放課後になるとさすがに市野も回復したので、学校を案内してやることにした。森と安田は部活に行ったが、俺は帰宅部なので時間はたっぷりある。
「市野は入りたい部活ある? 今日から勧誘期間だから部室棟案内するよ」
「漫画研究会! 絶対漫研一択!」
市野がノータイムで答えた。
「残念なお知らせだけど、うち文化部は音楽系と演劇部しかないんだよな」
いわゆるガチな部活ばかりで、俺のような趣味なし特技なしの凡人には水が合わない。そのせいか帰宅部の生徒も多い。
「えっ、俺の青春が、仲間とすごすオタクライフが……」
市野がショックを受けている。
「そう気を落とすなって。俺でよければオタトークいくらでも聞くし」
「いいの?」
「うん、他にも困ったことあったら何でも相談しろよ」
「じゃあ、湊って呼んでほしい!」
どうやら市野は受け答えが絶妙にずれている。
「いいよ」
「あと、鶉坂君のこともナツって呼んでいい?」
珍しい苗字ゆえ、友達は皆俺をウズラと呼ぶ。やっぱりこいつは変わっている。
「いいよ、湊」
「やった! ナツ、ありがと」
強引でマイペースなところはあるけれど、素直で明るい奴だと思った。
「湊は前の学校では漫研入ってたの?」
「ううん。ずっと肺の病気で入院しててほとんど学校行ったことないから」
衝撃の発言にあっけにとられた。何と言えばいいか戸惑っていたら市野が続ける。
「あ、でも手術したからもう完治してるよ。だから、体育とか水泳とかも平気。人よりちょっと体調崩しやすいけど」
「そうなんだ……、一応保健室の場所教えとくわ」
「ありがと、やっぱりナツは優しいね」
保健室をはじめ、主要な移動教室先を案内した。
「結構歩いたけど、体平気? 大丈夫そうだったら、学校の周りも案内しようか?」
「嬉しい! 俺、友達と寄り道すんの憧れてたんだよね。いっぱい歩いたらおなかすいたから買い食いしてみたいんだけどいい?」
「じゃあ、商店街寄ってくか。何食いたい?」
「甘い物! 糖分補給大事」
「じゃあ鯛焼き食うか」
さっそく商店街へと向かう。商店街に入って少し歩くと、湊は立ち止まった。
「どうした?」
「俺、あれやりたい」
湊がゲームセンターの入り口に置いてあるUFOキャッチャーを指さす。「暗闇で光る!」と書かれたポップが妙に目を引いた。キーホルダーと呼ぶには大きすぎる掌にちょうど乗るくらいの猫のマスコットが山積みになっていて、近隣の進学校のカップルが挑戦している。
「腹減ってんじゃねえの?」
「お願い、一回だけ!」
湊が手を合わせる。子供みたいに目を輝かせて頼まれたら、ノーとは言えない。
「ほら、空いたぞ。行ってこい」
カップルが諦めたようなので合図してやった。湊は前と横からガラス張りの筐体を見たあと、アームの大きさを確認した。お金を入れて、ボタンを押してアームを移動させる。その動きには迷いがなかった。アームが景品の山に突っ込む。二本の爪には一個ずつマスコットが引っ掛かっていた。そのままアームは順調にマスコットを穴へと運び、見事二つともゲットした。
「やったー!」
湊が大喜びでハイタッチを求めて来る。手を挙げてそれに応えた。ここまで楽しそうだと、見ているこっちまで楽しくなってくる。
「お前すげえな。まさか初めてで取れたの?」
「うん。正真正銘人生初ゲーセン」
「ヤバ、天才じゃん」
「えー、照れるー」
バスケで謎の動きをしていた時とは別人に見える。一芸に秀でたやつはたとえそれがゲームでもかっこよく見える。
「これナツにあげる。学校と商店街案内してくれたお礼」
突然マスコット二個のうち一個を手渡された。
「いや、せっかく初めてとったんだし記念に持っとけよ」
「じゃあ、初めて友達とゲーセン行った記念ってことでナツが持ってて」
本当に強引な奴だ。でも、その強引さが嫌ではない。
「じゃあありがたくもらっとくわ。サンキューな」
マスコットはさっそく鞄に取り付けた。湊も同じ場所につけていた。
結局そのあと何種類かゲームをして解散になった。音ゲーやエアホッケーは壊滅的に下手だったが、ずっと楽しそうだった。
「あ、鯛焼き買うの忘れてんじゃん」
家の近くまで帰ってきてからようやく気付いた。でも、そんなことも忘れるくらいに俺も楽しかった。こんなに楽しいと感じたのは本当に久しぶりだった。
日が落ちて、鞄のマスコットがライトグリーンの光を放ち始めていた。笑顔でハイタッチを求める湊の顔を思い出した。
「市野は入りたい部活ある? 今日から勧誘期間だから部室棟案内するよ」
「漫画研究会! 絶対漫研一択!」
市野がノータイムで答えた。
「残念なお知らせだけど、うち文化部は音楽系と演劇部しかないんだよな」
いわゆるガチな部活ばかりで、俺のような趣味なし特技なしの凡人には水が合わない。そのせいか帰宅部の生徒も多い。
「えっ、俺の青春が、仲間とすごすオタクライフが……」
市野がショックを受けている。
「そう気を落とすなって。俺でよければオタトークいくらでも聞くし」
「いいの?」
「うん、他にも困ったことあったら何でも相談しろよ」
「じゃあ、湊って呼んでほしい!」
どうやら市野は受け答えが絶妙にずれている。
「いいよ」
「あと、鶉坂君のこともナツって呼んでいい?」
珍しい苗字ゆえ、友達は皆俺をウズラと呼ぶ。やっぱりこいつは変わっている。
「いいよ、湊」
「やった! ナツ、ありがと」
強引でマイペースなところはあるけれど、素直で明るい奴だと思った。
「湊は前の学校では漫研入ってたの?」
「ううん。ずっと肺の病気で入院しててほとんど学校行ったことないから」
衝撃の発言にあっけにとられた。何と言えばいいか戸惑っていたら市野が続ける。
「あ、でも手術したからもう完治してるよ。だから、体育とか水泳とかも平気。人よりちょっと体調崩しやすいけど」
「そうなんだ……、一応保健室の場所教えとくわ」
「ありがと、やっぱりナツは優しいね」
保健室をはじめ、主要な移動教室先を案内した。
「結構歩いたけど、体平気? 大丈夫そうだったら、学校の周りも案内しようか?」
「嬉しい! 俺、友達と寄り道すんの憧れてたんだよね。いっぱい歩いたらおなかすいたから買い食いしてみたいんだけどいい?」
「じゃあ、商店街寄ってくか。何食いたい?」
「甘い物! 糖分補給大事」
「じゃあ鯛焼き食うか」
さっそく商店街へと向かう。商店街に入って少し歩くと、湊は立ち止まった。
「どうした?」
「俺、あれやりたい」
湊がゲームセンターの入り口に置いてあるUFOキャッチャーを指さす。「暗闇で光る!」と書かれたポップが妙に目を引いた。キーホルダーと呼ぶには大きすぎる掌にちょうど乗るくらいの猫のマスコットが山積みになっていて、近隣の進学校のカップルが挑戦している。
「腹減ってんじゃねえの?」
「お願い、一回だけ!」
湊が手を合わせる。子供みたいに目を輝かせて頼まれたら、ノーとは言えない。
「ほら、空いたぞ。行ってこい」
カップルが諦めたようなので合図してやった。湊は前と横からガラス張りの筐体を見たあと、アームの大きさを確認した。お金を入れて、ボタンを押してアームを移動させる。その動きには迷いがなかった。アームが景品の山に突っ込む。二本の爪には一個ずつマスコットが引っ掛かっていた。そのままアームは順調にマスコットを穴へと運び、見事二つともゲットした。
「やったー!」
湊が大喜びでハイタッチを求めて来る。手を挙げてそれに応えた。ここまで楽しそうだと、見ているこっちまで楽しくなってくる。
「お前すげえな。まさか初めてで取れたの?」
「うん。正真正銘人生初ゲーセン」
「ヤバ、天才じゃん」
「えー、照れるー」
バスケで謎の動きをしていた時とは別人に見える。一芸に秀でたやつはたとえそれがゲームでもかっこよく見える。
「これナツにあげる。学校と商店街案内してくれたお礼」
突然マスコット二個のうち一個を手渡された。
「いや、せっかく初めてとったんだし記念に持っとけよ」
「じゃあ、初めて友達とゲーセン行った記念ってことでナツが持ってて」
本当に強引な奴だ。でも、その強引さが嫌ではない。
「じゃあありがたくもらっとくわ。サンキューな」
マスコットはさっそく鞄に取り付けた。湊も同じ場所につけていた。
結局そのあと何種類かゲームをして解散になった。音ゲーやエアホッケーは壊滅的に下手だったが、ずっと楽しそうだった。
「あ、鯛焼き買うの忘れてんじゃん」
家の近くまで帰ってきてからようやく気付いた。でも、そんなことも忘れるくらいに俺も楽しかった。こんなに楽しいと感じたのは本当に久しぶりだった。
日が落ちて、鞄のマスコットがライトグリーンの光を放ち始めていた。笑顔でハイタッチを求める湊の顔を思い出した。



