恋人は、あまえた(元)優等生。




「貴島月仁です。これから一年宜しくお願いします」

クラスメイトに向けた貴島の自己紹介は、本当に短かった。

皆軽く呆気にとられている。
けど「転校生だから」というよりは、整然とした彼の一挙一動に釘付けになってるようだ。
無表情で黒板の前に佇む貴島は、本当に同い年かと疑いたくなるレベルで……大人びている。

このクラスもおしゃれな男子が多いけど、次元が違う。
またそんな人物を女子が放っておくはずがなく。休み時間に入ると、彼女達は一斉に貴島を取り囲んだ。

「貴島君、前はどこに住んでたの?」
「部活入ってたなら、こっちでも体験入部してみたら? 私達案内するよっ」

いつもよりワントーン高い声が後ろから聞こえる。
偶然にも俺の真後ろが貴島の席だった。話しやすい位置なのは嬉しいけど、これだと彼らの会話が嫌でも耳に入る。

ていうか、貴島は女子にわいわい囲まれるの大丈夫なのかな。昔と違って、今は静かに過ごすのが好きそうだけど。
内心焦っていると、水のように透き通った声が聞こえた。

「ありがと。でも大丈夫。藤間先生に、放課後は川音君に案内してもらうように言われたから」

貴島がやんわり断ったことで、盛り上がっていた女子達は残念そうに話した。

「そっかぁ。じゃ、他に困ったことがあったら何でも言ってね」
「川音君はねぇ、完璧な上に超優しいから安心だよ〜」

彼女達はそう言い残すと、和気あいあいと去っていった。
後ろを振り返ると、貴島は椅子の背にもたれ、息をついた。

「やっと解放された」
「はは、おつかれ。でもしばらくこんな感じだと思うぞ。ほら、他のクラスの子もお前のこと見に来てる」

ドアの方を見ると、何人も貴島のことを興味津々に覗いていた。恐らく女子達がイケメンの転校生が来たと吹聴してるのだろう。
「転校生の何が嫌って、目立つから嫌だよ」
貴島は目を細める。
それはその通りだけど、彼の場合それに輪をかけてイケメンだから。という言葉をグッと飲み込み、頷いておいた。

「だいじょーぶ! それなら俺が女子ガードになろう!」

ただでさえ慣れない場所にいる貴島を疲れさせてはいけない。ので、休み時間は彼の傍にぴったりくっつくことにした。

貴島が言った通り、学級委員長的立ち位置の俺が転校生といることはそれほど触れられず。おかげでどこへ行っても「川音君は面倒見がイイナー」、で済んだ。

「川音君、転校生ってその子? わー、身長たかーい!」
「そ、貴島月仁君。今ちょっと校内回ってるんだ」
「そうなんだ! 貴島君も頑張ってね〜!」

皆フレンドリーに話しかけてくる。
貴島は終始眉ひとつ動かす、やりとりを見つめていた。


「お前、本当に有名人だな。三歩歩いたら声かけられて」


昼休み。売店で買った大盛り唐揚げ弁当を開けていると、貴島は呟いた。
「アイドルって言われても違和感ない」
「いやいや。女子は刺激が欲しいんだよ」
この感じたと、どうやら人伝に聞いたらしい。貴島はもう、複数のファンクラブが存在してることを知っていた。
でも俺からすれば、貴島のファンクラブができるのも時間の問題だと思う。

「あ。ただ、男でも結構グイグイ来る。この学校、同性愛者も多いから」

ペットボトルのお茶を傾ける。貴島は一瞬こちらに視線を向けたが、すぐにさっきの話題を続けた。

「部活と委員会と、生徒会もやってるんだって? あれやってくれ、これやってくれって頼まれまくって。……大変そうだな」
「んー、ちょっとね。でもそのおかげで、こうしてお前といられるし?」

貴島は焼売弁当を開け、眉を寄せた。

「どういうこと?」
「いやいや。普段から完璧に振る舞ってれば堂々とできるだろ。昔の俺だったら、お前の隣になんていられないよ。何でこんなイケメンの傍に陰キャがいるんだ、って四方八方からクレームがくる」

そうだ。
正直貴島といるのは緊張する。例え中身が変わってなくても……大人しくしてても溢れ出るオーラがあって、気圧されそうになる。

俺は優等生という盾があるから、彼の傍にいられる。
中学高校と自分改革をしていたのは、大人になったときに彼と胸を張って会う為。

だからその苦労が報われたことは嬉しいんだけど。
貴島は何故か、腑に落ちない顔をしていた。


昼休みが終わり、授業内容を軽く振り返って、あっという間に放課後を迎えた。
「やった、終わりー! 貴島……君、お疲れ様っ」
「あぁ」
クラスメイトの手前、若干取り繕った笑顔を浮かべた。
俺と彼は初対面の設定だから、昔の話ができない。もししたら、貴島はともかく俺はうっかりボロを出しそうだ。

皆貴島の出身地を訊きまくるから、俺が答えそうになる場面が何回もあったし。

心労を抱えながら片付けをしてると、近くにいた男子二人が俺を見て笑った。

「川音、今日何かいつもより固くなかった? 転校生の前で緊張してんの?」

そんなタイプじゃないだろー、とツッコみを入れられる。
貴島は無表情だから何を考えてるか分からないけど、俺は焦っていた。

図星にも程がある。
が、それを悟られるわけにはいかない。深呼吸し、彼らに優しく微笑んだ。

「……貴島君ってすごく礼儀正しいから、俺も無意識に頑張ってたのかもね。あはは」

最終的に自分でもよく分からない理由を言い、廊下へ出た。周りに人がいないことを確認し、貴島も訝しげに頭を掻く。

「俺に礼儀正しい要素なんてないけどな」
「し、しょうがないだろ。そもそも初対面のフリをしろって方が無理ある!」

壁に背を預けて頬を膨らますと、貴島は可笑しそうに吹き出した。

「あぁ、ほんと……俺が誰かに声かけられるとむくれるから、笑いこらえんの大変だった」
「……っ!」

彼は楽しそうだけど、羞恥心で顔が熱くなった。

俺は、貴島は自慢の幼馴染だと明かしたい気持ちと闘ってる。でも当の貴島が何でもないように過ごしてるから、葛藤してる自分が馬鹿みたいに思えた。

たったひとりの幼馴染。いや、幼馴染以上の存在だから。

「……俺はこの学校じゃ貴島のことを一番知ってる。なのに知らないふりしなきゃいけないのが悔しい……いや」

虚しくて、つい押し殺してた本音が零れた。

「やっぱ、その……寂しいよ」