うわ──────。
恥ずかしい。恥ずかしくて五回は死ねる。
顔から火が出そうだ。また半泣きになってると、月仁は身を乗り出し、俺の頭を撫でた。
「お前はほんっ……とに可愛いな」
「だって……! 好きなんだからしょうがないだろっ」
「うんうん。しょうがない」
月仁は笑いながら俺の頬を撫でる。若干からかわれてる気がしてムッとしたけど、それに気付いたのか彼は真剣な表情になった。
「俺なんて、自分をコントロールすることに毎日必死だからな」
「コントロール?」
「可愛がり過ぎて嫌われるかもしれないから。二十四時間我慢してる」
それは俺以上にやばいかもしれない。
改めて、彼もものすごい葛藤をしてることに驚く。
でも最終的に痛感したのは……俺も彼も、もっと触れ合っていたい願望があるということ。
「好き過ぎるのも地獄だな。離れていたときの方が地獄なのにさ。……触れる距離にいるのに触っちゃ駄目、って罰ゲームみたい」
「うん。……わかる」
互いに見つめ合い、吹き出した。
想いは通じてるし、代え難い関係も手に入れたけど、全てが叶ったわけじゃない。まだまだ限られた選択の中から未来を見つけ、選び取る必要がある。
それでも月仁と一緒に考えられるなら、こんなに嬉しいことはない。
月仁といたら大勢に非難されて、彼にも迷惑をかけてしまうと思っていた。
でもそんなのは痛い勘違いで、周りの優しさを無視した思い込みだった。
驚きつつも見守ってくれる周りに感謝して、今日も“俺らしく”生きたい。
七年前の俺が見たらびっくりするだろうな。また月仁に甘えて、且つ奔放に過ごしていたら。
「月仁君、お疲れ様。もう上がって、深白と夜ご飯食べな」
「お疲れ様です。あ、でもご飯は大丈夫ですよ」
両親の店でバイトを始めた月仁も、だいぶ慣れたみたいだ。夕方からとは言え忙しい時間帯なので、二人はとても助かったと喜んでいる。
俺も嬉しくて、以前に増して店を手伝うようになった。
「遠慮しないで! 深白ー、これ裏に持って行って」
「おっけ。月仁、俺の部屋で食べようぜ」
「でも、いつも悪い」
「いやいや、作ったもん食べない方が駄目! ってことで、ほら!」
丼が乗ったお盆を片手に、もう片方の手を月仁に差し出す。
彼は少し微笑み、俺の手をとり、お盆にも手を添えた。
厨房に向き直り、母に声を掛ける。
「そだな。……ありがとうございます、頂きます」
「はーい」
季節はあっという間に変わっていく。
俺達の毎日も、同じのようで確実に変わっていた。
月仁は希望の大学を決めたし、俺も迷ったものの進学し、家を出ることに決めた。
やりたいことが見つかれば良いし、もし見つからなかったとしても、無駄にはしたくない。両親は俺に店を継いでほしいと思ってなさそうだし……とりあえず、行けるところまで行ってみることにした。
どこへ辿り着こうと、どんな景色を見ようと……月仁と共感できるように。
「ご馳走様でした」
「ご馳走さま〜。はー、幸せ」
空になった丼を端によけて、ベッドに腰をおろす。
月仁は口を拭いて、楽しそうに笑った。
「腹いっぱいになったら嬉しくなるの、お前の長所だよ」
「そりゃそう。腹減ってると全てに絶望する」
「はは。じゃあ常にお前の腹満たしとかないとな」
月仁は立ち上がり、ゆっくりと歩いてくる。体の向きを変え、よっとベッドに腰を下ろした。
今じゃ当たり前に馴染んだこの景色も、昔なら夢と同じだった。
「……腹だけじゃなくて、こっちも満たしてほしい」
だから俺は、何でもないこの距離と時間に脳を焼かれてるんだ。
月仁の掌を自身の胸に押し当てる。
上目遣いで見つめると、彼は困ったように笑った。
「お前って、無自覚でひとを狂わすよな」
呆れなのか何なのか、ため息もついている。
台詞を吐いたことは反省するけど、仕方ない。
月仁が好き過ぎて、俺はとっくにおかしくなってるんだから。
「ぶっちゃけ月仁の影響もでかい」
「そうかもな。じゃ、責任とるよ」
もう片方の手が触れ、繋がる。
心臓の音まで聞こえてしまいそうな距離で、彼は囁いた。
「卒業したら一緒に住もう」
「月仁……」
不意打ちにも程がある。もちろん! と叫びたかったけど、どこか手放しで喜べない自分もいた。
「え、と……冗談じゃないよな?」
「冗談でこんなこと言うか」
念の為確認すると、月仁は俺を膝に乗せて見上げた。
「昔みたいに離れたこと、まだ不安なんだろ? だからもう離れられない関係にする」
彼は悪戯っぽく笑い、俺の手を取る。
「どう? この提案」
「……イイ」
というか、最高。
驚きと喜びで呆然としてしまったが、遅ればせながら現実感が戻ってきた。
動かないけどまばたきだけは繰り返す俺を、月仁は笑いながら抱き締める。
「ありがとっ。大好きだよ」



