秘密の僕らは、音で触れ合う。

 夜になり、ベッドの上に寝転がった体勢で届いた通知を見ていたオレは、とあるアイコンを見てスマホを放り投げた。慌ててキャッチしながら飛び起き、もう一度確認する。フォローされましたと通知されているそこにあったのは、弐栖のアイコンだった。

「え、マジ? 本人? うわっ、ガチじゃん!」

 彼のことはずっと応援していた。SNSのフォローもして、新作が上がればリポストしてきたし感想も毎回ポストしていた。しかし、弐栖から反応されたことはない。通知を切っているのか、そういう交流はしない主義なのだろうと思っていた。
 弐栖は、少なくとも活動アカウントでの交流を精力的にしてないようで、フォロー数は両手で足りるほどだった。そんな人からフォローしてもらえたことが信じられない。何度もフォロワーに彼がいることを確認して、スマホを握りしめる。
 彼から認識された切っ掛けが思い当たらないわけでもない。先日投稿した、今再生数が日に日に増えているあの動画。そこで使わせてもらったのが、弐栖がカバーしたバズり曲の音源だった。BGMの使用音源のURLもつけたから、なにかの拍子に気付いたのかも。

「無許可ってヤバかった?」

 今までの音源と同じく使用許可も取らずに使っていた。このフォローは好意的なものだと信じたい。でも推しに嫌われたくはない。慌ててDMを打つ。

『はじめまして、@saki(アサキ)と言います
 フォローありがとうございました
 以前から応援していたクリエーターさんにフォローしていただけると思っていなくて、今とても緊張してます
 事後承諾になりますが、先日3Tにアップした動画に、弐栖さんの歌ってみたを使わせてもらいました
 問題があるようならすぐに消しますので、ご連絡ください』

 これでは失礼か? もっと長く書いた方がいい? と悩みつつも、謝罪は一分でも早いほうがいいと覚悟を決めて送信する。怒っていたらどうしよう、とそわそわしながらベッドに転がっていると、数分後、すぐに返信があった。

『はじめまして
 DMありがとうございました
 弐栖です』

 初めにそれだけが送られてきた。画面を見ていると、続いてまた新しいメッセージが表示される。

『僕の歌ってみたを使ってくださっているの見ました』
『あんなにいっぱいの人に見てもらったのが初めてなのでドキドキしました』
『嬉しいです
 そのまま使ってください』

 弐栖は怒ってはいないようだ。その文面からは、素朴な印象が伝わってくる。

『今度使わせていただく時には許可取ります
 すみませんでした

 それから、この前の新曲、プレミア公開から見てました
 すごく良かったです
 爽やかで切なくて、気持ちのいいリズムで、聞いていて踊りたくなりました』

 いつか伝えたかったことも送ればまたすぐに返事がある。

『あの5人の中に@sakiさんもいたんですね
 聞いてくれる人がいてすごく安心しました
 ありがとうございます』
『初めてプレミア公開やってみたんですけど、有名曲のカバーでもないただのオリ曲だし、誰も来てくれなかったらどうしようと思ってました』
『前からフォローしてくださってたし、僕のあんな投稿とかあんな発言も見られてたのかな、って少し恥ずかしいです』

 ――あの時緊張してたんだ。
 あまりにも普通の反応に、むしろ好感を抱く。今までも彼のSNSを見ていたから、人の好さそうな部分は見えていた。弐栖は年齢公開してないけれど、日常話的に彼も学生っぽくある。そうなると年齢が気になるところだけれど、初回から聞いていいものでもないだろうとグッと我慢する。
 弐栖のオリジナル曲が好きで、何度も何度もリプレイしてたと伝えればすごく喜んでくれた。つたない感想にもいちいち嬉しそうな言葉を返してくれて嬉しい。交流は好きじゃないんだと思っていたから、この反応は意外だった。
 調子に乗って、ついついチャットのようにDMを送ってしまい、一時間ほどやり取りを続けてしまった。言葉のやりとりが増えるたび、大好きな人にちょっとだけ近付けたようでテンションが上がる。遅くなったから寝る、と言い出した弐栖に合わせてオレも寝ることにした。
 と言っても、興奮していてなかなか寝られそうにない。DMのやり取りを見返しながら、にやける顔を抑えられない。その日は、これまで感じたことのない満足感とともに、気付いたらスマホを握ったまま寝落ちした。