「おれが、飾らない自分のままでいられるのって、@saki……アカリの前でだけなの。だから、突き放さないでくれると嬉し~って言うか、えっと……」
「そんなん、いきなり言われても重いって」
「あ~……重い……だよねぇ」
へらっといつものように笑った峯田だが、その目は寂しそうだった。
弐栖は親から音楽活動を反対されていると言ってたっけ、と唐突に思い出した。両親ともに高学歴で高収入な職に就いていて、歌手なんて将来性のない夢は支持できないと言われているとか。彼自身も小さな時から親のようになるのだと思ってきたのに、高校受験で失敗してから一気に自分がダメになったように思えた、と。誰かに自分を認めてほしくて、存在したことを残したくて、歌をネットにアップしはじめた、とも言っていた。
「……ってかお前、全然ダメじゃなくね?」
「だめじゃない?」
「認めてほしいとか言ってたけど、周りみんな峯田のこと認めてくれてるだろ」
いつも誰かに囲まれている峯田が、オレにはないものを全部持っているような彼が、今の状況を不満に感じているらしいということが不思議でならない。
「お前さぁ、受験に失敗したとか言ってたけど、オレにとってはここが第一志望だったんだよ。ここをくだらないと思って、レベルが違いすぎて周りと話が合わないとか思ってんなら――」
「あ、ごめ、違う。第一志望に落ちてここしか受からなくて。親から見たら、それって全然納得できなかったみたいでさ~。だめなやつだって、こんな風に育てたつもりはないって言われて、露骨に失望した顔されちゃって。それがトラウマなだけで、ここのみんなのことをそんな風に思ってない」
峯田は慌てて早口に弁解する。
「この学校、楽し〜よ。みんながおれを認めてくれてるっていうか、トモダチだって思ってくれてるのもわかってる。でもさ……これってすごい贅沢なことだってわかってるけど、あの子たちにとっては、こういうチャラくて派手っぽくて、女の子呼ぶネタになるようなおれに価値があるんであって、素のおれ、ネットで@sakiと話してる時みたいなおれは、求められてないから、それがちょっと……」
自分の顔の良さを自覚しているような発言が鼻につくけれど、本人は至って真面目に言い訳をしてくる。
――まあ、峯田なりに挫折があって、まだ吹っ切れてないってことか。
オレだって、親からそんな風に言われたらショックは大きい。それまでが良い子ちゃんだったんだとしたら、峯田にとっては幻滅されるのも初めての体験だったのだろう。
「意外と受け入れてくれるかもしれないだろ。見せてないもんは、認めるも認めないもない」
「それは……うん。かも。」
峯田は珍しく気後れしたような顔をする。
「でも、今更キャラ変も難しいって言うかさぁ」
「お前って、案外と頭でっかちだよな」
ごちゃごちゃ言っている峯田の頭を小突く。驚く彼に、オレは笑ってみせた。
「オレと比べたら、峯田はネットでもリアルでもそんなにキャラ変わんねぇよ」
「全然違うよ〜」
「違わねぇって。お前、なんだかんだ真面目じゃん。見た目はともかく、授業はちゃんと受けてて成績良いし、誰かを変な弄り方したりウザ絡みしてるとこも見たことない。そういうの見たらをさり気なく注意するだろ」
夜のダンス練習を学校の連中に見られた時、オレを馬鹿にする態度だったやつらを止めてくれたのは峯田だった。
そう言うと、峯田の大きな瞳が真ん丸になる。
「峯田って確かにチャラそうで苦手だったけど、元々嫌いだったわけじゃねぇよ。いいヤツなんだろうとは思ってた」
「そ……なの?」
「ただ、陽の者とは住んでる世界が違うと思ってたから、お近付きになりたくなかっただけ。意外と陰の部分もあんだなって思ったら、ちょっとだけ共感したわ」
「――そっか」
峯田は足元に視線を落としながら少し考えた後、まっすぐな視線でオレを見つめた。マスクの下で緩やかに微笑んだらしい彼の目が優しくなる。
「アサキ、これからもおれと友達続けてくれる?」
「いつから友達だったんだよ」
「え、違ったの? おれ、@sakiとは友達なんだと思ってたのに。これ片思いだったの?」
「だからァ、そういう言い方すんなって。勘違いするだろ」
自分がいつになく調子よく喋っている自覚はある。自分のことを棚に上げて偉そうだな、とも思った。でも、峯田の前だと肩肘張らずにいられる。
今現在、とても呼吸が楽だった。
同じような悩みを抱えていたのだと知れば、リアルの峯田に対する拒絶感もぐっと減った。元々嫌っていたわけではない。積極的に構ってくる人に慣れていないだけで、距離感さえ適切に保ってくれたら良いだけだ。そう答えれば、彼は嬉しそうにまた小指を絡めてくる。
「じゃ、約束。これからもよろしくねぇ」
「ちょ……だから顔近いっつの!」
「あはは、ごめ〜ん」
適切な距離感とは? と疑問に思うほどに顔を近付けてきた峯田は、まったく悪びれた様子なく笑った。
「そんなん、いきなり言われても重いって」
「あ~……重い……だよねぇ」
へらっといつものように笑った峯田だが、その目は寂しそうだった。
弐栖は親から音楽活動を反対されていると言ってたっけ、と唐突に思い出した。両親ともに高学歴で高収入な職に就いていて、歌手なんて将来性のない夢は支持できないと言われているとか。彼自身も小さな時から親のようになるのだと思ってきたのに、高校受験で失敗してから一気に自分がダメになったように思えた、と。誰かに自分を認めてほしくて、存在したことを残したくて、歌をネットにアップしはじめた、とも言っていた。
「……ってかお前、全然ダメじゃなくね?」
「だめじゃない?」
「認めてほしいとか言ってたけど、周りみんな峯田のこと認めてくれてるだろ」
いつも誰かに囲まれている峯田が、オレにはないものを全部持っているような彼が、今の状況を不満に感じているらしいということが不思議でならない。
「お前さぁ、受験に失敗したとか言ってたけど、オレにとってはここが第一志望だったんだよ。ここをくだらないと思って、レベルが違いすぎて周りと話が合わないとか思ってんなら――」
「あ、ごめ、違う。第一志望に落ちてここしか受からなくて。親から見たら、それって全然納得できなかったみたいでさ~。だめなやつだって、こんな風に育てたつもりはないって言われて、露骨に失望した顔されちゃって。それがトラウマなだけで、ここのみんなのことをそんな風に思ってない」
峯田は慌てて早口に弁解する。
「この学校、楽し〜よ。みんながおれを認めてくれてるっていうか、トモダチだって思ってくれてるのもわかってる。でもさ……これってすごい贅沢なことだってわかってるけど、あの子たちにとっては、こういうチャラくて派手っぽくて、女の子呼ぶネタになるようなおれに価値があるんであって、素のおれ、ネットで@sakiと話してる時みたいなおれは、求められてないから、それがちょっと……」
自分の顔の良さを自覚しているような発言が鼻につくけれど、本人は至って真面目に言い訳をしてくる。
――まあ、峯田なりに挫折があって、まだ吹っ切れてないってことか。
オレだって、親からそんな風に言われたらショックは大きい。それまでが良い子ちゃんだったんだとしたら、峯田にとっては幻滅されるのも初めての体験だったのだろう。
「意外と受け入れてくれるかもしれないだろ。見せてないもんは、認めるも認めないもない」
「それは……うん。かも。」
峯田は珍しく気後れしたような顔をする。
「でも、今更キャラ変も難しいって言うかさぁ」
「お前って、案外と頭でっかちだよな」
ごちゃごちゃ言っている峯田の頭を小突く。驚く彼に、オレは笑ってみせた。
「オレと比べたら、峯田はネットでもリアルでもそんなにキャラ変わんねぇよ」
「全然違うよ〜」
「違わねぇって。お前、なんだかんだ真面目じゃん。見た目はともかく、授業はちゃんと受けてて成績良いし、誰かを変な弄り方したりウザ絡みしてるとこも見たことない。そういうの見たらをさり気なく注意するだろ」
夜のダンス練習を学校の連中に見られた時、オレを馬鹿にする態度だったやつらを止めてくれたのは峯田だった。
そう言うと、峯田の大きな瞳が真ん丸になる。
「峯田って確かにチャラそうで苦手だったけど、元々嫌いだったわけじゃねぇよ。いいヤツなんだろうとは思ってた」
「そ……なの?」
「ただ、陽の者とは住んでる世界が違うと思ってたから、お近付きになりたくなかっただけ。意外と陰の部分もあんだなって思ったら、ちょっとだけ共感したわ」
「――そっか」
峯田は足元に視線を落としながら少し考えた後、まっすぐな視線でオレを見つめた。マスクの下で緩やかに微笑んだらしい彼の目が優しくなる。
「アサキ、これからもおれと友達続けてくれる?」
「いつから友達だったんだよ」
「え、違ったの? おれ、@sakiとは友達なんだと思ってたのに。これ片思いだったの?」
「だからァ、そういう言い方すんなって。勘違いするだろ」
自分がいつになく調子よく喋っている自覚はある。自分のことを棚に上げて偉そうだな、とも思った。でも、峯田の前だと肩肘張らずにいられる。
今現在、とても呼吸が楽だった。
同じような悩みを抱えていたのだと知れば、リアルの峯田に対する拒絶感もぐっと減った。元々嫌っていたわけではない。積極的に構ってくる人に慣れていないだけで、距離感さえ適切に保ってくれたら良いだけだ。そう答えれば、彼は嬉しそうにまた小指を絡めてくる。
「じゃ、約束。これからもよろしくねぇ」
「ちょ……だから顔近いっつの!」
「あはは、ごめ〜ん」
適切な距離感とは? と疑問に思うほどに顔を近付けてきた峯田は、まったく悪びれた様子なく笑った。

