秘密の僕らは、音で触れ合う。

 夜、眞の家で彼が適当に作ったというパスタで晩御飯を終わらせ、二人並んでパソコンの前に陣取る。

「わ、再生数ヤバい! っていうか、あれ? おれの方も登録者増えてる? フォロワーも、増えてるみたい」

 自分のチャンネルとSNSを確認した眞は目を丸くする。

「プチバズってやつだな。一時的に増えんの。でも、飽きられないようにいるのが大変っつーか」

 今回は、ダンスについてだけではなく曲についても触れられていることが多い。これは誰の歌だ? と二栖に興味を持った人がそこそこいたようだ。

「お前、単に見つかってないだけだったんだよ」
「え、違うよ。これは全部アカリの――」

 そんな話をしていると、眞のスマホが鳴った。画面にDMの通知が出ている。見てはいけないものだと判断したオレは背中を向ける。しかし、すぐに眞が変な声を出した。

「え? あ……え!?」
「どうした?」

 動揺している様子が気になって声をかけると眞はスマホを見せてきた。表示されているDMは、界隈ではそれなりの知名度があるダンサーからのものだった。

「Z4Tさん?」
「この人、有名?」
「オレなんて足元にも及ばない」
「へー、そうなんだ」

 そう言いながらも、眞の眉のあたりには困惑が漂っている。
 内容は、オレとのコラボを見たということと、弐栖が@sakiをイメージした楽曲だと知って、良ければ自分ともコラボをお願いできないか、というものだった。
 有名無名にかかわらず、Z4Tが多くの人とコラボしているのは知っている。オレの動画が流れてきて、弐栖のことを知ったのだろう。自分のイメソンで踊れるなんて、一部の人間からしたら羨ましいに違いない。しかも、オレみたいな無名にも曲提供するなら、仕事として依頼をすれば受けてもらえるかも、と思う人がいるのは理解できる。眞だって、多少なりとも実入りがあれば嬉しいだろう。オレよりも魅力的なダンサーがいたら、インスピレーションだっていくらでも湧くだろう。
 そんなことを考えていると、胸がチクチク痛んでくる。
 ――オレ以外ともコラボすんのかな……
 ああやって楽しそうに、そいつのことだけを考えてメロディと言葉を綴るのだろうか。
 ――嫌だな。
 ぽん、と頭にそんな言葉が浮かんだ。
 ――もっと気の合うヤツがいたら、そいつとずっと組んだり?
 嫌だ、とまた思う。なのに「これからこういうの増えるんじゃね?」なんて言葉が出た。

「なんで?」

 眞は驚いたように目を丸くする。

「自分のイメソンなんて作ってもらえる人多くないだろ。だから」
「おれ、@sakiの曲しか作らないよ」

 彼の言葉に、時間が止まる。
 ――弐栖は、@sakiだけ見てればいい。
 そんな傲慢な想いが沸き起こる。眞の隣にいるのはオレがいいという気持ちはどんどん膨らむ。でも、みっともなくて口に出来ない。
 オレの気持ちを知らず、彼はコラボを断るなんて言い出した。勿体ないと口からは出るが、頭の深い所には嬉しさしかない。同時に、強い独占欲と、それに類似したものを自覚する。

「おれにはアカリだけだから」

 笑顔で言う眞を、堪らず抱き締める。

「オレも。隣、ほかのヤツじゃ嫌だ」
「それって……」
「ごめん、独占欲」
「ふ……っ」

 小さく息を吐いた眞が、抱き返してくる。くつくつと笑いながら、胸に顔に押し当ててきながら続ける。

「おれ、初めてアカリのダンス見た時から、恋してた。やっと届いたって思ってい~い?」
「ん」
「ほんと好き。大好きだよ」

 視線を合わせてきた眞の表情は妙にあどけなくて、本心なのだろうと信じられた。目を伏せて、顔を寄せてくる眞の意図はわかる。今更、逃げる気もなかった。

「すきだよ」

 囁いて、首を傾けた眞と唇が重なる。しかし、ガチッと硬い音がして、痛みが走った。

「いってぇ……」
「……歯……」

 格好がつかなくて、一緒に笑い出す。

「お前、キスしたことないって本当だったのか?」
「ほんとだって言ったでしょ。もう、やだこんなの。やり直す」
「もうそんなムードじゃねぇって」

 駄々をこねるように言った眞の頭を落ち着かせようと思って撫でる。しかし彼は、余計に気分を損ねたようだった。

「アカリって、おれのこと抱きたいの?」
「は? なんの話――」
「おれは、ずっとアカリのこと抱くこと想像してたの。これは譲れない」

 ――ここでキスを許したら貞操の危機なのでは?
 まだそこまでの覚悟の持てなかったオレは、数歩後退って逃げようとして、逆に縋ってきた眞に押し倒されることになった。