三年間、通い慣れた古びた学校の道場、その前に龍斗が到着したとき、時間はまだ七時半を少しまわったところであった。暦の上ではもう春だが、まだ朝の風は少し肌寒かった。いつもならこの時間は朝練にやってくる運動部の生徒でにぎわっているが、今日は卒業式というだけあって、この時間にやってくる生徒はほとんどいない。
龍斗が道場に足を踏み入れると、和馬はもう中にいた。すでに和馬は道衣に身を包んでいる。龍斗は少し、怒った口調で言った。
「こんな時間に道場呼び出していったい何する気だ? 和馬、お前今日卒業式ってわかってるのか?」
そんな龍斗に対して和馬は落ち着いた様子で答える。
「いいから、早く道衣に着替えろ」
「はあ? 何するつもりだ? まさか今から練習でもするつもりか? ……だいたいなんで今さらお前が道衣なんてきてるんだ」
龍斗の脳裏に最後の大会が思い出される。公立高校の弱小空手部、それがインハイ予選の決勝まで行った。小学校からの親友、そしてライバル。力で押していく真っ直ぐな空手をする龍斗、技で相手を翻弄する変化に富んだ空手をする和馬。二人の性格はそのまま空手のスタイルにも現れた。
そんな二人の対照的な性格が幸いして、二人はよく馬があった。お互いのない部分を補い合いそれが大きな力として働いた。二人の加入により畷西高校の空手部は確実に強くなっていった。三年次には龍斗が主将で団体では先鋒、和馬が副主将で団体では大将としてインハイ予選二位の原動力となった。
二人の夢は全国優勝。同じ目標を目指し、同じ街で同じ時の中を過ごしていた。最後の大会が終わって泣き崩れる龍斗に対して、笑顔で和馬がいった言葉、「次は大学で二人で日本一やな」それが今も龍斗の耳を離れない。全ては終わったことだ……龍斗は自分に言い聞かせた。
「もう、空手はやめたんじゃなかったのか?」
龍斗は冷たく言い放った。和馬は少し悲しそうな顔をしてこう答えた。
「……そやな。完全にやめてまうわけじゃないやろうけど、こんなに本気でやるのはもう打ち止めやろな」
「……」
「……だから」
和馬が肩をまわしながら言う。
「この際、どっちの方が強いか、しっかり白黒決めとこか。さっさと着替えて、拳サポつけや」
和馬がニッと笑う。龍斗はそれに対してあっけにとられていた。そんな龍斗を見て、和馬はさらに言葉を続ける。
「まあ、龍斗がやらんと逃げる言うならそれでもいいけど。前に自分で言ってたとおり、通算成績は八勝七敗で俺が一つ勝ち越してるからな。お前が許さんって言うてた勝ち逃げさせてもらうわ」
和馬の言い方に龍斗は頭にきていた。もともと、龍斗は少々直情径行にありすぎるきらいがある。
「誰が逃げるっていった。つーか、空手から逃げたのはお前の方だろ」
「……」
「何が『二人で日本一』だよ。俺とお前ならもしかしてって思ったのに……俺らが目指してたものは同じだと思ってた。でも、お前は……」
それまで烈しい口調でまくしたてていた龍斗のトーンが下がる。龍斗は和馬から目をそらした。自分には和馬が必要……それを一番理解しているのは龍斗自身だった。道場の中に一瞬の静寂が訪れる。しかし、その静寂はすぐに和馬の吹き出した笑い声によってかき消された。
「……何がおかしい」
龍斗はいきりたって問いつめる。
「いや、悪い悪い。ほんまに龍斗はいつでも真っ直ぐな奴やな。なんかこうやってちゃんと話すのは久しぶりやろ。ずっとけんかみたいな状態でまともに話してなくて。なんか改めておもったわ」
「……」
「ほら、覚えてるか? インハイ予選の三回戦。あんときも俺の試合中に相手が反則して、一番怒ってたのは龍斗やった」
「……あれは明らかに相手がわるいんだよ」
また和馬は笑い出す。
「そやな」
そこで一度言葉切ると和馬は少し真面目な表情を浮べ、こう続けた。
「……俺はそんな龍斗がめっちゃ好きや。この先、お前とは進む道は違うかもしれんけど、お前はずっと俺の相棒やと思ってる。だから、このまま気まずい感じで離れるのは勘弁したい」
いつになく真面目なしゃべり口調の和馬に、龍斗もいつの間にか真剣に話に耳を傾けていた。
「でも、知ってのとおり俺もお前も頑固もんやからな……」
和馬は両手を握りしめ拳を作ると、両方の拳の前でぶつけるジェスチャーをするとこう言った。
「結局、これしかないっしょ……まあ、純粋にけりつけたいってのもあるけど」
もう一度、和馬はニッと笑った。そんな和馬を見て龍斗は一度ため息をつくと、道場のロッカーから道衣を取り出し着替えはじめた。
龍斗が道場に足を踏み入れると、和馬はもう中にいた。すでに和馬は道衣に身を包んでいる。龍斗は少し、怒った口調で言った。
「こんな時間に道場呼び出していったい何する気だ? 和馬、お前今日卒業式ってわかってるのか?」
そんな龍斗に対して和馬は落ち着いた様子で答える。
「いいから、早く道衣に着替えろ」
「はあ? 何するつもりだ? まさか今から練習でもするつもりか? ……だいたいなんで今さらお前が道衣なんてきてるんだ」
龍斗の脳裏に最後の大会が思い出される。公立高校の弱小空手部、それがインハイ予選の決勝まで行った。小学校からの親友、そしてライバル。力で押していく真っ直ぐな空手をする龍斗、技で相手を翻弄する変化に富んだ空手をする和馬。二人の性格はそのまま空手のスタイルにも現れた。
そんな二人の対照的な性格が幸いして、二人はよく馬があった。お互いのない部分を補い合いそれが大きな力として働いた。二人の加入により畷西高校の空手部は確実に強くなっていった。三年次には龍斗が主将で団体では先鋒、和馬が副主将で団体では大将としてインハイ予選二位の原動力となった。
二人の夢は全国優勝。同じ目標を目指し、同じ街で同じ時の中を過ごしていた。最後の大会が終わって泣き崩れる龍斗に対して、笑顔で和馬がいった言葉、「次は大学で二人で日本一やな」それが今も龍斗の耳を離れない。全ては終わったことだ……龍斗は自分に言い聞かせた。
「もう、空手はやめたんじゃなかったのか?」
龍斗は冷たく言い放った。和馬は少し悲しそうな顔をしてこう答えた。
「……そやな。完全にやめてまうわけじゃないやろうけど、こんなに本気でやるのはもう打ち止めやろな」
「……」
「……だから」
和馬が肩をまわしながら言う。
「この際、どっちの方が強いか、しっかり白黒決めとこか。さっさと着替えて、拳サポつけや」
和馬がニッと笑う。龍斗はそれに対してあっけにとられていた。そんな龍斗を見て、和馬はさらに言葉を続ける。
「まあ、龍斗がやらんと逃げる言うならそれでもいいけど。前に自分で言ってたとおり、通算成績は八勝七敗で俺が一つ勝ち越してるからな。お前が許さんって言うてた勝ち逃げさせてもらうわ」
和馬の言い方に龍斗は頭にきていた。もともと、龍斗は少々直情径行にありすぎるきらいがある。
「誰が逃げるっていった。つーか、空手から逃げたのはお前の方だろ」
「……」
「何が『二人で日本一』だよ。俺とお前ならもしかしてって思ったのに……俺らが目指してたものは同じだと思ってた。でも、お前は……」
それまで烈しい口調でまくしたてていた龍斗のトーンが下がる。龍斗は和馬から目をそらした。自分には和馬が必要……それを一番理解しているのは龍斗自身だった。道場の中に一瞬の静寂が訪れる。しかし、その静寂はすぐに和馬の吹き出した笑い声によってかき消された。
「……何がおかしい」
龍斗はいきりたって問いつめる。
「いや、悪い悪い。ほんまに龍斗はいつでも真っ直ぐな奴やな。なんかこうやってちゃんと話すのは久しぶりやろ。ずっとけんかみたいな状態でまともに話してなくて。なんか改めておもったわ」
「……」
「ほら、覚えてるか? インハイ予選の三回戦。あんときも俺の試合中に相手が反則して、一番怒ってたのは龍斗やった」
「……あれは明らかに相手がわるいんだよ」
また和馬は笑い出す。
「そやな」
そこで一度言葉切ると和馬は少し真面目な表情を浮べ、こう続けた。
「……俺はそんな龍斗がめっちゃ好きや。この先、お前とは進む道は違うかもしれんけど、お前はずっと俺の相棒やと思ってる。だから、このまま気まずい感じで離れるのは勘弁したい」
いつになく真面目なしゃべり口調の和馬に、龍斗もいつの間にか真剣に話に耳を傾けていた。
「でも、知ってのとおり俺もお前も頑固もんやからな……」
和馬は両手を握りしめ拳を作ると、両方の拳の前でぶつけるジェスチャーをするとこう言った。
「結局、これしかないっしょ……まあ、純粋にけりつけたいってのもあるけど」
もう一度、和馬はニッと笑った。そんな和馬を見て龍斗は一度ため息をつくと、道場のロッカーから道衣を取り出し着替えはじめた。



