水曜日は、君と会えるから


 イケメンの隣に美女がいるとしっくりくるもんだなぁ。

 学校の永瀬は基本的に一人で過ごしている。休み時間は大抵本を読んでいるかぼんやりと外を見ているので、隙を見て俺が話しかけていた。だから、永瀬が誰かと一緒にいる場面を見たのは初めてだった。

 あまり誰かと交流したいと思っていないのかも。

 てっきりそう思っていたから、永瀬が誰かと——それも女の人と一緒にいたのは驚いた。でも同時に、俺は永瀬の事を何も知らないことにも気付いた。思わず「なるほど」と声に出してしまったのは動揺の証だ。

 でも、そりゃそうだよな。永瀬はあんなにかっこいいのだし、俺に知らない人間関係があるのだって当たり前だ。

 それに菫さんは美人で、永瀬と同じくダンスをやっている。しかも初対面の俺にも気さくに話してくれて、性格も良さそうだった。
 あんなに直球で「可愛い」と言われて思わず照れてしまったが……。

「どうしたの、神崎君。もう上がりの時間だよ」
「あ、ほんとだ。すみません」
「はは。ぼーっとしちゃってどうしたの、珍しい。あんまり頑張り過ぎないようにね」

 レジでぼんやりし過ぎていたらしい。岡田さんに言われてようやく、バイトが終わる時間が来ていたことに気が付いた。
 俺はお疲れ様です、と言ってバイトを上がった。



 学校で永瀬から俺に話しかけてくることはほとんどない。更に俺が他の奴と一緒にいるとまず、ない。気を遣わずに話しかけてくれたら嬉しいのにな、とずっと思っていた。

「神崎」

 だから昼休みに突然永瀬が話しかけてきたので、驚いて俺は手に持っていたパックジュースを床に落としそうになった。

「ど……どしたん、永瀬」
「昨日のことだけど」
「昨日……菫さんのこと?」

 永瀬は声も出さずにこくんと頷いた。
 なんだ。菫さんのことか。でも菫さんのことでわざわざ昼休みに俺に話しかけてまで言うこととは何だ。
 ゴクリ、と喉を鳴らす。
 もしかして永瀬は今、菫さんと良い感じなのかな。馴れ馴れしく彼女と話し過ぎただろうか……。
 俺は永瀬の言葉を待った。永瀬は逡巡するように口を動かし、なかなか言い出さない。

「おい永瀬君、大丈夫かぁ?」

 一緒に昼飯を食べていた黒木が口を挟む。
 永瀬はハッとしたように俺の周囲を見て、友人たちを視界に入れると、ごめん、と言ってくるりと後ろを向いた。まさか俺の周りが見えていなかったのだろうか。

「おい、永瀬」
「いや大したことじゃない。ごめん、邪魔した」
「俺らは別に邪魔じゃねぇけど。席空いてるし、永瀬君も一緒に食おうぜ」
「ありがとう。俺はもう食ったから」

 永瀬はそう言って静かに自分の席へ戻っていった。
 何だったんだろう。今日は日本史がない。話しかけるタイミングあるかな。なければラインを送ろうか。

「神崎って、永瀬君と仲いいよな」

 ポツリと黒木が言うと、周囲にいる他の奴らも同意するようにうんうんと頷いた。
 マジか。仲良く見えるんだ。それはかなり嬉しい。

「仲良く見える!?」
「お、おぉ。見える。永瀬君と喋ったり一緒に帰ったりしてんのお前ぐらいじゃん。てかなんでそんなに嬉しそうなんだよ……」
「嬉しいよ。だって永瀬めっちゃカッコいいじゃん」
「へ……、そうか? 永瀬君って顔がよく見えないからちょっと分かんねぇわ」

 そうだった。俺も永瀬がかっこいいことに気が付いたのは偶々だった。皆は放課後の永瀬だって知らないのだ。
 永瀬のカッコよさが理解されていない。悔しいような、反面嬉しいような、形容しがたい気分に俺はなった。



『今日なんだった?』

 いろいろと文面を考えた末、ようやくこの文面を送った。

 永瀬とラインを交換したのは、日本史の時間、普通に話せるようになった頃だった。いきなりラインを聞くのは距離を詰めすぎかと迷ったが、永瀬はインスタをやっていなかったので、DMを送ることもできない。勇気を出して俺から言いだしたのだ。
 そうして交換したはいいが、特にお互いメッセージを送り合うことはなかった。
 何となく俺はベッドの上で正座をして、既読マークがつくのを見守る。

 数分でポコ、と通知がきた。

『お前が蒼井さんのこと、勘違いしてるかもと思っただけ。付き合ってないから』

 あれ、そんだけ?

『そうなんだ』
『うん。大した話じゃないのにごめん』
『謝らなくていい。もしかして永瀬、すみれさんのこと狙ってた? 俺、ペラペラ喋って大丈夫だった?』
『狙ってない。昨日はたまたま帰りが一緒になっただけ』

 ということは何か。俺が、永瀬と蒼井さんの関係を誤解しているかもと思って、今日話しかけにきたのか。いつもは絶対にしないのに?
 何だか胸がざわざわする。どうしよう。

『週末、俺は右の真ん中あたりにいるから。見てくれたら嬉しい』

 その文面を見ると次は胸がきゅうっと痛くなってしまい、とても何か文章を入力できる気がしなかった。俺は何とか人気キャラクターが了解と言っているスタンプを送ったのだった。