恋人は、あまえた(元)優等生。




ひそかに懸想した。胸の高鳴りを掻き消すように、月仁は告げる。

「好きだ、深白。友達としてとか、幼馴染としてじゃなく。恋人として、お前の傍にいたい」

触れ合ってる部分が熱い。とけそうだ。

深白は月仁の告白に耳を傾けながら、止まらない涙を拭った。

こんな月仁、初めて見た……。
俺と同じ。今にも泣きそうだ。でも力強くて、優しい声をしている。

月仁もずっと苦しくて、ひとりで堪えてたんだ。

「俺も……俺も、月仁が好き。大好きだよ。もう、絶対離れたくない……!」

何年も想い続けたひと。愛しくて大切なひと。
やっと言えた。

越えちゃいけない壁なのかもしれない。でも、俺達は同じタイミングで乗り越えた。

薄暗い倉庫室で、わずかに射し込む光を頼りに。
膝を立てて、月仁と唇を重ねた。

必死だったせいか、恥ずかしい気持ちはあまりない。嬉しくて、背中に添えられた掌が温かかった。
学校でなんてことしてんだ……とか。
月仁も同性愛者だったんだ……とか。
色んな考えが頭の中でぐるぐる回ったけど、大した力にはならなかった。

想いが通じた。全てはそこに辿り着き、集約される。

子どもみたいに泣きじゃくる俺を、月仁は何も言わずに抱き締めた。

「大丈夫」と、おまじないのように。

そういえば昔も泣く度に月仁に抱き締められ、襟をぬらしていた気がした。彼はもう忘れてそうだけど、今頃思い出して恥ずかしくなる。

何度か深呼吸し、ゆっくりと月仁から離れた(何故か彼の膝に乗せられてるけど)。

「ごめん。一回落ち着くわ」
「別にいいって。つうか俺も……」
「ん?」
「過去最高に荒ぶってる」

また息が当たりそうな距離。秘密を打ち明けるように、月仁は囁いた。

「お前のこと、めちゃくちゃに甘やかしたい」
「おま……っ」

思わず顔を手で隠す。
両想いになれたのは嬉しいけど、月仁はいきなり甘い台詞を吐き過ぎだ。
それともこれが普通なんだろうか。俺はまだ、そういう台詞は言えないのに。

彼は慣れきってるみたいだ。落ち着いてるのはいつものことだとしても、俺に拒絶されるかも、なんて不安は少しもなさそう。

自信がある、とは違うか。
やっぱり、俺を信頼してくれてるんだ。

「深白。したいこと全部言って」
「えっ?」
「いっぱいあるんじゃないのか? 一緒に遊びに行ったり、お揃いのもの買ったり」

頬に手が添えられる。それは温もりを確かめるように、俺の唇をなぞった。

「もっと、触れ合ったりさ」
「う……」

月仁が見せる笑顔は、破壊力が凄まじい。
女子達が虜になるのもよく分かる。ずっと見ていたいほど綺麗なのに、それが自分に向けられてると思ったら……とてもじゃないけど、平静ではいられない。

俺じゃなくても舞い上がるはずだ。だから俺がここでアホな発言をしても仕方ない。ということにしてほしい。

「……したい」

月仁の膝に手をつき、俯きがちに零した。

「毎日一緒に飯食いたいし、どこ行くにも一緒にいたい。ていうか、堂々としたい。お前はずっ…………と前から俺のもんなんだってことを、全校生徒に教えたい」
「ははっ! そりゃいいな」

あまりに暴君っぽいけど、これは不安の裏返しだ。
月仁を独占したい気持ちは確かにある。でも本当は、彼の隣にいられるか分からなくて、怖いだけ。

でもそんな弱さを隠すのはやめだ。全部晒して、伝えよう。これからも彼の傍にいる為に。

「月仁に触れたいし。あっ……甘えたい」

言った。
むちゃくちゃ恥ずかしくて卒倒しそうだ。

キュンとする告白のはずが、半泣きになってる。

「……引いた?」
「引くわけないだろ。甘えろって、俺が言ってるんだから」
「そうだけどさぁ……改めて言うのは勇気いる」

またグスグス鼻をすすりながら言うと、月仁は腹を押さえて笑った。

「確かにそうだな。よく頑張ったよ。偉い」
「何か取ってつけた感じだな」
「本音だって。お前はこうと決めたらやり抜く奴だし。変なところで男気あるからな」

俺のはだけた襟元を直し、前髪を整える。
月仁はふぅと息をつき、満足そうに呟いた。

「でも俺は、素直な深白が大好き」
「ん……」

せっかくの告白場所が倉庫室ってどうなんだろ、と思ってた。でも今はここで本当に良かったと痛感する。

俺は今、相当ニヤけてるはずだから。薄暗い場所で、少しはアホっぽさが薄れてることを願おう。

「わっ!?」

と思ったのも束の間。
入った時と同じく、再び抱き抱えられてしまった。
しかもそのままずんずんと歩き、月仁は外に出た。

「うわ……眩しい」
「ほんと……てか早く下ろせって!」

いきなりどうしたって言うんだ。
月仁の考えが分からず必死に訴えたが、なんと彼はそのまま歩き出した。

「おい、月仁!?」
「大丈夫。行こう? 深白」