「そうなの?」
「そう。つうかそろそろ自分が可愛いこと自覚しろ」
か……っ!?
不意討ちの台詞に顔が熱くなる。
「可愛くはない! 強いて言うならかっこいい、だ」
「じゃあそういうことにしとくか。とにかく、今のお前はただ立ってるだけで狙われやすい。かわ……かっこいいから」
何か言い直された気がするけど。月仁は変わらず、真剣な表情をしていた。
「でも今度は絶対、俺が守る。だから俺の傍から離れな」
「自分のことは自分で守る! もうガキじゃないんだから、大丈夫だよ」
だけど、どうしても我慢できずに月仁の言葉を遮ってしまった。
俺は自分どころか、月仁のことを守りたいんだ。なのに彼に守られるなんてこと、あってはいけない。
使命感のようなものに支配されて言い放ったけど、月仁の表情も険しくなる。さっきより確実に強い語調で返してきた。
「お前の気持ちは尊重する。でも今は意地張ってるようにしか見えない。……いや、初めからずっと……お前は何かを怖がってる」
「……!」
月仁の鋭い眼差しを受け、言葉を失った。
きっと、図星だからだ。そして、それを否定する言い訳すら浮かばない自分に落胆している。
月仁はどんな時も俺の本心を見抜いている。それに気付いたらいたたまれなくて、息が苦しくなった。
「怖がらなくて大丈夫だ。もう離れることなんてない。ずっと傍にいるから」
そっと指が伸び、俺の前髪を撫でた。でも俺は臆病で、それすらビクッとしてしまった。
月仁の驚いた顔が見えた時……彼を傷つけてしまったんだと分かり、さらに頭が真っ白になった。
「ごめん……!」
「おい、深白!」
考えるより先に、足が動いていた。
廊下へ出て走り去る深白を追いかける為、月仁も扉へ向かう。
そこには都波が佇み、腕を組んでいた。
「取り込み中ごめん。貴島って、意外と熱いんだな」
「……」
月仁は足を止め、一旦呼吸を整える。彼の言うとおり過去最高頭に血が上っていたが、努めて冷静に答えた。
「別に。親友だから」
「親友ぅ? 嘘だろ?」
都波は目を丸くし、今度は前に身を乗り出した。
しかしそれは彼だけでなく、教室にいた数人も同じ反応で。
「嘘じゃないよ。……でも色々熱くなってたから白状する。親友っていうか、深白とは幼馴染」
「幼馴染? 嘘だろ!」
都波含め、全員が先ほどと全く同じリアクションをした。
隠していたことは申し訳ないけど、やや驚き過ぎな気が……。
月仁は気まずくなりながら小さく息をつく。
都波は未だダラダラ汗を流していたが、やがて可笑しそうに吹き出した。
「幼馴染なんてレベルじゃないだろ、お前ら。あんなこと大声で言い合ってさあ……逆に何で、そういう仲じゃないんだよ」
「え?」
「まぁいいや……早く追いかけてやれ。あいつ、ほとんど泣いてたぞ」
都波に背中を押され、前に踏み出す。
振り向くと、話を聞いていた女子達も心配そうに見守っていた。
「貴島君、川音君のこと追いかけてあげて」
「応援してる!」
「あ……ありがとう」
よく分からないが、応援されてしまった。
廊下に出て、深白が向かった方へ走り出す。もう放課後だから生徒が少ないのが救いだ。
周りにどう思われてようと、自分がすることはひとつ。
深白に寂しい想いをさせないことだ。だから、何があっても絶対迎えに行く。
クラスメイト達が言ってたとおり……幼馴染なんかじゃないから。
痛いほど拳を握り締め、月仁は昔の残像を思い浮かべた。
◇
「はぁ……」
最低だ。
体育館の隣にある倉庫室まで走り、深白は項垂れた。
自分の言動を思い返したら、叫びたい衝動に駆られた。
月仁は俺を心配して言ってくれたのに。……突き放してしまった。
今度こそ嫌われた。そして、傷つけてしまった。
自己嫌悪からその場に屈み、蹲る。
月仁のことが大切で、大好きなのに。……何で意地張っちゃうんだろう。
多分、認めてほしいんだ。俺は変わった。強くなったって。
実際は全然強くない。むしろ弱々メンタルになってる。
月仁が遠い存在になっていくのが悲しいし、独りが怖い。
駄目駄目じゃん……。
こんな最低な人間……幼馴染としても、彼の傍にいる資格はない。
離れなくちゃ……かも。
苦しくて嗚咽してると、不意に名前を呼ばれた。
「あれ。川音じゃん。どした?」
「あ……」
顔を上げると、隣のクラスの男子が立っていた。
蹲ってる自分を不思議そうに見つめている。
「大丈夫。そっちこそどうしたの?」
運動部がここにいるなら分かるが、彼は帰宅部だ。制服を着ていて、咄嗟になにかをポケットに仕舞ったのも分かった。
「いや〜、暇でぶらぶらしてただけ」
すぐに匂いで分かったが、一服してたんだろう。こんなエリート校でも、そういう生徒はいる。むしろ見た目は真面目そうな生徒ほど、裏でストレス発散してることは知れ渡っていた。
彼に限ったことではないから、一斉摘発でもしないとなくならない気がする。
「それよりお前、泣いてたの?」
「う、ううん」
慌てて袖で目元を拭ったが、腕を掴まれた。
「バレバレだから隠さなくていいって。……それより噂通り、お前ほんと変わったよな」


