な、何いってんだよ、和馬。冗談だろ?」
「……」
「おい、何とか言えよ」
悲しそうな顔で和馬はうつむいている。その和馬の態度に龍斗は全ては終わってしまったことだと悟った。
「……なんだよ、バカみたいじゃん、俺。お前の言葉信じて、また二人でやれる、二人ならやれるってよろこんでたのに。お前のこと信じてたのに……バカじゃん、俺」
そのまま龍斗は泣き崩れてしまった。和馬のどんな言葉もそのときの龍斗には届かなかった。その日以降、龍斗と和馬はまともに会話を交わすことなく卒業の日を迎えた。
「勝負は高校の公式ルール、セルフジャッジでえーな?まあ、今から誰か審判できる後輩探しにいくのもだるいしな」
「……なんでもいいからさっさとはじめるぞ」
龍斗はどうでもいいという風に冷たく言い放った。和馬はその長い髪の毛を後ろで束ね直し、ぽりぽりと頭を掻いた。そして、両腕を前にたらし用意の構えをする。
「……さよですか、あとで文句は言いっこなしやで。ほんなら」
和馬は素早く組み手の構えに移る。
「始めるで‼」
そう言い放つと同時に和馬は転身しながら間合いをつめ、右足で廻し蹴りを放つ。その蹴りを龍斗が左腕で受けるや否や、和馬の右足はその反動を利用して上段に伸びてくる。
……二段蹴り⁉
鞭のようにしなる和馬の蹴りを必死にスウェーバックしてよける。ほほに蹴りの風圧を感じる。龍斗は軽くステップバックし、体勢を立て直した。
その龍斗に和馬はさらに追い打ちをかける。軽い踊るようなステップで間合いを詰めたかと思うと和馬の前拳が伸びてくる。
……くっ‼
龍斗はあわてて反応しようとしたが、和馬の右手はすでにうなりをあげて龍斗の喉元に達している。
「うっっしゃぁぁぁー‼」
和馬のかけ声と共に上段刻み突きが決まる。ふぅーと息を吐き、和馬は一度開始線に戻る。龍斗は一度自分自身に気合いを入れ直すように両手で顔を叩いた。
……和馬のやつ、全く衰えてない。やっかいだな。
トリッキーな動きとスピードで勝負する和馬のようなタイプは決して龍斗の得意なタイプではなかった。龍斗としては和馬がスピードに乗ってしまう前につぶす必要があった。和馬相手に後手にまわると手がつけられなくなるということは今までの経験から龍斗はいやっていうほど知っていた。
「どないしたんや? こんのやったらこっちからどんどんいくで!」
和馬は軽く額の汗を拭うとそう言った。
「……いくぞ」
今度は龍斗から前にでる。とにかく先手をとる。和馬は長身のうえ蹴りも得意なのでとにかく間合いを潰していくしかない。
和馬とは違い、重心を低くしてすり足のような足運びで間合いを詰めていく。中に入れさせまいと和馬は前足で牽制する、しかし、その前足ごとなぎ払うような勢いで上段逆突きを放つ。その一撃は和馬に受けられてしまったが、体重の乗ったお手本のような龍斗突きに押されて、和馬は後ずさりする。
そこに龍斗の返しの中段突きが飛び込んでくる。何とか体をひねって有効打は避けたが、二人の体は激しく接触する。和馬の額の汗も飛沫となって飛び散る。
「ちっ!」
うまく避けた和馬に龍斗は舌打ちする。しかし、その顔にはいつしか笑みが浮かんでいた。龍斗だけではない、和馬もまた楽しそうに見えた。二人だけの、二人だからこそできる特殊な空間に道場はいつしかなっていた。
……これや! この感覚。龍斗のこのプレッシャーがないとやっぱおもろない
お互いに拳や蹴りを交えながら、二人はいつしか昔と同じ感覚を蘇らしていた。ただがむしゃらに空手に対して熱くなっていた頃の……和馬は、もしかしたら龍斗もかもしれない、二人が初めてあったときの、初めて拳を交えたときのことを思い出していた。
インハイ予選も終わり、チームは新チームとなった。本来ならもうとっくに引退して、そろそろ受験勉強に本腰を入れる時期であったが、その間も龍斗は練習を続けていた。今度こそもっと強くなって、高みにのぼるためには龍斗に他のことを費やす時間はなかった。
そして、夏が終わり、秋も深くなって紅葉が紅く染まる頃、龍斗のもとに一本の電話がかかってきた。その電話こそ龍斗が待ちわびたものである。大学空手界で古豪と呼ばれる帝王大学、そこのスポーツ推薦枠に龍斗と和馬が選ばれた。
……これで二人で空手を続けられる
龍斗は当然和馬も帝大に進むものと思っていた。しかし、和馬は帝大への推薦入学を辞退した。それを龍斗が知ったのは推薦枠の通知があってから1週間ほどたってからだった。その日龍斗は話があると突然和馬に呼び出された。和馬の発した一言は龍斗にとってあまりに大きい一言であった。
「龍斗、俺は帝大には行かない……」
和馬は龍斗から目をそらし、ぼそっと言った。冷めた11月の風が二人の間をすり抜ける。龍斗は和馬のいっていることが理解できなかった。
「……えっ⁉ 今何て?」
「俺は帝大にいかない。つーか、大学にいくつもりはない、空手も高校で打ち止めやな」
今度ははっきりと和馬が言う。そして、龍斗にとって一番聞きたくなかった言葉が和馬から放たれた。
「……龍斗、すまん。二人の夢かなわんかったな」
「……な、何いってんだよ、和馬。冗談だろ?」
「……」
「おい、何とか言えよ」
悲しそうな顔で和馬はうつむいている。その和馬の態度に龍斗は全ては終わってしまったことだと悟った。
「……なんだよ、バカみたいじゃん、俺。お前の言葉信じて、また二人でやれる、二人ならやれるってよろこんでたのに。お前のこと信じてたのに……バカじゃん、俺」
そのまま龍斗は泣き崩れてしまった。和馬のどんな言葉もそのときの龍斗には届かなかった。その日以降、龍斗と和馬はまともに会話を交わすことなく卒業の日を迎えた。
「勝負は高校の公式ルール、セルフジャッジでえーな?まあ、今から誰か審判できる後輩探しにいくのもだるいしな」
「……なんでもいいからさっさとはじめるぞ」
龍斗はどうでもいいという風に冷たく言い放った。和馬はその長い髪の毛を後ろで束ね直し、ぽりぽりと頭を掻いた。そして、両腕を前にたらし用意の構えをする。
「……さよですか、あとで文句は言いっこなしやで。ほんなら」
和馬は素早く組み手の構えに移る。
「始めるで‼」
そう言い放つと同時に和馬は転身しながら間合いをつめ、右足で廻し蹴りを放つ。その蹴りを龍斗が左腕で受けるや否や、和馬の右足はその反動を利用して上段に伸びてくる。
……二段蹴り⁉
鞭のようにしなる和馬の蹴りを必死にスウェーバックしてよける。ほほに蹴りの風圧を感じる。龍斗は軽くステップバックし、体勢を立て直した。
その龍斗に和馬はさらに追い打ちをかける。軽い踊るようなステップで間合いを詰めたかと思うと和馬の前拳が伸びてくる。
……くっ‼
龍斗はあわてて反応しようとしたが、和馬の右手はすでにうなりをあげて龍斗の喉元に達している。
「うっっしゃぁぁぁー‼」
和馬のかけ声と共に上段刻み突きが決まる。ふぅーと息を吐き、和馬は一度開始線に戻る。龍斗は一度自分自身に気合いを入れ直すように両手で顔を叩いた。
……和馬のやつ、全く衰えてない。やっかいだな。
トリッキーな動きとスピードで勝負する和馬のようなタイプは決して龍斗の得意なタイプではなかった。龍斗としては和馬がスピードに乗ってしまう前につぶす必要があった。和馬相手に後手にまわると手がつけられなくなるということは今までの経験から龍斗はいやっていうほど知っていた。
「どないしたんや? こんのやったらこっちからどんどんいくで!」
和馬は軽く額の汗を拭うとそう言った。
「……いくぞ」
今度は龍斗から前にでる。とにかく先手をとる。和馬は長身のうえ蹴りも得意なのでとにかく間合いを潰していくしかない。
和馬とは違い、重心を低くしてすり足のような足運びで間合いを詰めていく。中に入れさせまいと和馬は前足で牽制する、しかし、その前足ごとなぎ払うような勢いで上段逆突きを放つ。その一撃は和馬に受けられてしまったが、体重の乗ったお手本のような龍斗突きに押されて、和馬は後ずさりする。
そこに龍斗の返しの中段突きが飛び込んでくる。何とか体をひねって有効打は避けたが、二人の体は激しく接触する。和馬の額の汗も飛沫となって飛び散る。
「ちっ!」
うまく避けた和馬に龍斗は舌打ちする。しかし、その顔にはいつしか笑みが浮かんでいた。龍斗だけではない、和馬もまた楽しそうに見えた。二人だけの、二人だからこそできる特殊な空間に道場はいつしかなっていた。
……これや! この感覚。龍斗のこのプレッシャーがないとやっぱおもろない
お互いに拳や蹴りを交えながら、二人はいつしか昔と同じ感覚を蘇らしていた。ただがむしゃらに空手に対して熱くなっていた頃の……和馬は、もしかしたら龍斗もかもしれない、二人が初めてあったときの、初めて拳を交えたときのことを思い出していた。



