フィーネの旋律

 学園祭の日が、とうとうやってきた。頭上には、雲ひとつない青空。朝から校内は、生徒たちのざわめきで満ちていて、空気まで小躍りしているようだった。

 音楽室では、演奏メンバーが準備に取りかかっていた。赤城先輩たちの八重奏グループは、コンクールの予行演習に向けて、真剣な表情で楽器を調整している。わたしはというと、高円寺先輩と麗先輩のそばで、落ち着かない気持ちを抱えながら立っていた。

「あっ、あの……もう一度、リハーサルしてもよろしいでしょうか」

 声が少し震えてしまった。高円寺先輩が、わたしの顔を見て言う。

「だいぶ緊張しているみたいだな、花宮」
「あっ、はい……うまく演奏できるかどうか、不安で……」
「大丈夫だ。俺と麗がリードするから、いつもの君の演奏で十分だ。ここ最近、ぐんと上達しているし、自分を信じて堂々と吹けばいい」

 高円寺先輩は白い歯を見せて笑った。その笑顔は、わたしを気遣ってくれているように思えた。

 音楽室の窓から校庭を見下ろすと、放送部のナレーションが流れていて、イベントが次々と進行していた。ダンス部の「ダンシングヒーロー」、空手部の組合演武、コーラス部の「旅立ちの日」と「モルダウ」――どれも盛況。でも、ラグビー部の女装コンテストだけは、別格の盛り上がりだった。

 そんな喧騒から離れようと思い、わたしはひとり、屋上へ向かった。城西高等学校の中でいちばん高い場所。

 風が澄んでいて、空が近くて、深呼吸すると胸の奥まですっと通る空気が流れている。空を仰いで、そっとつぶやく。

「千賀先輩、今日はきっと高円寺先輩と一緒に演奏できますよ。フルートを教えてくださった千賀先輩への恩返しのつもりです」

 陽が傾いて、空に淡い橙色が混じり始めた頃、わたしは演奏の準備のために屋上を後にした。最後に一度だけ振り返って、山麓を背にした千賀先輩の姿を、心の中に思い描いた。