雪と記号とスタンプ

雪が降った。 「今、雪が降ってる」 二週間かけて綴った長文を、画面の奥へ放る。

二分後。 「❄️」 彼女からの返信は、その一文字に等しい記号のみだった。

ファミレス。 「文字打つの、苦手なんだよね」 彼女は笑い、隣の男に長文を返した。 「……頼ってね!」 光る画面。男は頷く。俺は、その一行に満たない存在だった。

彼女のスマホが鳴る。東京の男からの通知。 彼女が席を立つ。 覗き込んだ画面には、彼女が打った長文があった。 「……彼には、このモヤモヤを理解してもらえない気がして」 手が震えた。 俺の言葉は、届く前に死んでいた。

一か月、無音。

同窓会。居酒屋の隅。 彼女が歩み寄る。 唇が動く。言葉が形を成そうとする、その刹那。 俺はスマホの電源を落とした。 暗転。 「……ごめん」 一言だけ。背後で何かが崩れる音がしたが、振り返らなかった。

深夜。自室。 電源を入れる。青い光。 長文は、もう打たない。 彼女が一度も使ったことのない、無表情に手を振るスタンプ。 それだけを、送る。 非表示。 完了。

翌朝。 彼女の指は、メッセージ入力欄で止まったまま。 遡る履歴。 切実な長文の列。 その下に置かれた、自分の、冷たい記号の数々。

「あのスタンプは何のつもり?」 打っては、消す。 「ごめん」 打っては、消す。

画面には、彼が投げた最後のスタンプだけが、静かに手を振っていた。 彼女は、届くはずのない返信を、待ち続ける。