秘密の僕らは、音で触れ合う。

 その週末「親いないから、気楽に遊びにおいでよ」と誘われて行った峯田の家は、立派なマンションだった。
 しかも――

「お前、一人暮らしなの?!」
「うん。おれみたいな落ちこぼれは、さっさと自立しろって。二人揃って海外に行っちゃったんだ〜」
「それで悠々自適な一人暮らしかよ、羨まし」
「まぁねぇ。だから、好きなだけ音楽やってる~」

 高校生の一人暮らしなのに、オートロックで2Kのマンション。ありえない。
 部屋は、リビング兼寝室と、作業場所として使い分けているらしい。元々防音はしっかりしていそうなマンションだったが、見せてもらった作業室は壁に防音材が貼られていて、見たこともない機材が並んでいた。

「なんだこれ」
「作曲したり、ミックスしたりするやつ」
「適当だな」
「細かいこと言ってもわからないでしょ?」

 峯田はそう言って笑う。確かに、細かな機材名を言われても何に使うものがさっぱりわからない。峯田に対してステップの名前をずらずら並べてダンスについて熱心に語ったところで、経験のない彼には通じないだろう。つまり、そういうことだった。

「音楽活動、嫌がられてるんじゃなかったのか?」
「うん。反対されてる。だから、この部屋見られたらヤバ〜い。見つかったら、全部捨てられちゃうかも」
 
 その辺りに関してはもはや開き直っているのか、峯田はそんなふうに言って笑う。ここはあくまでも峯田の一人暮らし用に手配された部屋であって、両親が一時帰国した時にも、ここに顔を出すことはまずないそうだ。
 
「この機材は?」
「今までのお年玉貯めてたのとか、バイトして買った~」
「……金持ちめ……」

 峯田の親と顔を合わせることが絶対にないとわかってホッとする。友達の親に会うなんてただでさえ緊張するのに、それが立派な仕事をしているお堅い人となったら、対面することを想像しただけで胃が痛くなりそうだ。

「っていうか」

 気の抜けた俺は、目の前の峯田を改めて見る。
 さすがに自宅ではマスクを外している彼の素顔は、想像以上のイケメンだった。

「お前、ガチのイケメンじゃん」
「そんなことないよぉ」

 じっと見ていたせいか、峯田は少し恥ずかしそうに顔を背ける。その横顔も鼻が高く、唇や耳の形まで綺麗だ。

「いや、モデルとかアイドルのオーディション番組の最終選考まで残りそう」
「なにそれ」

 あんまり見ないで、と顔の前に手を出した峯田が珍しくて、その手首を取ってさげさせる。

「ってか、お前ってピアスの穴空いてなかったんだな」
「アカリはいっぱいあいてるんだね。おれが学校でつけてるのは、マグネットピアスとかノンホールのなんだぁ」

 手首を掴んだオレに対抗するように、彼はオレのピアスの辺りに触れる。すりすりと耳朶を撫でられていると変な気分になってくる。あんまり触るなと振り払えば、峯田は緩やかに笑みを浮かべた。

「それ、学校内で知ってるのきっとおれだけだよね」
「オレのピアス?」
「うん。アカリがめっちゃくちゃ格好イイの知ってるのも、おれだけだよね。なんか優越感~」
「褒めてもなんも出ないぞ」

 真正面から褒められると照れる。赤くなった顔を見られないように頭を掻く。
 アクセサリーをつけていない峯田は、シンプルなファッションで普段より落ち着いて見える。対してオレは、プライベートだから好きなようにピアスもつけているし、制服と違って緩い服装だった。

「アカリ、私服だとそんな感じなんだね。普段と真逆だぁ」
「あー、そうかもな」

 そこで、前から気になっていたことを確認するなら今なんじゃないか? と唐突に思い立つ。今なら二人きりだし、彼の部屋だから誰かに邪魔されることもない。

「……峯田ってさぁ」
「シンって呼んでよぉ」
「眞ってさあ」
「なぁに?」

 オレは、彼をリビングのソファーのところまで引っ張っていく。隣合って座り、じっと目を見ると、眞は戸惑うように瞬きの回数を増やした。

「え? なになに?」
「お前、日焼けしてるように見せるメイクしてるって言ってたよな?」
「うん、それがどうかし――」
「どこまでその色にしてんの?」
「……へ?」

 メイク用品は安くない。腕も、眞は半袖はまだ着ていないから全部塗っていないのではないだろうか。身体も、多分塗っていないだろう。

「見せて」
「え? ちょ、アカリ?!」

 少し強引に袖を捲ると、肘の辺りで色が変わっている。

「あ、本当に白いんだな」
「そう言ってるじゃん、っていうか、身体は塗ってないよ。それで良いでしょ」

 続けてカットソーを捲ると、白い肌と臍が見えた。なんとなく触ると、あまり鍛えてはいないようで柔らく滑らかな肌だった。痩せているから、うっすらと筋肉が見える。軽く押してみると、腹筋に力が入った。
 
「も、やめて、くすぐった……」
「なんか、歌う人も鍛えてる人時々いるけど、眞は違うんだな」
「アカリ!」

 触り心地の良い肌、と撫でていたのがよほどくすぐったかったのか、眞はオレの手を振り払ってカットソーを下げる。睨んでくる目は潤んでいて、頬は真っ赤だった。

「あ、ごめん。筋肉とかつい気になって」
「……ズルい」

 眞はぽつりと呟いて、顔を寄せてきた。

「アカリばっかり触ったの、ズルい」
「は?」
「おれもアカリに触りたい」
「はぁ?!」

 じとっとした目の眞は、押し倒そうとするかのようにぐいぐい迫ってくる。後ろに下がろうとするが、肘置きに邪魔されてそれ以上動けなかった。