恋人は、あまえた(元)優等生。




時晴さんは俺と月仁を交互に見て告げた。

「そ、そうですね……!」

多分、彼が言ってるのは青春っぽい活動のことだろうけど。

俺は返事してる間もずっと、隣にいる月仁のことを考えてる。……なんて知ったら、彼らはどう思うだろう。

普通にやばい奴認定だよな……。顔に出さないようにしないと。
努めて真顔を保ち、熱々のピザを頬張る。月仁を盗み見するとやれやれみたいな顔をしていたので、いつも言われてるのかな、なんて思った。


今しか言えないことか……。


その後も三人で昔のことを話したり、近況報告もしたりして盛り上がった。
時晴さんは本当に優しくて、また家に遊びに来てと言ってくれた。

「もう真っ暗だから、送って行こうか」
「大丈夫ですよ! 俺の家、ここから近いので」

マンションの外で時晴さんが心配そうにしていたから、笑顔でお辞儀した。すると今度は月仁が俺の隣に移動し、歩き出した。
「駅まで送ってから帰る」
「そうか。悪い、頼んだぞ。深白君、またね」
「は、はい。夜ご飯ご馳走様でした!」
月仁の歩くペースが速いから、別れの挨拶は声を張り上げた。

暗い住宅街で、月の光が道を照らしてくれる。
俺はぼんやり目の前を見ながら、隣の月仁に話し掛けた。

「月仁のお兄さんに会えて良かったよ」
「あぁ……最後に会ったの小学生のときだから、びっくりしたろ」
「うん。でもスーツ似合っててかっこいいし、やっぱ月仁の兄貴だな〜。って思った!」
「何だそりゃ」

月仁はくくっと笑って俺の髪を撫でた。
「今日は嫌なこと色々聞かせちゃったし、ごめんな」
「嫌なことって?」
「お前が転校した後のこと。学校で浮いてたって話」
踵を鳴らし、月仁は車道に面した細い道に乗り出す。さりげなく内側に押されたから、彼の腕を引いて自分の方に引き寄せた。

「嫌なことじゃなくて、大事なことだよ。月仁を傷つけた奴らに腹立つけど……お前が辛いときに何もできなかった自分にも腹立つ」
「教えてないんだから何もできないのは当然だろ」
「そ、そうだけどさ。これからは教えてよ。俺は月仁の力になりたい」

足を止め、力強く告げる。
いつも何かしら告白してるせいで、段々耐性がついてきたのかもしれない。彼の目を見て、はっきり伝えることができた。

「無理すんな、の前にもうひとつ約束したろ? ずっと傍にいるって。もう絶対、月仁に寂しい思いはさせないよ」
「深白……」

相棒とは、やっぱりちょっと違うんだ。
片割れとか半身とか、それぐらい強いもので繋がっている。月仁の痛みは自分にも刻まれる。

こう思うってことはやっぱり、俺は月仁のことを……。

胸の辺りを押さえ、静かに深呼吸する。
急に黙ったせいか、月仁は不思議そうに俺の頭を撫でた。

「また暗い顔してる」
「……これは真面目な顔って言うんだ」
「同じだよ。何でいつも気負ってんのか分かんないけど。……もっと寄りかかってこい」

駅に到着する直前、月仁は俺の手を握った。

「お前にその気がないなら、ウザいぐらい付き纏うぞ」
「え? 月仁が?」

ウザいどころか、普通に嬉しくてヤバいけど。

驚きやら照れくさいやらで思考が停止し、淡々と尋ねた。

「そう。今は抑えてるだけだからな?」
「な、何で抑えてんの」
「そりゃお前が逃げそうだから」

月仁に背中を押され、駅の方へ乗り出す。
逃げるというか、いつも俺が彼に突き放されてる気がするんだけど。
どういうことなのかと思い振り返る。すると月仁は見たことない真剣な眼差しで俺を見つめていた。

「でも、明日からはそれもやめる。そろそろ限界だしな」
「ちょ……全然よく分からないんですけど。俺、何かしちゃった?」
「いいや。おやすみ。気をつけて帰れよ」

そう言うと、月仁は軽く手を振って踵を返した。

何なんだ? 変なこと言っちゃったかな。
今日は特に感傷的になってわたわたしたから、引かれたかも……。

「はぁ〜……!」

時晴さんの家にいた時のことを思い返す。

……告白はしてないよな。あくまで、月仁の“強いところ”が好きって言ったんだし。

大丈夫大丈夫。まだ幼馴染の範囲内だ。

でも、心臓が爆発しそう。
何か絶対おかしい。……引き返せない場所に来てしまったような気がしている。

息が苦しい。顔が熱い。

何だこれ。
初めての経験に戸惑い、電車に乗った。夜の気温は涼しいぐらいなのに、自宅に着いてからも顔は火照ってしまっていた。